陰鬱なグレーの空から雨が激しく降りそそぎ突風がグッドウッドを吹き抜ける中、スチールバンドが思い切ってまず『ラブミーテンダー』から演奏し始めた。この状況では予想外のことだった。だがサセックスS(G1 8月2日)でのパディントンの勝利は予想外とは言えまい。驚きだったのはライアン・ムーア騎手の勝利後の発言だ。
パディントンはパディントンらしいことを成し遂げ、またしてもG1勝利を果たし、私たちに"別格のサラブレッドを目にしているのだ"という感情を湧き立たせた。今回は距離をマイルに戻し、ひどい馬場状態での戦いだったが、G1・4連勝が達成されることになった。次は英インターナショナルS(G1 ヨーク)で彼を見られることに期待したい。そして10月の最初の日曜日にロンシャンで見る可能性も除外してはならない。
エクリプスS(G1 7月8日 サンダウン)のあとの祝賀会で、馬主の1人マイケル・テイバー氏は"パディントン(父シユーニ)は凱旋門賞(G1)を狙うのにふさわしい馬なのだろうか?"という疑問を口にしていた。すでにマイル戦のサセックスSに出走登録されていたパディントンにとっては大胆すぎる願望に思えたが、ばかげた発想でもなかった。私たちは今それが妥当であり可能性があることを知っている。
欧州最高峰のレース、凱旋門賞をパディントンが制覇することについて15倍というオッズがつけられている。しかしテイバー氏が所有するブックメーカー、ベットビクター(BetVictor)は9倍としており、これは7月28日のキングジョージで残念なパフォーマンスを見せたオーギュストロダンの半分である。クールモアのM・V・マグニア氏の発言や、より正確にはムーア騎手の発言により人気が下がることはないだろう。マグニア氏はまず、バリードイルのもう1人の主要ジョッキーが述べた意見についていくつかの洞察を与えた。
「シーミー・ヘファナンはパディントンが2歳のとき、"とてもいい馬だ"といつも言っていました。冬のあいだもずっと、"立派な馬だ"と話していましたね。愛2000ギニー(G1)の前は、"この馬は自動車だ"と形容していました。そしてレース後に私のところにやって来て"それほどでもなければ私の判断力は衰えたことになりますね"と言ったのです。シーミーに公正を期して言うならば、彼の判断力は冴えていて100%正しかったですね」。
マグニア氏の話題はオブライエン厩舎の長年のナンバー2ジョッキーから誰もが認めるナンバー1ジョッキーに移った。「ライアンはパディントンから下馬して『彼にとって馬場も距離も問題ではありません。ちょっと愚かに聞こえるかもしれませんが、この馬は凱旋門賞を勝てますよ』と言ったのです」。
それがムーア騎手の考えだったが、マグニア氏がそれを狂気の沙汰だと思った気配はなかった。
マグニア氏は「凱旋門賞はまだ先ですが、もちろん選択肢のひとつです。それまでに英インターナショナルS(8月23日)を考えています。先日のキングジョージ後のオーギュストロダンの様子も見てみたいです。それから考えることになりますね」と述べた。
ムーア騎手はウィナーズサークルでパディントンのことについて話しているときに、自身の凱旋門賞についてのコメントにマグニア氏が賛同したことを記者から聞かされた。彼は微かに笑みを浮かべて「そんなこと言いましたっけ?」と言い、さらなる質問に対して「まあ、驚異的な馬ですよ」と答えた。
彼が間違っていると思い込む理由はない。パディントンは信じられないほど貴重なアスリートだ。
By Lee Mottershead
(1ポンド=約180円)
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[Racing Post 2023年8月2日「'This horse could win the Arc' - Paddington's owners given food for thought」]