総賞金300万ドル(約3億9,000万円)のペガサスワールドカップ (G1)は、競馬界屈指の数頭の強豪馬が引退したことで、予想のつかないレースになると思われてきた。そして1月28日にガルフストリームパーク競馬場で施行されたこのレースはまさにそのような展開となった。
ジュニア・アルバラード騎手が騎乗したブルース・ランスフォード氏の自家生産馬アートコレクター(牡6歳 父バーナーディニ)は序盤の数ハロンで本命の1頭ディファンデッドにペースメーカーのスティレトボーイをけしかけさせていた。そして最後の直線で堂々と抜け出し決着をつけ、単勝16倍で4½馬身差の勝利を果たした。
カリフォルニアから遠征してきたボブ・バファート厩舎のディファンデッドが2着に粘り、単勝46倍のスティレトボーイ、単勝52倍のラストサムライが続いた。2022年のアーカンソーダービー(G1)とハスケルS(G1)を制した1番人気のサイバーナイフはラストランとなるこのレースで精彩を欠いて6着に終わった。今後は引退して2023年種付シーズンをスペンドスリフトファームで過ごす予定。
大当たりが出たスロットマシンのように払戻金が画面に映し出されたときに大喝采が起こった。優勝したアルバラード騎手とランスフォード氏も興奮していた。
最近2,000勝を達成したアルバラード騎手は「ずっと乗りたいと思っていた馬です。ちょうど時期が良かったのだと思います」と語った。彼はルイス・サエス騎手からの乗り替わりでアートコレクターに騎乗し、サエス騎手はもう1頭の伏兵ゲットハーナンバーに騎乗し9着に終わっていた。
アートコレクターはついに好調期を迎えていた。ビル・モット調教師によると、この馬の温暖な南フロリダへの遠征がようやく実現するまで、そのスケジュールは多少ゴタゴタしたという。
「脚部の腫瘍が進行してしまい、計画が遅れてしまったのです。それでハーランズホリデーS(G3 12月31日)を射程に収めようとしたのですが、まだ仕上がっていないように感じました。そのときブルースがペガサスを待ってもいいと言ってくれたのです。言うまでもなく馬もそれで良かったようです」。
「それまで鞍上を務めていた騎手は別の馬を選びましたが、ジュニアは台本どおりに乗ってくれたのです」。
アルバラード騎手は、「ゲートが開く瞬間にプランが変わることもありますが、今日はすべてがうまく行きました。アートコレクターは残り2ハロンの地点からすごい走りを見せてくれたのです」と語った。
モット調教師は、「馬はジュニアの乗り方を気に入ったようです。落ち着いて、息を入れ、エネルギーを蓄えることができたのです。ゴールに向かっているときに余力がありました」と述べた。
アートコレクターはランスフォード氏により生産された。母はブラックタイプ勝馬でG1・3着内馬のディストーテッドレガシー(父ディストーテッドヒューマー)である。一か八かのタイプで、これまでの成績を21戦11勝、2着1回、3着0回としている。ペガサスワールドカップの優勝賞金により生涯獲得賞金は400万ドル(約5億2,000万円)強となった。アートコレクターは、ディストーテッドレガシーが送り出した出走馬4頭のうち勝ち上がった3頭の中で一番優秀である。また3歳の牡駒クラシックレガシー(父イントゥミスチーフ モット厩舎)は12月に3戦目で初勝利を挙げた。ディストーテッドレガシーはほかにも2歳のジャスティファイ牝駒キングダムカムと、まだ名づけられていない1歳のメダグリアドロ牝駒を送り出しており、2023年はガンランナーと交配予定。
ランスフォード氏は、調教師がアートコレクターの作戦を変更してペガサスワールドカップの勝利につなげたことを正当に評価した。これまで先行逃げ切りでチャールズタウンクラシック(G2)を2勝し、ウッドワードS(G1)やアリダーSなどで勝利を収めてきたが、ランスフォード氏によると、モット調教師は作戦を土壇場で変えたのだという。
「ビルと私は昔からの友人です。多くの人はそのことを知らないかもしれません。作戦変更について話し合い、ビルを全面的に信頼したのです。彼は"何か違うことをやってみよう。先行するのをやめさせて何が起こるか見てみよう"と言いました。そうすると馬はどんどん良くなっていったのです」とランスフォード氏は述べ、アートコレクターの今後の進路を決定するにあたって殿堂入りトレーナーに従うと語った。
