言いわけも、愚痴も、不公平を感じる理由もない。しかしウエストオーバー陣営には一抹の同情を抱かざるを得なかった。
ウエストオーバーはシーズンを通じて素晴らしい活躍をしているが、悲しいかな、凱旋門賞(G1 ロンシャン)ではエースインパクトが超ド級の存在として立ちはだかった。それゆえ彼はドバイシーマクラシック(G1)・コロネーションカップ(G1)・キングジョージ6世&クイーンエリザベスS(G1)に続き、今回の凱旋門賞でも2着となった。しかし恥じることはない。無傷のスーパースターにお株を奪われてしまったが、ほかの馬の中では一番強かった。
調教師のことも考えてみてほしい。ラルフ・ベケット調教師は数字的にこれまでで最高のシーズンを享受している。勝利数が3桁に到達したのはキャリアで3度目となる。しかし今や9回もG1・2着を経験した。凱旋門賞のあとに行われたフォレ賞(G1)では管理馬キンロスが2着となり、さらに心を痛めることになった。
9回のG1・2着のうち4回はウエストオーバーによるものである。ほかにはリマーキーがコロネーションS(G1)とファルマスS(G1)で2着となり、ブルーストッキングが愛オークス(G1)でセーブザラストダンスに阻まれ2着となり、9月30日(土)のミドルパークS(G1 ニューマーケット)ではタスクフォースが2着に入った。
ベケット調教師にとって良いシーズンであったにちがいないが、ややもすると、途方もなく輝かしいシーズンも手に入れることができた。クロスバーにはじかれることがかなり多かったのだ。
ウエストオーバーはサンクルー大賞(G1)で華麗なシュートを決めてゴールネットを揺らしたが、これはベケット調教師にとって今シーズン唯一のG1・勝利となった。それでもベケット調教師は、凱旋門賞のあとに一番強く感じたのは"誇り"だったと述べる。
「すごく誇りに思いますね。彼は1年を通じてすべてのレースを一生懸命走ってきました。特別な馬でないとそうはいきません。とてもタフな馬です。今回は強すぎる馬と対戦してしまっただけなのです」。
その強すぎる馬というのは驚異的な存在だった。エースインパクトはとてつもない3歳馬で、ウエストオーバーがかなわないほどたくさんのギアを持っていた。ウエストオーバーは今回も全力を出し切りオネストを撃退したが、結果は2着だった。
ベケット調教師はレースを振り返ってこう付け加えた。「鞍上のロブ・ホーンビーはポジションを取るために出て行かなければならなかったのです。そのとき、フクムと先行馬たちが思いどおりのペースを作りました。ウエストオーバーのことをとても誇りに思いますし、いつかこのようなレースで勝ってくれることを願っています」。
ウエストオーバーがもう一度大きな賞金を狙いにいっても、きっと誰も悪いと思わないだろう。ベケット調教師は次走としてBCターフ(G1)を視野に入れており、11月のサンタアニタ競馬場がその舞台になるのかもしれない。実際のところ来シーズンも現役を続行するつもりだ。
ベケット調教師はこう語った。「来年も現役を続行する可能性は高いと思いますね。今やある程度成長しました。レース前に体が温まるのは分かっていますが、長く続くものではありません。今では赤いメンコもやめました。競馬場に行くたびに状態は良くなっていますね。厩舎ではまるでヘンリー・ド・ブロムヘッド調教師(アイルランドの名伯楽)が手掛ける障害競走馬の一頭のようでした。歩きながら寝ているのです」。
「ロブは、ウエストオーバーは成長していてレースのたびに強くなっているとコメントしていましたね。BCターフを狙いたいと真剣に思っています。この馬がドバイ遠征を楽しんでいるのを目の当たりにしましたし、調子が良ければBCターフはとても合うと思うのです」。
By David Jennings
[Racing Post 2023年10月1日「'I'm enormously proud - he's danced every dance all year' - Ralph Beckett thrilled with wonderful Westover」]