騎手たちからの競馬場へのサウナ再導入を求める声が高まる中、BHA(英国競馬統括機構)は8月9日(木)、この要求に応じなかった。
騎手たちは長年にわたり、競走当日に体重を落とすために競馬場のサウナを頻繁に利用してきた。しかしコロナ禍でサウナへの出入りが禁止され、2021年には競馬場での使用が永久禁止となった。
最近、サウナの再導入を求める声が高まっている。多くの平地レースに騎乗するベン・カーチス騎手は8月9日(水)、サウナ使用は安全なものであり、サウナを撤去してしまうという決定は騎手に害を及ぼすと述べ、こうツイートした。
「大多数のジョッキーは毎日ではないにせよ、大量に汗をかいてから騎乗しています。それは騎手のキャリアの本質的な部分であり、常識が優先されなければなりません」。
昨年の英ダービー(G1)をデザートクラウンで制したリチャード・キングスコート騎手は、「負担重量が引き上げられたと言っても、ジョッキーは常に汗をかく必要があります。最も容易な方法でそれを行えるような設備を求めているだけです」と語った。
一流ジョッキーのニール・カラン騎手とトム・マーカンド騎手もまた、最近この問題を提起している。しかしBHAのスポークスマンはこう語った。「英国の競馬場では新型コロナの感染拡大時からすでに、サウナは使われなくなってきています。2021年11月に、BHA・騎手協会(PJA)・競馬場協会(RCA)はサウナを完全に撤去するべきであることに合意しました」。
「これは騎手の健康と安全を考えて取られた措置であると同時に、検量室を近代化して必要なスペースを設けるためでもありました。女性騎手の更衣室を現代に適したものとし、競馬場の安全対策の水準を引き上げるといったようなことです。現在、英国の競馬場ではすべてのサウナが撤去または閉鎖されています」。
「もちろん、体重管理がジョッキーにとって極めて重要な問題であることは認識しています。昨年PJAなど数々の団体と協議して、3ポンド(約1.36 kg)の加算重量を廃止し、その代わりにレースカードに記載される負担重量は2ポンド(約0.91kg)引き上げることに合意しました。さらに、4ポンド(約1.82 kg)に引き上げた安全加算重量を導入しました」。
「また、PJAなどの団体と密接に取り組んで、騎手の身体と精神の健全性をよりよく支えるために、体重管理に対する長期的かつ継続できるアプローチを模索してきました」。
RCAのウィルフ・ウォルシュ会長は、サウナ禁止の決定を擁護すると同時に、また騎手の体重管理の問題に対処するための永続的な方法が必要であると示唆した。
BHAの理事会メンバーでもあるウォルシュ氏はこう語った。「サウナの再導入は単なる応急処置であり、より広範にわたる身体と精神の健全性に関する問題への解決策ではありません。これははるかに重要な問題ですから、PJAがふってわいたような調査をしてサウナの再導入をすれば済むというような話ではないのです。それにPJAがサウナ撤去を了承したのはつい最近のことです」。
「生物学的にも遺伝学的にも人間の体重が増加しているという事実をめぐって逡巡し続けることはできません。継続できる解決策が必要であり、単にサウナを再導入するだけでは解決にはなりません」。
BHAは今後考えられる変更措置についても研究を行っている。この研究では、サウナが以前閉鎖されたときのように負担重量の軽減や、最低負担重量の引き上げなどについても検討される。また、脱水状態が反応時間や体力に及ぼす影響についても評価されるようだ。脱水状態下では反応時間が遅れると言われているので、そうした状態での騎乗がサウナ使用をめぐる主な安全上の懸念である。
ウォルシュ会長はこう続けた。「私たちは長期的に継続できる解決策を見出したいと思います。だからこそかなり本格的な研究に着手しているのです」。
「これは競走馬とジョッキーの健康と幸福に関わることです。そのため、これらの問題についてPJAがジョッキーたちを代弁してきたやり方については、とても不満を感じているのです。長期的な解決策が必要なのです。それが安全加算重量の導入であれ、最低負担重量の引き上げであれ、私は個人的に賛成しています」。
By James Stevens
騎手協会、BHAに対してサウナ閉鎖について再考を求める
騎手協会(PJA)はBHA(英国競馬統括機構)と競馬場に対し、サウナに対するスタンスを再考するように求めた。現在騎手のあいだではこのテーマをめぐって抗議の声が高まっている。しかしBHAは先週、その圧力には屈しないと述べた。
PJAは8月15日(火)に声明を出し、BHAに再考を求めた。サウナの永久的な閉鎖はジョッキーの身体的および精神的な健康についての問題を引き起こしており、それはサウナ利用による脱水状態のリスクとして認識されているものをはるかに上回っているという。
声明はこう続いている。「PJAは上級心理学者と協議を行っており、騎手の健康を脅かす問題のなかで最も早急に対処しなければならないのは、減量の必要性に関連する不安とストレスであると確信しています」。
「騎手たちは不適切で多くのリスクを伴う様々な減量方法を用いています。それは熱湯風呂、車を運転しているときのサウナスーツ、長時間にわたる水分摂取の制限、もしくは嘔吐などです」。
新型コロナ感染拡大のあいだ、3ポンドの減量特典が導入された。しかし2022年3月に最低負担重量が2ポンド引き上げられたときに、その特典は撤廃された。
声明にはこう記されている。「振り返って考えれば、コロナ禍のもとでの減量特典が今後も維持されるという確固たる保証を与えるようBHAなどの団体に強く要求してから、サウナの撤去を受け入れるべきだったとPJAは受け止めています。説得力のある新たな証拠が提示されたのに、"これ以上の調査はできない"とBHAと競馬場協会(RCA)に主張されてもとても満足できるものではありません」。
「サウナの閉鎖と、競馬場で体重管理のために効果的なサポートが得られないことにより、騎手たちははるかに大きな健康を脅かすリスクに直面しているとPJAは訴えます。騎手たちは15ヵ月以上にわたって、サウナもなく、安全のための減量特典もない中で、なんとかしようとしてきました。しかし、競走当日のサウナという選択肢を必要とする騎手は大幅に増えています。多くの騎手は最後の2ポンドほど落とすために競馬場の近くにあるジムを使っています」。
「騎手にとって、心理的主体性というものが変化しています。体重や脱水症状について当事者意識(自らの統制対象であるという意識)はあるのかもしれませんが、実際に減量を行う能力は発揮しづらくなっています。競馬場でサウナを利用しチェックや監視を受ける機会がなければ、ストレスや不安のレベルは高まり、体重を安全かつ正確に管理することはできなくなってしまいます」。
「いくつかの主要な調査研究が心理的主体性の低下が身体的健康に重大な影響を及ぼす可能性があることを示しているので、PJAは懸念を抱いています。現在、メンタルヘルスの援助を求めるジョッキーが非常に増えていると報告されています。メンタルヘルスの援助はPJAが提供する貴重なサービスです」。
By James Burn
(関連記事)海外競馬ニュース 2021年No.45「競馬場の検量室の近代化に伴いすべてのサウナを閉鎖(イギリス)」、海外競馬情報 2022年No.3「安全加算重量として騎手の負担重量を1ポンド引上げ(イギリス)」
[Racing Post 2023年8月9日「BHA stands firm over removal of saunas despite growing complaints from riders」、8月15日「'An urgent medical issue threatening jockeys' health' - PJA implores BHA to reconsider sauna closures」]