海外競馬ニュース 2024年10月10日 - No.37 - 3
シンガポール競馬、182年の歴史に幕(シンガポール)[開催]

 シンガポール・ターフ・クラブ(STC)のシャッターが下りるのが目前の10月5日、最後の声援を送るために約1万人の競馬ファンがクランジ競馬場に集まった。
 1842年に開始したシンガポール競馬の本拠地であるSTCは、182年の歴史に幕を閉じる。最後の開催では、総賞金138万シンガポールドル(約1億5100万円)のグランドシンガポールゴールドカップをメインとする10レースが行われた。
 この124haの土地は2027年3月までに政府に返還され、住宅やその他の開発が行われる予定だ。

 競馬場のグランドスタンド1階に入ることのできる無料入場券は、オンライン配布分が完売となり、9月21日と28日、そして10月5日に枚数限定で現地配布された。
 開場30分前の午前9時30分には、入場券を確保しようと約100人の行列ができた。
 会社員のミシェル・タンさん(26歳)と彼女の母親はその前の方に並んでいた。
 彼女は3年前から乗馬を始めたが、彼女の乗る馬は主に元競走馬で、最後のレースを見届けたいと思っていた。
 「シンガポールには180年以上の競馬文化があります。それがこうした形で終わってしまうのは残念なことです。私自身、馬が大好きで、乗馬もします。だから、この象徴的な瞬間に立ち会って、最後のレースを見て、このような文化がかつて存在したことを機会を奪われてしまう若い世代の人々に伝えたいと思ったのです」と彼女は言う。

 最終日を迎えたクランジ競馬場には老若男女が詰めかけ、施設内を散策したり、会場のあちこちで記念写真を撮ったりしていた。
 ボイラー技師のタン・ホック・レンさん(58歳)のように、競馬場にいると懐かしい思い出がよみがえる人もいる。馬が好きで20年以上前から競馬を見始めたが、最後にクランジの競馬場を訪れたのは20年前だということだ。
 「仕方がないですね。他の娯楽を見つけるしかありません。ここに来ると新鮮な気持ちになります。それほど大きく変わっておらず、20年前と同じような展示や装飾ですね。閉鎖されてしまうので悲しい気持ちです」と言う。

 レースが始まると、日差しを遮るために日傘や帽子で武装した観客たちが、間近でレースを見ようとフェンス沿いに並んだ。
 インドネシアの実業家アレン・サントソさん(42歳)は、普段は競馬を観戦しないが、シンガポール競馬の最後のレースを見るためだけに、スラバヤから4日間の日程でやってきた。オンラインで入場券を入手できなかった彼は、当日券を入手するために午前9時過ぎに列に並んだ。
 「歴史的なイベントなので、少し賭けてみようかと思います。シンガポールの文化の一部ですし、最終日なので、この場所の歴史の一部になりたかったのです」。

 STCの閉鎖によって、シンガポールの競馬は幕を閉じることになる。
 180年以上前にスコットランドの商人ウィリアム・ヘンリー・マクロード・リードがシンガポール・スポーティング・クラブを設立したことで、シンガポールに競馬が導入された。同クラブは、1924年にシンガポール・ターフ・クラブへと改名された。競馬への関心の高まりに対応するため、STCはセラングーン・ロードの競馬場を売却し、1933年にブキティマに新しい施設を建設した。1999年には現在のクランジへと移設された。STCは長年にわたり、故エリザベス女王2世を含む要人を迎え入れたり、ユース五輪などのイベントなども開催してきた。

 馬の輸出は10月5日の最終レース後に開始され、土地の引き渡しの準備と並行して、2026年3月までに完了する予定である。
 STCには現在240頭の競走馬がおり、当初の700頭からは減少している。
 クラブの歴史を記念し、最終日のレースはクラブの各時代に焦点を当て、その伝統を称えるものとされた。
 それぞれのレース名は、シンガポール競馬界の著名人にちなんで命名された。シンガポール・ゴールドカップの初代優勝者であるアブドゥル・マウィ騎手や、地元初の女性騎手であるマグダリーン・タン騎手などである。

 STCの社長兼CEOであるアイリーン・M・K・リム氏は次のように述べた。
 「今日、私たちはシンガポールの182年にわたる競馬の伝統を祝福するとともに、最も重要なこととして、シンガポール・ターフ・クラブの遺産を築きあげた献身的な従業員を称えました。彼らの情熱と献身がこの歴史的瞬間を形作ったのです」。
 「シンガポールの人々とともにこれからも続く思い出を作りながら、彼らを称えることは誇りであり、ふさわしい賛辞です。このレガシーが次の世代を鼓舞することを願っています」。

 2027年に終了を予定しているSTCは、25年間在籍した馬場管理長のR.ジャヤラジュ氏をはじめ、何人かの従業員に忘れがたい足跡を残した。多くの同僚たちと同様に、ジャヤラジュ氏も10月5日、複雑な心境を語った。「私たちはSTCを、そして競馬の最終章をお披露目する主催者の一員であることを、とても誇りに感じています。シンガポール競馬がなくなってしまうと寂しくなります。特に、私自身は25年間シンガポール競馬に携わってきましたので」。

By Kimberly Kwek
1シンガポールドル=約110円

[The Straits Times 2024年10月6日「Thousands gather to witness final horse races at Singapore Turf Club」]