モット調教師は、「その決定をしたうえで、いくつかのビッグレースから逆算して調教しなければなりません。しかし次のレースに急いで出走させようとは思っていませんね」と語った。
アートコレクターは2022年10月に発表された契約で、最終的にはクレイボーンファームで供用される予定である。2021年BCクラシック(G1)で6着となったあとの初戦として、昨年2月に総賞金2,000万ドル(約26億円)のサウジカップ(G1)に参戦した。地元馬エンブレムロードが最後の数完歩でバファート厩舎のカントリーグラマーを破ったそのレースで、アートコレクターは遠く及ばない12着に終わった。
このレースの後、モット厩舎の数頭が輸送の不備のために1ヵ月ほどサウジアラビアで足止めを食らった。モット調教師はそのゴタゴタを大目に見たものの、おそらく今年のアートコレクターのスケジュールからサウジカップへの再挑戦やドバイワールドカップ(G1)への参戦は外すだろうと語った。
「これらのレースに出走させるには少し間隔が短いように思います。どちらのレースにも登録していませんし、サウジにもドバイにも行きません。国内で走らせることを視野に入れており、それらのレースから逆算して調教することになるでしょう」。
1月28日(土)にオークローンパーク競馬場にいたバファート調教師は、重賞を数回制しているディファンデッド(せん5歳 父ダイヤルドイン)が中東に遠征するかどうかについてすぐには明言しなかった。この馬にとってペガサスワールドカップはカリフォルニア以外で走った初めてのレースだった。
それはどうであれペガサスワールドカップとその前身のドンハンデキャップ(G1)は、ドバイの大舞台と永遠の繋がりがある。
ペガサスワールドカップは7回の開催を経て、出走枠を購入しなければならない形式から通常の招待競走の形式に変化した。そこにいたるまでに、現役を続行する馬と種牡馬・繁殖牝馬になる馬の両方にとってこの競走が魅力的なターゲットであることが証明されてきた。
2022年ペガサスワールドカップでは、2021年ブリーダーズカップ開催(デルマー)で勝利を挙げた脚質自在の2頭の対決が繰り広げられた。BCクラシック優勝馬のニックスゴーとBCダートマイル(G1)優勝馬のライフイズグッドである。韓国馬事会(KRA)に所有されたニックスゴーが引退前のラストランとしてこのレースに臨んだ一方で、ライフイズグッドは2022年にブレークし始めたばかりだった。
ライフイズグッド(馬主:ウィンスターファームとチャイナホースクラブ)はこのレースを快勝し、その後も重賞3勝を果たした。ペガサスワールドカップは2ヵ月後のドバイワールドカップ(G1)への足掛かりとなったが、ドバイでは先頭を走っていたものの減速して4着に終わった。
"南フロリダから中東の砂漠へ"というルートは最近のものである。シガー(モット厩舎)がドンハンデキャップを制して第1回ドバイワールドカップで劇的な勝利を収めた1996年に、このルートは華々しく開かれたのである。シガーの活躍により、マクトゥーム殿下が創設したこのレースの世界的地位を保証されたのである。
より最近では、ニックスゴーが2021年ペガサスワールドカップを制したあとに総賞金2,000万ドル(約26億円)のサウジカップでも4着に入っている。ムーチョグストは2020年ペガサスワールドカップを制し、サウジカップでも4着に健闘した。ガンランナーは順序が逆で、2017年ドバイワールドカップで2着になったあと2018年ペガサスワールドカップで優勝して種牡馬生活に入った。
最もうっとりさせられるペガサスワールドカップとドバイワールドカップのダブル制覇を達成したのはアロゲートである。この馬は2017年ペガサスワールドカップを快勝したあと、ドバイワールドカップで完全に出遅れてしまったが最後尾から上がって勝利を手にした。このパフォーマンスにバファート調教師もマイク・スミス騎手も圧倒された。
スミス騎手はただ「ゼニヤッタのように乗っただけです」と述べたが、レースを振り返り、今でも信じられないといった様子だった。
By Bob Kieckhefer
(1ドル=約130円)
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