アラン&ジェラール・ヴェルテメール兄弟が、ウィルデンシュタイン家が所有する競馬&生産事業体の残された部分の購入を完了させたことで、フランスで最も有名な2つの名門牧場はひとつになった。
これまでバリーモア・サラブレッズ(ウィルデンシュタイン家の所有会社)の胴が青で袖が水色の勝負服で走ってきた競走馬は、ヴェルテメール兄弟の名牝ゴルディコヴァと同じ服色で出走することになる。8月20日(日)のアレックヘッド賞(G2 ドーヴィル)ではパンセデュジュール(G3ペネロープ賞優勝馬)が馬主変更後はじめて出走し、ヴェルテメール兄弟の主戦であるマキシム・ギュイヨン騎手が手綱を取る(訳注:結果はジャナローズの4着だった)。
この購入でとりわけ価値があるのは、これまでデイトン・インヴェストメンツ社(ウィルデンシュタイン家の所有会社)の名義で繋養されてきた繁殖牝馬群に違いないだろう。その中には、欧州競馬界で最も影響力があり、ヴィルデンシュタイン家で100年にわたって培われてきた「A」や「P」を頭文字とするファミリー(牝系)の子孫が含まれる。
ヴェルテメール兄弟の競馬&生産マネージャーであるピエール-イヴ・ビュロー氏は、フランスの日刊競馬専門紙『ジュール・ド・ギャロ』にこう語った。
「最近、デイトン・インヴェストメンツ社の全株式を取得したことが確認できています。多くの類まれな優良牝馬を私たちの繁殖牝馬群に迎える貴重な機会です。その中には、クラシック勝馬であるペルシアンキングやパディントンの母や、現役馬パンセデュジュールの母が含まれます。1歳馬と当歳馬もヴェルテメール・エ・フレールのチームに加わりました」。
ウィルデンシュタイン家とヴェルテメール家はいずれも、凱旋門賞(G1)で何度も勝利を収めている。1974年にアレフランスがウィルデンシュタイン家の所有馬として初めてこのレースを制し、その後にオールアロング(1983年)、サガス(1984年)、パントルセレブル(1997年)が続いた。
ジャック・ヴェルテメール氏は1976年にイヴァンジカ、1981年にゴールドリバーで凱旋門賞を制した。そして2012年にソレミアがこのレースで優勝したときには、息子であるヴェルテメール兄弟が牧場を相続していた。
ビュロー氏はこう語った。「私たちはウィルデンシュタイン家の偉大な牝系の成功を継続させ活気づけていきたいと考えています。これらの牝系は1923年以来、欧州の血統書の中で最も重要な存在と言えます。凱旋門賞馬4頭を送り出しているのです」。
「アルベルティーヌ(アルカングの母・アクアレリストの祖母)、マデリア(パディントンの4代母)、ペトロルーズ(パントルセレブルの祖母・ペルシアンキングの4代母)といった象徴的な牝馬の子孫が私たちの牧場に加わることになります」。
ウィルデンシュタイン家の競馬事業は2010年代初頭に2つに分かれた。そして2016年にゴフス社が行った処分セールで108頭が売却され記録的な売上げをマークした。
アラン&ジェラールの祖父ピエールから始まったヴェルテメール家の競馬界での物語は3頭の凱旋門賞馬のほかに、リヴァーマン・リファール・ゴルディコヴァ・アンテロといった傑出馬を送り出した。つまり彼らにはすでに豊富なレガシーがあり、今回の買収でさらに幅広い要素が追加されることになる。
ウィルデンシュタイン家の宝石ともいえる牝馬3頭
▪ プリティプリーズ(Pretty Please)
現役時代に勝利を挙げたプリティプリーズ(父ディラントーマス 母プラントラール 母父ジャイアンツコーズウェイ)はウィルデンシュタイン家の繁殖牝馬群の中でもとりわけ優秀な仔を送り出している。母プラントラールは、重賞を数回制したサンクルー大賞(G1)2着馬ポリシーメーカーやカドラン賞(G1)2着馬プーシキンの半妹にあたる。
プリティプリーズは、現役時代にガネー賞(G1)を制し種牡馬としてG1馬を送り出しているプラントゥールの半妹である。繁殖牝馬として、仏2000ギニー優勝馬で後に最優秀マイラーに選出されたペルシアンキングを送り出している。今シーズン、エトレアム牧場に繋養されているペルシアンキング(父キングマン)の初年度産駒が1歳セリに上場される。
▪ モダンイーグル(Modern Eagle)
モダンイーグルは今シーズン、驚異的な息子パディントンの快挙のおかげでしばしば新聞の見出しを飾っている。パディントンは愛2000ギニー(G1)・セントジェームズパレスS(G1)・エクリプスS(G1)・サセックスSを制している。
モダンイーグル(父モンジュー)自身もステークス勝馬である。母ミリオナイア(Millionaia 父パントルセレブル 母ムーンライトダンス)は仏オークス(G1 ディアヌ賞)で2着に入っており、デューハーストS(G1)2着馬フェンシングマスターの半妹である。彼らの母ムーンライトダンスはサンタラリー賞(G1)優勝馬であり、その半兄マリニャン(Marignan)は仏ダービー(G1 ジョッケクルブ賞)2着馬であり、母マデリアはフランス最優秀3歳牝馬である。
▪ ミスフランス(Miss France)
ミスフランスの父はダンシリであり、母はマルセルブサック賞(G1)優勝馬で仏オークスとサンタラリー賞で2着に入ったミスタヒチである。ミスフランスは3シーズンにわたってアンドレ・ファーブル厩舎とウィルデンシュタイン家の旗を掲げ、その名に恥じない活躍を見せた。2歳時にオーソーシャープS(G3 ニューマーケット)を制し、3歳時に英1000ギニー(G1)で最高の勝利を収めた。またロトシルト賞(G1)とサンチャリオットS(G1)で2着に入った。
彼女は4歳時にふたたび出走し、2つのブラックタイプ競走で2着に入っている。そのうちの1つ、ダニエルウィルデンシュタイン賞(G2)ではヴェルテメール兄弟が所有するインパッサブルに½馬身差の惜敗だった。現在12歳のミスフランスは繁殖牝馬としてまだ幸運に恵まれていない。唯一出走した仔、ミスララ(父ガリレオ)は3度の入着を果たしたが勝ち上がることはできなかった。またミスフランスはほかにも、未出走の5歳のガリレオ牝駒ミスサイゴンとまだ馬名のない2歳のドバウィ牝駒を送り出している。
By Scott Burton and Kitty Trice
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