グレイソン-ジョッキークラブ研究財団(Grayson-Jockey Club Research Foundation 以下グレイソン財団)の理事会は2月13日(月)、13大学における新規プロジェクト12件と継続プロジェクト9件、そして2つのキャリアディベロップメント賞のために149万8,077ドル(約2億224万円)を支出することを承認したと発表した。グレイソン財団は1983年以来、45大学における426のプロジェクトに資金提供しており、総額は3,410万ドル(約46億350万円)以上にのぼる。
グレイソン財団のジェイミー・ヘイドン理事長は、「当財団は、馬の健康に関するさまざまな課題に取り組むことに専念しています。このことは今年選ばれたプロジェクトに明確に反映されています。研究プロジェクトやキャリアディベロップメント賞は寄付者の方々のご厚意なくしては成り立ちません。馬の獣医学研究の意義をご理解いただき大変ありがたく思っております」と語った。
以下、新規プロジェクトを研究機関別(アルファベット順)に並べたリストである。
◎ 変形性関節症に対するトランスクリプトーム応答(Transcriptomic Response To Osteoarthritis)
コロラド州立大学 リン・ペザナイト(Lynn Pezzanite)氏
この研究は変形性関節症の病態進行に作用する免疫系細胞の役割に注目する。病態の各段階に応じた治療法を開発することを目的とする。
◎ 変形性関節症に対する組換え馬ルブリシンの有効性(Efficacy of Recombinant Equine Lubricin for Osteoarthritis)
コーネル大学 ハイジ・リーシンク(Heidi Reesink)氏
この研究は馬の関節疾患を和らげるための組換え馬ルブリシン(rEqLub)の有効性を評価し、馬の関節でrEqLubにより影響を受ける遺伝子およびタンパク質間経路を特定する。
◎ 間葉系幹細胞による半月板損傷の治療(Treatment of Meniscal Injury With Mesenchymal Stem Cells)
コーネル大学 エイミー・コルバス(Aimee Colbath)氏
この研究は関節内の間葉系幹細胞が半月板の治癒力を高めるかどうかを明らかにし、獣医師が馬の半月板損傷を治療する方法に直接影響を与えるものである。
◎ 馬の腱の治癒のための幹細胞新組織の移植(Stem Cell Neotissue Implants for Equine Tendon Healing)
ルイジアナ州立大学 マンディ・L・ロペス(Mandi J. Lopez)氏
この研究では、幹細胞から生成された成長可能な新組織の移植が、競走馬やリードホースの消耗性腱損傷への現行の治療法を補強するかどうかを判断する。
◎ 硝酸ガリウムによる繁殖牝馬の細菌性子宮内膜炎治療(Gallium Nitrate to Treat Bacterial Endometritis in Mares)
オクラホマ州立大学 デイル・ケリー(Dale Kelley)氏
この研究は、抗菌薬耐性に対処するための安全で有効な新しい抗菌戦略を策定することを提案する。
◎ ロドコッカス・エクイ感染症のためのVapA mRNAワクチン(A VapA mRNA Vaccine for R. Equi Pneumonia)
テキサスA&Mアグリライフ研究所 ノア・コーヘン(Noah Cohen)氏
この研究は、世界中の仔馬の疾病・死の主な原因であるロドコッカス・エクイ感染症による肺炎を予防するために筋肉内投与されるmRNAワクチンを評価するものである。
◎ サラブレッド種牡馬の生殖能力低下に関するゲノム研究(Genomics of Thoroughbred Stallion Subfertility)
テキサス A&M 大学 テリエ・ロードセップ(Terje Raudsepp)氏
このプロジェクトはマルチプラットフォームゲノミクスを用いて、サラブレッド種牡馬の先体反応の障害と生殖能力低下の根底にある候補遺伝子と制御バリアントを同定することを目的としている。
◎ 馬の神経変性に関するバイオマーカーの検証(Validation of Biomarkers for Equine Neurodegeneration)
