タンパク質は長い間、調教師の間で多くの迷信の源になっており、その大部分が今でも存在し、信じられているのは残念である。
過剰なタンパク質の投与は、窒素尿症、発育期整形外科的疾患(DOD)および蹄葉炎のほか、背中の疾患までも含む多くの障害の根本的原因であると誤解されてきた。研究者レベルでは、過剰な食餌タンパク質を与えることが、DODや蹄葉炎を誘発することは確認できなかった。
おそらく最も一般的な誤解は、厳しい調教下ではより多くのタンパク質が必要であるという誤解、タンパク質はエネルギー源であるという誤解で、これらは全く事実と異なっている。
タンパク質自体は、重要な栄養素であると同時に成長を促す酵素およびホルモンといった化学成分の供給源となっている。
必要量以上のタンパク質を与えた場合、過剰量は過剰エネルギーと同じように体内に蓄えられることはない。過剰タンパク質は分解され、ごく一部はエネルギーとして利用される。残余(窒素を含む)は排泄されるが、この排泄は体に負担をかけている。つまり、窒素は腎臓から尿の排泄によって、取り除かれる。したがって、タンパク質含有量の多い飼料を与えた馬は、より多くの尿を生成する必要があるため、より多くの水を飲み、結果として寝藁をぬらして、厩舎内のアンモニア濃度を高くする。これは、おそらく調教馬の呼吸器にも影響を与えるだろう。
加えて、空腹の馬は最後のよりどころである筋肉タンパク質の分解に頼る前に、まず蓄積脂肪を利用するので、タンパク質が不足することはまずない。
タンパク質は、19世紀前半に発見された最初の栄養素の1つである。すべての生き物は、タンパク質を含み、すべての細胞の不可欠な成分を構成する。あらゆる動物は、数万種類の異なるタンパク質を持ち、個々が身体の特定機能に応じた独自の3次元の構造をしている。
タンパク質には、次のような7つの主な種類がある。
- 構造タンパク質(structural proteins): 体毛、腱、靭帯等
- 筋収縮調整タンパク質(contractile proteins): 筋繊維
- 貯蔵タンパク質(storage proteins)
- 生体防御タンパク質(defence proteins): 抗体
- 輸送タンパク質(transport proteins): ヘモグロビン
- シグナル伝達タンパク質(signal proteins): ホルモン
- 酵素(enzymes): 馬の体内における大部分の化学反応を促し調節する。
タンパク質は、アミノ酸として知られる小さな基本構成要素からなる大きな分子で、馬の育成に携わっている人々はタンパク質の総量にこだわりがちだが、アミノ酸の種類のほうがはるかに重要である。
タンパク質は、さまざまなアミノ酸の組み合わせで構成されている。各タンパク質のアミノ酸構造は異なり、同じ構造を持つものは存在しない。
22種類の異なるアミノ酸が存在するが、これらのアミノ酸には必須アミノ酸が含まれる。必須アミノ酸は、馬の体組織内で生成することができないので、飼料で与えられるか、または消化管内の微生物によって作られる必要がある。重要な必須アミノ酸として、リジン(lysine)、メチオニン(methionine)、トリプトファン(tryptophan)およびトレオニン(threonine)などがある。
その他のアミノ酸は、非必須アミノ酸として知られているが、これは馬の体内で作られることから、特に与える必要はない。
丈夫な消化管を持つ成馬は、アミノ酸のすべての必要量を十分に摂取することができ、タンパク質が欠乏することはない。
実際に研究者は、成熟した調教馬に十分な必須アミノ酸を投与すれば、タンパク質総量を減らすことができることを証明した。すなわち、必須アミノ酸のリジンとトレオニンが飼料に加えられた場合には、タンパク質含量が7.5%でもタンパク質の欠乏の徴候は認められなかった。
すべての穀物にはリジンが不足しており、比較的粗悪なタンパク質を含んでいるが、大豆は多量のリジンを含有しており、高品質のタンパク源である。混合飼料のタンパク質の品質を高めるために、大多数の飼料メーカーが大豆を原料として選択している。
タンパク質の豊富な飼料は、平均して16%のタンパク質を含有しているが、これは窒素を測定することにより、容易に知ることができる。粗タンパク質の割合は、すべての飼料袋のラベルに表示されている。しかし、これはタンパク質の品質または必須アミノ酸の含有量を示すものではない。
繁殖牝馬用の飼料は、妊娠中に必要な組織の特別な成長に備え、より高品質のアミノ酸を含んでいる。アルファルファ(マメ科の牧草)のような高タンパク質の飼料を単独で、あるいは飼料の品質を高めるために低タンパク質の乾草と混ぜて利用される。
繁殖牝馬に与えられる混合飼料は、タンパク質、特にリジンの含有量が多い。繁殖馬用補助飼料(stud balancers)・燕麦補助飼料(oat balancers)の中には、多量のタンパク質を含んでいるものもあるが、これらの補助飼料の投与量は少量にすべきである。
厳しい調教を受けている馬は、エネルギーの供給のためではなく、古い組織を取り替えるために若干多めのタンパク質を必要とする。調教馬は、飼料中に12%の粗タンパク質を必要とするが、2歳馬は発育の途上にあるため、もう少し多めのタンパク質を与えるほうがよい。
研究者は、必要量より多いタンパク質を与えられた競走馬は、必要量だけを与えられた競走馬より発汗量が増え、疲労が増し、またレース後の疲労回復に時間がかかることを証明した。
馬の成長段階ごとにエネルギー(カロリー)とタンパク質の最適な割合が存在する。この割合が正しければ、エネルギーは有効に活用される。飼料のエネルギー含量が増えるにつれて、アミノ酸の必要量は増えるが、馬の調教量の増加に対応して飼料を増加するだけで十分である。
要約すると、タンパク質の摂取不足が、成熟した競走馬で起きることは極めて少なく、むしろ過剰投与が、調子があがっている競走馬の新陳代謝に負担を与える可能性が極めて高い。
By Zoe Davies
〔Pacemaker 2007年4月号 「Dispelling the protein myth」〕