英国ジョッキークラブは2月2日(木)、15競馬場でフォーマルなドレスコードを直ちに廃止することを決定したと発表した。競馬ファンからのフィードバックを受けてのものである。
この措置により、チェルトナム・エイントリー・ニューマーケット・エプソム・サンダウンなどの競馬場の来賓エリアでは、一部の例外を除いて、観客は好きな服を自由に着用できるようになる。
ITV レーシングの司会者であるオリー・ベル氏はこの決定を歓迎し、"競馬界にとって大きな前進"と表現した。一方アスコット競馬場は、ロイヤルアスコット開催のフォーマルなドレスコードを見直す計画はないとしている。
ジョッキークラブは競馬ファンに"最も快適で似合っていると思える服装"をするよう呼びかけている。この新しい方針における唯一の例外は、仮装服やいかなる種類の服でも攻撃的なもの、スポーツシャツのレプリカである。またダービー当日のエプソム競馬場のクイーンエリザベス2世スタンドでは、ひきつづきモーニングドレスまたはフォーマルなデイウェアの着用が求められる。
ジョッキークラブのCEOネヴィン・トゥルーズデール氏はこう語った。「競馬はさまざまなバックグラウンドをもつ人々が常に楽しんできたスポーツであり、身近であらゆる層に開かれたものであることはとても重要です。どのような服装をすべきか、もしくはすべきではないかという縛りを無くすことで、競馬が皆のスポーツであることをアピールできることを望んでいます」。
「ジョッキークラブには豊かな伝統と歴史がありますが、同時に先進的な組織でもあります。多様性と包容性にしっかりと重点を置き、いつも現代のトレンドを反映しようとしています」。
「もちろん、レース当日にドレスアップしたいのであればそのようにして観戦することを否定しているわけではありません。人々が最も快適で似合っていると思える装いで観戦する選択肢と機会をもたらすものです。また、英国の天候が常にもたらす困難を念頭に置いたものでもあります」。
英国の競馬場でのドレスコードに関する議論が再浮上したのは昨年4月のことである。ベット365ゴールドカップ開催日(サンダウン競馬場)に、2人の競馬ファンがトレーナーを着ていたために最も高価な来賓エリアへの入場を拒否されたのだ。
SNSではこのニュースに対して、"このようなポリシーはエリート主義で時代遅れであり他国とも一致していない"という非難が殺到した。
その後、サンダウン競馬場を所有するジョッキークラブはドレスコードルールを見直すつもりであると述べ、競馬ファンからフィードバックを受け付けて今回の変更を行った。
以前からドレスコードの撤廃を提唱してきたベル氏はこの動きを歓迎しており、こう語った。
「人々が競馬のスリルを体験できるようにするための大きな前進です。競馬が世間の注目とテレビ中継を獲得するために闘っているときに、どういう形であれ入場を断られることは、競馬が誰にとっても開かれていて自由であるというメッセージにつながらないと思います。ドレスコードを無くしたことで、私たちが伝えたい"競馬はあらゆる層に開かれたものである"というメッセージと今や一致するようになったのです」。
「もう1つ重要なことは、ドレスコードの撤廃により英国の競馬開催でスター馬や騎手に近づくことが制限されていると感じないようにすることです。このような体験は人々を熱中させるものです。競馬がいかに素晴らしいスポーツであるかを広めたいのであれば、すべての人に競馬の華々しさを体験してもらう必要があるのです」。
「米国や豪州にいたときには、多くの人がドレスアップしていたものの、競馬開催日はもっとカジュアルな雰囲気でした。ブリーダーズカップ開催では、誰もが一緒に動きまわっていて本当に温かくて友好的な体験をしました。ディケンズ風の古くさく見られるアプローチよりも、そのような姿勢にもっと近づいたのは嬉しいことです」。
ロイヤルアスコット開催はユニークなイベント
独立した競馬場であるアスコットは2月2日(木)、最高峰のロイヤルアスコット開催においてドレスコードは"重要な部分"であり続けるだろうと述べた。そしてこの開催以外では、ルールは限定的なものになるということを改めて強調した。
アスコット競馬場からの声明にはこう記されている。「ロイヤルアスコット開催はユニークなイベントであり、その体験にはドレスコードも重要な意味を持っています。来賓エリアのロイヤルエンクロージャー・クイーンアンエンクロージャー・ヴィレッジエンクロージャーにはドレスコードと関連するスタイルガイドがあり、ドレスアップすることは多くの人にとってロイヤルアスコット開催に参加することの不可欠でたいへん愛される要素となっています。ウィンザーエンクロージャーにはドレスコードはありませんが、お客様にはスマートな服装をお願いしており、多くの方がそのようにされています」。
「ロイヤルアスコット開催以外では、ほとんどの来場者にドレスコードを求めることはありません。障害シーズンには強制的なドレスコードはなく、平地シーズンにはキングエドワード7世エンクロージャーとホスピタリティーのゲストに対してのみスマートドレスの着用が求められます」。
「しかし、ほとんどの来場者は年中アスコットでドレスアップすることを楽しんでおられます。ロイヤルアスコット開催以外でも、スタイルアドバイスの中でドレスアップを推奨しています」。
アリーナレーシング社(ARC)は2月2日(木)、所有する16競馬場では大半の開催日にフォーマルなドレスコードを強要することはないと述べた。
ARCのスポークスマンはこう語った。「私たちはお客様に快適に過ごしていただけるように常に心がけています。開催日程の大半においてフォーマルなドレスコードを強要することはありません」。
「多くのお客様はホスピタリーエリアやいくつかの主要な競馬祭典で、その場にふさわしい装いをされています。そのようなエリアではいくつかのガイダンスを提供しており、これは定期的に見直されています」。
ドレスコード撤廃によりジョッキークラブの競馬場は国際的な基準と一致
2月2日(木)に発表されたドレスコードに関するルールを緩和するというジョッキークラブの決定は、国際舞台で英国競馬を特別なものにしてきた伝統からの大きな方向転換を意味した。
ダービーデーとロイヤルアスコット開催はドレスコードを維持し続ける。ただ入場時に特定の服装を求める国際的な競馬祭典はもうこの2つだけとなった。
アイルランドの26競馬場では特定の服装を求められることはないが、スマートカジュアルが推奨されることが多いようだ。とりわけ夏の平地開催など最も権威ある開催では、依然として競馬ファンは普段よりもフォーマルな服装をしているようだが、HRI(ホースレーシングアイルランド)はどの競馬ファンにとっても快適であることが最優先であると強調している。常にフラットシューズや天候に合った服装が推奨されている。
アイルランドと同じように、フランスも競馬開催日の服装に制限を設けていない。これは欧州の競馬日程の中でも最大の開催の1つ、凱旋門賞ウィークエンドでも同様である。6月の仏オークス(G1 ディアヌ賞)デーもフォーマルな服装が好まれる人気のある開催日だが、カジュアルな服装でも入場できる。
昨年のブリーダーズカップ開催(キーンランド競馬場)も同様の様式であり、観客は快適な装いができたものの、その場に合った服装が推奨されていた。ただし、キーンランドクラブハウスやサラブレッドクラブのメンバーだけは例外で、フォーマルな服装が求められ、デニムやトレーナーは禁止されていた。
By Andrew Dietz
[Racing Post 2023年2月2日「Jockey Club scraps dress codes to make racing more 'accessible and inclusive'」]