ロイヤルアスコット開催(6月18日~22日)は国王公邸の一つであるウィンザー城の裏庭で行われ、多くのロイヤルファミリーが出席する。アスコット競馬場は英国旗で彩られ、毎日2回国歌斉唱があり、ガイルズ・ブランドレス氏(テレビ等の司会者、作家)がシルクハットと燕尾服で登場する。これほど英国的な一大スポーツイベントを想像するのは難しく、今年の開催は英国競馬界にとってことさらに素晴らしいものであった。
2024年のロイヤルアスコット開催が、3月に開催されたチェルトナムフェスティバルで起きたことの修復措置になったと主張するのは厳しすぎるだろう。しかしながら、チェルトナム競馬場を襲ったネガティブなムードと、アスコット競馬場を盛り上げた明るいムードを対比させることであれば、まったく問題ないだろう。
チェルトナムが、少頭数、希薄な競争、多すぎる一本被りのレース、入場者数のさらなる減少によって弱体化したのに対し、ロイヤルアスコットは連日、多頭数で活発な競争が繰り広げられ、前年よりも多くの人々が競馬場で観戦した。全体として見ると、チェルトナムに欠けてアスコットにあったのは、はっきりとした心地のよさだった。絶望的に不振と思われたクイーンエリザベス2世ジュビリーS(G1)ですら、カーデムによる65年ぶりの同競走連覇達成(2023年、2024年)に救われた。
チェルトナムフェスティバルとロイヤルアスコット開催の間に明確な類似点があるとすれば、トップオーナーの考えに強い影響を及ぼす開催であることだ。彼らは、チェルトナムとアスコットで勝つことは、他の競馬場で勝つことよりも重要と考えており、近年その傾向は強まっている。
例えば、ロイヤルアスコット開催の2歳馬の競馬番組を考えてみる。今年のクイーンメアリーS(G2、芝1,000m)には24頭の牝馬が出走した。50年前の1974年まで遡ると、出走馬は10頭だった。チェシャムS(L、芝1,400m)は、1974年の7頭より8頭多い15頭で実施された。今年のコヴェントリーS(G2、芝1,200m)は1974年よりも4頭多い22頭であった。ノーフォークS(G2、芝1,000m)は13頭立てで1974年より1頭多いだけだったが、今年のウィンザーキャッスルS(L、芝1,000m)には27頭が出走し、半世紀前の7頭立てを大きく上回った。
これらの極端に異なる数字は、スピードと早熟な2歳馬の生産に不健康なほど重点を置く生産業界の背景と照らし合わせる必要がある。けして歓迎できるものではないが、もしそれがスプリント部門全体の質の向上につながっているのであれば、より簡単に支持を得られるのかもしれない。今シーズンのキングチャールズ3世S(G1、芝1,000m)、コモンウェルスカップ(G1、芝1,200m)、クイーンエリザベス2世ジュビリーS(G1、芝1,200m)を見れば、それが事実ではないことがわかる。(訳注:出走馬の内容がG1レースとしては見劣りするものだった)
しかし、喜ばしいことに、単に2歳戦の出走頭数が多かっただけではない。プリンスオブウェールズS(G1)に10頭もの馬が出走するとは誰も予想していなかっただろうし、キングエドワード7世S(G2)に14頭もの3歳馬が出走することを予想した者は、今週のアスコット開催では誰もいなかっただろう。さらに嬉しいことに、キングエドワード7世ではカランダガンが圧勝した。この新星は本来であれば凱旋門賞に出走すべきなのだが、せん馬の出走を禁止する馬鹿げたルールのために残念ながら出走はできない。
フランスからアスコットへの遠征馬が異例の他頭数であったこともあり、アガ・カーン殿下の自家生産馬の勝利は、歓迎すべきものだった。今年のアスコット開催に挑戦した海外勢は迫力に欠けるとする論評もあったが、それでもアメリカ勢は存在感を示し、フライトラインを管理したジョン・サドラー調教師は西海岸から優秀な出走馬(ミストザカット:ハードウィックS(G2))を送り込んだ。最も重要なのは、オーストラリア馬(アスフォーラ)が旧キングズスタンドS(現キングチャールズ3世S)を制したことで、ネイチャーストリップ、ブラックキャビア、ショワジールらに比べ見劣りする短距離馬で勝利したことだ。2025年のアスコットへの遠征を考えるオーストラリアの馬主や調教師が増えることを期待したい。
英国の調教師に関しては、それなりの活躍が見られた。リチャード・ハノン調教師がロサリオンとハーテムをいずれも2つのクラシック競走を戦い抜いた後にもかかわらず最高の状態に保ったことは特に称賛に値する。ブライアン・ミーハン調教師は、素質馬を預かったときに何ができるかを力強く思い出させ、サー・マーク・プレスコット調教師は約30年ぶりにロイヤルアスコットの競走を制し、歳月を巻き戻した。
また、ジョージ・スコット、ジョージ・バウイ、ハリー・チャールトン、エド・ウォーカー、エド・ベセルといった若手調教師の勝利も目立った。さらに、ノースヨークシャーの調教師、カール・バークとケヴィン・ライアンが有力馬主の支持を受けて圧倒的な強さを見せ、ロイヤルアスコット週の後半はイギリス北部にとって素晴らしいものとなった。
馬主は、クールモアが圧倒した。この最有力馬主と最有力調教師エイダン・オブライエンは素晴らしい時間を過ごしたが、多くの意味で最大の波紋を呼んだのはワスナンレーシングだった。
2023年に夢のようなロイヤルミーティングに参加したワスナンレーシングは、2024年には4勝、2着4回、3着3回というセンセーショナルな成績を収めた。ゴドルフィンの勝利はロイヤルハントカップのみだったが、両者の最も対照的な点はその数だった。ワスナンレーシングのロイヤルアスコット出走頭数は28頭。ゴドルフィンはわずか12頭であった。
国王と王妃が応援した所有馬は4頭だけだったが、それでも国王は4日間、王妃は全5日間出席した。このことは、クールモアのM.V.マグニア氏が語っているように、重要なことだ。「もちろん、それは私たちにとっても、そしてこのイベント全体にとっても重要なことです。彼らがここにいることはとても重要だし、そのことにとても感謝している」。
アスフォーラの馬主であるアクラム・エル=ファクリ氏を含む海外からのアスコットへの来場者は、特にこのような気持ちを広く感じたことだろう。
「ここは競馬の最高峰だ」と彼はアスフォーラの素晴らしい勝利の後に語り、こう付け加えた。 「私は地元メルボルンの競馬を誇りに思っていますが、ここにあるような甘美な雰囲気に匹敵するような場所はこの世にありません」。
この言葉は温かく、誠実で、正当なものだった。英国競馬は多くの問題を抱えているが、我々は世界最高峰の、そして最も有名な平地競走の祭典を有しているのである。私たちはいつも悲壮感や苦悩を抱えているが、そこには前向きで誇らしい気持ちを正当化するものがたくさんあるのだ。
By Lee Mottershead
[Racing Post 2024年6月23日「'No place on earth that can compare to the lusciousness of what you have here' - Royal Ascot gave British racing good reason to feel proud」]