エアドリースタッド(ケンタッキー州ミッドウェイ近く)の創設者であり、元ケンタッキー州知事のブレレトンC・ジョーンズ氏(84歳)が長い闘病生活の末、9月18日(月)に死去した。
ジョーンズ氏は馬ビジネスにおいても政治においても我が道を行き、独自のやり方で物事を進める一匹狼であり、両分野でたくさんの功績を遺した。とりわけケンタッキー州ではいくつかの領域でさまざまな役割を果たし、競馬産業を形作った。
ジョーンズ氏とリビー夫人は1970年に、350エーカーの土地でエアドリースタッドの運営を開始した。無尽のエネルギーと意欲的な労働倫理によって、ジョーンズ氏はオールド・フランクフォート・パイク(車道)沿いのこの牧場を現在の2,500エーカー以上にまで拡大した。ホースマンとしては牝馬と相性が良いことで知られる。ケンタッキーオークスを3回制しているのだ。2008年と2012年にはそれぞれ自家生産馬のプラウドスペル(Proud Spell)とビリーブユーキャン(Believe You Can)でこのレースを制している。2015年には以前エアドリースタッドにいた種牡馬マジェスティックパーフェクションの牝駒ラブリーマリア(Lovely Maria)が優勝した。
ジョーンズ氏は繁殖牝馬で独自の道を切り開いた。彼は同時代の誰よりもはるかに多くの繁殖牝馬を繋養していて、その数は200頭近くにのぼった。
彼は2004年のブラッドホース誌のインタビューでこう語っている。「繁殖セールに行き、リングの近くに座って瞬時に判断するのが好きなのです。そうやってたくさんの繁殖牝馬を購買します。数で勝負することを楽しんでいますし、自由な経済システムが大好きなのです。繁殖牝馬が10頭しかいなかったら、たとえそのすべてがステークス勝馬を送り出していたとしても、あくびが出るほど退屈してしまうでしょう」。
ジョーンズ氏がすべての交配計画を決めたのは、最も適任だと思っていたからではなく、楽しみと喜びを感じていたからだ。また、生産者にとって手頃な種付料で種牡馬を供用することに誇りを持ち、シルヴァーホーク・ハーランズホリデー・インディアンチャーリー・インクルード・クリエイティヴコーズ・カイロプリンス・ガーヴィンといった種牡馬で成功を収めた。
ジョーンズ氏は近年、エアドリーでの職務の大半を息子のブレット氏に譲っている。ブレット氏は競馬産業全体で数多くの役員職に就いており、父から多くのことを学んでいる。遺族には娘のルーシー氏もいる。
ブレレトン・ジョーンズ氏はオハイオ州生まれだが、父が州上院議員を務めていたウェストバージニア州で育った。ポイントプレザントの近くの酪農場で育ち、そこで馬に乗り、カウボーイ文化を身につけていった。早くから自らの将来について奇妙な予告もしていたという。「子どものころに『大きくなったら何になるの?』と聞かれて、『ケンタッキーで馬を育てるんだ』と答えていましたね。どこからそんなおかしな考えに至ったのか理解できた人はいませんでした。生まれつきのものだったと思うのです。馬が好きでしたし、ケンタッキーは世界一の馬の都でしたからね」。
しかしジョーンズ氏はまず父の跡を継ぐべく政界入りし、当時最年少としてウェストバージニア州下院議員になった。注目すべきなのは、彼が当時共和党に所属していたことだ。
夢を追ってケンタッキーに移ったジョーンズ氏は、妻リビーの父親から土地を借りて農場を始めた。しかしすぐに近隣の土地を購入し始め、それらをまとめてエアドリースタッドを創設した。ジョーンズ氏は「男のエゴというものでしょうか。自分のものにした土地に住みたかったのです」と述べた。
ジョーンズ氏は1980年代初頭に州農業委員会のメンバーを務め、1987年にはケンタッキー州副知事選に出馬した。当時のケンタッキー州のもっとも優勢な風を察知したジョーンズ氏は民主党から出馬して当選した。
フランクフォート(ケンタッキー州の州都)に着任したジョーンズ氏は、州への経済効果が高いにもかかわらず、馬産業のロビー活動が希薄であることに気がついた。それはサラブレッド産業内での分裂によるものだけではなく、さまざまな馬種の代表者のあいだの内輪もめにも起因していた。馬ビジネスに関与してきたジョーンズ氏は、州知事になればそのために最大のことを成し遂げられるだろうと考え、1991年に当選を果たした。
ジョーンズ氏は州馬業界を支援する意向を率直に公言し、利益相反の嫌疑にさらされることもあった。それでも彼は突き進んだ。
彼は馬ビジネスを支援することについて、「8万もの雇用を守るために戦わない知事は弾劾されるべきです」と語った。
そして生産者賞と種牡馬賞のプログラムを実施し、その資金を支出するために場外馬券発売所を設置した。とりわけ就任時に4億ドル(約580億円)だった財政赤字を4年後の退任時に3億ドル(約435億円)の黒字に転換させたことを、彼は誇りに思っている。
ジョーンズ氏は、「ただ常識的なアプローチで政治を行なったのです。だから人々は政権を尊重してくれたのです」と説明した。
ジョーンズ氏は州知事退任後、ケンタッキー州馬教育プロジェクト(Kentucky Equine Education Project:KEEP)の設立の立役者となった。ケンタッキー州民に対して、馬産業を売り込み、州全体で馬産業を支援する重要性を伝えた。そして2004年のKEEPの設立時から2011年まで理事長を務めた。
KEEPは声明においてこう述べている。「ジョーンズ知事は、ケンタッキー州の馬産業を振興するためにたゆまぬ努力をしてくださいました。その献身は重要な政策変更やイニシアティブにつながり、州各地の馬主・生産者・調教師・競馬ファンに直接的な利益をもたらしました」。
現在KEEPの会長を務めるケイス・クレイ(Case Clay)氏はこう付け加えた。「ジョーンズ氏はケンタッキー州の馬産業の真のチャンピオンでした。そのレガシー(遺産)は、KEEPと馬コミュニティ全体で永遠に引き継がれることでしょう」。
現在ケンタッキー州知事を務めるアンディ・ベシア氏は、ジョーンズ氏を「献身的なリーダーであり、私たちの家族のためにケンタッキー州の強化に努めた威厳あるサラブレッド馬主」と称した。
ジョーンズ氏が生産した有名な馬には、2000年最優秀2歳牝馬カレッシング(Caressing)、バイランドバイシー(By Land By Sea)、インプソサエティ(Imp Society)、キャッシュインクルーデッド(Cash Included)、チェックザレーベル(Check the Label)、コマンディングファッション(Commanding Fashion)、ザンドン(Zandon)、ターロウ(Tarlow)、フェイザ(Faiza)、クラシックエレガンス(Classic Elegance)などがいる。また30頭以上のG1馬を生産もしくは共同生産している。
By Blood-Horse
(1ドル=約145円)
[Racing Post 2023年9月19日「Death of Airdrie Stud founder and Kentucky politician Brereton Jones aged 84」]