業界への介入制度、とりわけグレート・ブリティッシュ・ボーナス(Great British Bonus:GBB)の重要性が、最新の英国サラブレッド生産界の経済影響調査報告書(Economic Impact Study)で力説されている。GBBは牡駒と牝駒の平均価格の差を縮めるのに貢献したのだ。
この経済影響調査報告書は2014年と2018年の報告書に基づいて作成されたものであり、1月18日(水)に発表された。サラブレッド生産者協会(Thoroughbred Breeders Association: TBA)の委託を受けプライスウォーターハウス・クーパーズ社(PricewaterhouseCoopers: PwC)が作成し、競馬賭事賦課公社(Levy Board: 賦課公社)と競馬財団(Racing Foundation)が資金提供を行った。
ブレグジット(英国のEU離脱)や新型コロナ感染拡大のような予期せぬ出来事の影響を認めながらも、英国の生産界が地方経済に3億7,500万ポンド(約600億円)以上の粗付加価値の影響をもたらしていることを、この調査は明らかにした。
また、収益性に関する継続的な問題が生産界にとって根強い悩みの種であることが示されている。とりわけ市場の中間層と下位層にいる小規模な生産者が撤退し続けており、英国で繋養されている繁殖牝馬の頭数は2021年には2017年から824頭減少して8,191頭になったと言われている。それゆえ、資産の減少を逆転させようとするGBBのようなスキームが重要なのである。
GBBは平地・障害の英国産牝馬の生産者と馬主を対象とした賞金制度である。各牝馬の馬主・生産者・関係者は、英国で施行される指定レースを勝つごとに最大2万ポンド(約320万円)を受け取ることができる。GBBではこれまで900万ポンド(約14億4,000万円)以上を支出している。
TBAのジュリアン・リッチモンド-ワトソン会長はこう語った。「GBBは功を奏しています。昔から牡駒の価格は牝駒より30%高かったのですが、GBBが開始されてからその差が16%低下しました」。
「資金調達の点ではGBBへの登録料が合計で約100万ポンド(約1億6,000万円)となり、賦課公社が350万ポンド(約5億6,000万円)を支出しています。今後も賦課公社が支援を続ける可能性は十分にあります」。
賦課公社のCEOアラン・デルモンテ氏はこう語った。「賦課公社は、英国生産界の現状に光を当てる一連の調査の最新報告書の作成に積極的に資金提供を行ってきました。サラブレッドの血統の改良は賦課公社の組織目標の1つに規定されており、その達成には生産界が健全である必要があります」。
「賦課公社はさまざまなイニシアティブを通じて業界をサポートしており、中でも最もよく知られているのが好評のGBB賞金制度です。これは特に英国産馬の生産者と馬主に報酬を与えるものです」。
わずか1~2頭の繁殖牝馬しか所有しない生産者が英国産馬の80%を生産している。そしてそのような生産者の数は2009年以降、3,764人から35%減少して2,426人になっていると報告されている。
2021年に1歳馬を生産することよる損失の平均値は3万1,000ポンド(約496万円)、当歳馬では2万6,000ポンド(約416万円)だった。TBAのフィリップ・ニュートン副会長はこう認めた。「小規模な生産者を失いつつあります。長期的にこのような損失を出し続けると、生産界は持ちこたえられるでしょうか?」
「この調査はこれまでで最も掘り下げたものです。130件の詳細調査と20件の詳細インタビューが行われ、1,500万点以上のデータポイントが分析されました」。
「生産界では収益性が低下し続けていますが、それでもまだ英国の重要な産業なのです。BHA(英国競馬統括機構)は調査を歓迎しており、その点を理解しています」。
TBAのCEOクレア・シェパード氏はこう語った。「主要指標で長期化している低下傾向は依然として懸念材料であり続けています。しかし2022年の英国馬の生産頭数の上昇や、GBBが馬の購買価格や馬主の収益に与えているプラスの影響など、将来への希望の兆しも見えています」。
「この報告書はインセンティブと戦略的介入が功を奏することを実証しています。私たちはここから学び、競馬界の新戦略の一環として、とりわけ生産者、そして競馬界全体の支持を得て計画を進めなければなりません」。
By Bloodstock World staff
(1ポンド=約160円)
(関連記事)海外競馬情報 2020年No.6「生産界に希望をもたらす牝馬対象のボーナス制度(イギリス)」
[Racing Post 2023年1月18日「'We must learn from this' - TBA Economic Impact Study a blueprint for progress」]