カリフォルニア大学デービス校 キャリー・J・フィノ(Carrie J. Finno)氏
この研究により馬の脊髄疾患の診断が改善されることが期待される。
◎ PETとMRIによるスポーツホースの球節の診断(PET MRI Sport Horse Fetlock)
カリフォルニア大学デービス校 マシュー・スプリエット(Mathieu Spriet)氏
この研究ではスポーツホースの球節損傷の診断において、18F-NaFポジトロン断層法(PET)と磁気共鳴画像法(MRI)を比較する。
◎ 子宮マイクロバイオーム&レジストームへの抗生物質の影響(Antibiotic Effects on Uterine Microbiome and Resistome)
イリノイ大学 イーゴリ・カニソ(Igor Canisso)氏
交配後に抗生物質を投与した牝馬を対象に子宮内膜炎に対する抵抗性と感染性を示したものについて子宮マイクロバイオーム&レジストームを研究。
◎ 馬ロタウイルスB予防のためのナノ粒子ワクチン(Nanoparticle Vaccines for Equine Rotavirus B)
ケンタッキー大学 フェン・リー(Feng Li)氏
このプロジェクトから開発されたワクチン候補は馬産業が馬ロタウイルスB感染を制御・予防するのに役立つ。
◎ まもなく開発される馬原虫性脊髄脳炎に有効なワクチン(An Efficacious EPM Vaccine is On the Way)
バージニア-メリーランド大学獣医学部 シャロン・ウィトンスキー(Sharon Witonsky)氏
この研究は肉胞子虫(Sarcocystis neurona)による馬原虫性脊髄脳炎(EPM)に対して有効なワクチンを開発するために、潜在的なMHCクラスI CD8およびMHCクラスII CD4の防御エピトープを同定することを計画する。
キャリアディベロップメント賞
2006年に創設されたストームキャット・キャリアディベロップメント賞は馬研究でキャリアを築くことを考えている人に2万ドル(約270万円)を助成するものである。グレイソン財団は今年、ジョージア大学のシュン・"シューン"・キムラ 博士(Dr. Shun "Shune" Kimura)にこの賞を授与した。キムラ博士の研究は、全身性炎症反応症候群(SIRS)における免疫反応・代謝反応がどのように疾患の重症度に影響するかを調べる。また馬のSIRSにおいてメトホルミンが有益な抗炎症作用および代謝効果をもたらすかどうかを判断する。
2015年に創設されたエレイン&バートラム・クライン・キャリアディベロップメント賞は将来有望な馬研究者に2万ドル(約270万円)を助成している。今年の受賞者はノースカロライナ州立大学のベサニー・クーパー博士である。クーパー博士は「馬喘息の治療標的としてのミリストイル化アラニン強化Cキナーゼ基質(MARCKS)タンパク質(Myristoylated Alanine Rich C-Kinase Substrate (MARCKS) protein as a therapeutic target in equine asthma)」と題された研究において、馬喘息に罹った馬の治療の可能性としてこの新しいタンパク質ベースの治療法を検証する。
研究諮問委員会のコンサルタントを務め、グレイソン財団で"A・ゲイリー・ラヴィン議長"のポストに就くジョニー・マック・スミス博士は、「有望な馬研究者を支援してきた当財団のキャリアディベロップメント賞の実績は非の打ちどころがありません。今年もふさわしい2名に助成金を交付できることにワクワクしています」と語った。
新しいプロジェクトの詳細は以下でご覧いただける。
grayson-jockeyclub.org/default.asp?section=2&area=Research&menu=2.
グレイソン-ジョッキークラブ研究財団は伝統的に馬研究に資金を提供する米国有数の機関である。支援するプロジェクトは馬種を問わずあらゆる馬の健康と安全を向上させるものである。財団に関する詳しい情報は、grayson-jockeyclub.orgでご覧いただける。
By Grayson-Jockey Club Research Foundation
(1ドル=約135円)