ニューヨーク州ゲーミング委員会(New York State Gaming Commission:NYSGC)の馬医療担当理事であるスコット・パーマー博士は、サラトガ競馬場のG1競走で発生した予後不良事故について懸念を示した。そして夏開催(7月13日~9月4日 月曜・火曜を除く40日間)において競馬場で生じた8件の予後不良事故の原因を追求するために徹底的な調査を実施していると語った。そのうち1件は心臓血管系の疾患によるものと特定されている。
このパーマー博士の発言は、アレンジャーケンス記念S(G1 8月26日)で3歳の無敗牡馬ニューヨークサンダー(馬主:AMOレーシングUSA)が先頭に立って楽勝を決めるかと思われた瞬間に直線で管骨を骨折したことを受けてのものである。
この事故は、8月5日(土)のテストS(G1)でメイプルリーフメルが遭遇した予後不良事故に不気味なほどよく似ていた。ただし、メイプルリーフメルは決勝線にもっと近いところを先頭で走っていたときに怪我を発症した。
パーマー博士はこう語った。「当然あらゆることを懸念しています。メイプルリーフメルが予後不良となった直後から、サラトガ競馬場で生じたすべての予後不良事故について調査を始めました。HISA(競馬の公正確保と安全に関する統括機関)・NYRA(ニューヨーク競馬協会)・NYSGCは連携して、馬場・天候・馬の状態・危険因子などのデータをリアルタイムで収集する共同作業を行なっているところです。報告書の中ではこれらすべての要素が検討されるでしょう」。
8月26日(土)のカード(全13レース)で、人道的に安楽死措置が取られたのはニューヨークサンダーだけではない。メロンターフコース(芝)で施行された第5レースでも、ノーベルが入線後に駈歩しているときに致命傷を発症した。
タイラー・ガファリオン騎手はニューヨークサンダーとノーブルの両方に騎乗したが、深刻な負傷を免れた。
NYSGCのデータベースによると、今回の開催では調教中にも4頭が予後不良となっている。
パルマー博士はサラトガでのレースを中止するべきだとまでは言わなかった。
「これから決定されることになりますね。たしかに検討中ではありますが、そのためには証拠が必要です。証拠に基づいた決定でなければならないのです。一般の人々による受け取られ方について話しているわけではありません。世論はとても分かりやすいものですが、それは私たちの業界には通用しません。証拠に基づいて決断を下すのであり、サラトガでのレースを中止すべきだという証拠は何もありません」。
NYSGCのデータベースによると、昨年の40日間の開催のあいだにレース中に3頭、調教中に9頭が予後不良となった。
NYRAとHISAは26日(土)の夕方、2頭の予後不良を受けて以下の声明を発表した。
「HISAはここ数週間、NYRAおよびNYSGCと緊密に取り組み、サラトガ競馬場での最近の予後不良事故を取り巻く状況について検証してきました。今日の出来事を踏まえ、NYRAとNYSGCが状況を評価して次の対策を決定すべく関係者と協力するのを支援するために、HISAは追加的なリソースを提供しています。HISAの馬の安全・福祉担当理事は現在サラトガ競馬場におり、リアルタイムで競馬場関係者と一緒に取り組み、当面の解決策を特定しようとしています。さらに、新たに発足したHISAの馬場顧問グループ(Track Surface Advisory Group)のメンバーも現地にいて、ダートと芝のコースの状態をさらに調査して評価する予定です」。
By Bob Ehalt
HISA、サラトガ競馬場に2つの安全対策を追加
HISA(競馬の公正確保と安全に関する統括機関)は8月29日(火)、残りわずかとなったサラトガ競馬場の夏開催(7月13日~9月4日)に2つの安全対策を追加することを発表した。
HISAのルール2142(a)条は、HISA管轄下で出走するすべての馬に出走登録後検査を受けることを義務づけている。「出走登録」から「競走当日に規制獣医師が直接馬体検査を行う」までのあいだに、この検査は実施される。通常この任務を遂行するのは競馬場常駐の規制獣医師である。ただしサラトガの夏開催の残りの日程では、HISAの獣医師が出走登録後の検査を実施し、競走前に怪我のリスクが高まっている可能性のある馬を特定するために追加的に独立した分析を行う。
新たに発足したHISAの馬場顧問グループ(Track Surface Advisory Group: TSAG)のメンバーは現在サラトガにいて、8月30日(水)にレースが再開される前にダートコースと芝コースを徹底的に検証している。TSAGは、ダート・芝・人工馬場の均一性に影響する幅広い要因についての知見をもつ専門家7名により構成されている。現地での検査に加えて、TSAGは競走馬場試験研究所(Racing Surfaces Testing Laboratory)がまとめた「過去にさかのぼる検査データ」と「開催前の検査データ」を調査する。
これらの措置は追加的に生じている負傷リスクを短期的に軽減するために講じられるものだ。HISAはNYRA(ニューヨーク競馬協会)およびニューヨーク州ゲーミング委員会(NYSGC)と協力して、サラトガで生じた予後不良事故を取り巻く状況について徹底的な検証を続ける。
HISAの安全対策が発表された直後にNYRAが出した声明において、コミュニケーション担当副社長であるパット・マッケンナ氏はこう述べている。「NYRAの競馬場でレースに参戦する馬と騎手の健康と安全が最優先であり、ほかのどのような懸念事項も上回るのです」。
「NYRAは、HISAが安全性の向上と競馬の公正確保のためにここニューヨーク州や全米で行っている活動を強く支持しています。また、サラトガ競馬場で追加的な獣医検査が実施されることを歓迎しています。NYRAはTSAGと緊密に取り組み、サラトガでの競馬および調教のためにできるかぎり安全な環境を提供できるようにしていきます」。
NYRAとして行う安全対策の概要についての説明は以下のとおりである。
・ ダートの本馬場も両方の芝コースも、競走日前・競走当日・競走日後に検査される。データおよび土壌サンプルは独立したエンジニアと共有される。各エンジニアはそれぞれの馬場の状態と均一性を評価する。NYRAのレビューでは、3つの馬場すべてに均一性があり異常はないことが確認されている。
・ サラトガ競馬場のレースの出走登録馬はすべて、徹底的な競走前獣医検査が義務付けられており、そのあとに出走が許可される。馬体の検査や観察に加え、規制獣医師は各馬の診療記録・過去成績・追い切りなどを詳細にチェックする。
・ NYRAは8月30日以降に検査を追加し、民間の獣医師が馬体検査を実施し、馬が健康で出走できることを証明することを要求する。この検査は出走登録の条件とし、すべてのレースで出走登録が認められる72時間以内に、民間の獣医師によって行われなければならない。
By HISA/NYRA
(関連記事)海外競馬ニュース 2023年No.30「無敗牝馬メイプルリーフメルの予後不良によりテストSは悲劇に一変(アメリカ)」
[bloodhorse.com 2023年8月26日「NY Equine Medical Director Concerned by Fatalities」、8月29日「HISA Announces Two Added Safety Precautions at Saratoga」]