ウィンフリード・エンゲルブレヒト=ブレスケス(Winfried Engelbrecht-Bresges)氏はローレンス・ウォン(Lawrence Wong)氏の後任として2月1日に香港ジョッキー・クラブ(Hong Kong Jockey Club: HKJC)の最高経営責任者に就任(常務理事から昇任)したことで、前例のないほどの発展を遂げているHKJCの舵取りを任されることになった。同氏は、香港競馬にさらなる世界的存在感を与えようと望み、いくつかの野心的目標を語った。
1月にアジア競馬連盟(Asian Racing Federation)の会長に選任された同氏は、「私の目標の1つは、HKJCを世界的に認めてもらうことです。したがって、我々のレース映像を他の国 に配信するために数多くの話し合いをすでに始めています」と語っている。
HKJCは、成功を収めているシャティン(Sha Tin)競馬場とハッピーバレー(Happy Valley)競馬場の2つを運営している。近年、オーストラリア、日本、ヨーロッパそして数は少ないがアメリカを含む世界中から馬を集めるために、12月開催の香港国際競走の規模を拡大してきた。ヨーロッパとアメリカのチャンピオン馬であるウィジャボード(Ouija Board)は、HKJCが開催する12月の香港ヴァース(GI)と4月のクイーンエリザベス2世カップ(GI)に出走した。
しかし、香港の法律および他の競馬開催国との大きな時差のために、これまで香港はサイマルキャスト発売を恒常的に実施することが難しかった。ブレスケス氏は、この現状を近い将来変えることを予定している。同氏は、昨年8月に可決された法律によって共同賭金プールが可能になるであろうと述べている。課税問題と馬券発売方法は、今後解決されなければならないが、HKJCは何らかの取り決めが今年後半に結ばれることを期待している。
時差に関して同氏は、HKJCはサイマルキャスト映像を配信する最適の地域を検討中だと述べている。
同氏は、「たとえば、配信先としてラスベガスを考えています。香港の週末競走の場合、日曜日の午後1時の発走映像は、ラスベガスで土曜日の夜9時という最高の時間帯に配信できます」と述べている。他に市場として考えられるのはオーストラリア、ニュージーランド、シンガポールおよびマカオである。
2008年の夏季オリンピックの馬術競技が香港にあるシャティン競馬場隣接の施設で行われることになっているため、HKJCは2008年にさらに世界中から注目されることになる。HKJCは、馬場馬術競技場と障害飛越競技場およびクロスカントリー・コースを含む設備を1年半かけて建設した。
HKJCの薬物検査所は、夏季オリンピックの薬物検査に利用されることになっている。この薬物検査所の検査技術は最高水準であり、HKJCは極めて厳しい薬物規制基準を適用していることで知られている。たとえば、昨年12月の香港国際競走の際に行われた競走前薬物検査の結果、大活躍をしていたオーストラリアの短距離馬テイクオーバーターゲット(Takeover Target)の体内に微量の黄体ホルモン(17-alpha-hydroxyprogesterone hexanoate: 17-AHPH)が残留していることが判明し、その結果同馬はHKJCの裁決委員によって出走取消しを命じられた。1月末にHKJCの裁決委員は、同馬の馬主兼調教師であるジョセフ・ジャニアック(Joseph Janiak)氏に20万香港ドル(約300万円)の過怠金を科した。
同調教師は、香港国際競走の当日、「世界中で17-AHPHの検査をする国は香港以外にはありません。この薬物は、馬の能力に関係はありません。そもそも17-AHPHが投与されたのは、同馬を無事に香港に連れてくるためです」と述べ、今後も世界の馬を呼ぶためには、香港の薬物規制を変える必要があると主張した。
ブレスケス氏は、薬物規制は「重要な争点」であると述べている。故郷のドイツでオーナー・ブリーダーをしている同氏は、馬はアスリートであるため、体調を維持するための手段を必要とすることを理解していると述べた。
「しかし、競馬は結局、馬産のための選択過程であることを人々は強く意識しなければならないと考えています。関係者は、自分の馬の弱みと強みを知らなくてはなりません。弱みの隠蔽があれば、生産者の立場から言うならばそれは最悪の事態です。私は、非常に厳しい薬物規制基準の実施を支持します」と述べている。
同氏は、アメリカを含む世界各国で薬物規制基準の標準化に向けて注がれている努力をたたえ、アメリカで人工馬場が導入されつつあることを"すばらしい動き"と感じていると述べた。
同氏のもう1つの目標は、設備、賞金および馬を含め、香港の競馬商品の質を高めることである。大半の馬主が利益を上げるために苦労しているアメリカと比べると、香港はすでに馬主に対して大きな利点を与えている。
ブレスケス氏は、「香港はおそらく、世界で対費用収益率が最も高い地域の1つです。香港には1,200頭の現役馬がいますが、これら現役馬の年間総経費は、約4億8,000万〜5億香港ドル(約72億〜75億円)ですが、香港の年間賞金総額は6億8,000万香港ドル(約102億円)になります」と述べている。
香港で馬を持つことは制限されており、HKJCに申請することによってのみ可能となる。このため馬主申請者名簿に多くの人々が名を連ねている。ブレスケス氏は新規参入者が馬主になることに関心を持つように、小規模の共同組合を1つの組織に集約したいと考えている。
同氏は、「我々は、馬主を募集するためにいっそう柔軟性のある戦略を採用したいと考えています」と述べている。
HKJCはまた、最先端の勝馬投票技術を目指すよう努力しており、競馬ファンへのサービスとして、携帯電話とPDA(携帯情報端末)用に投票ソフトウェアを開発した。
ブレスケス氏は、「我々のビジョンは極めて明確です。我々は競馬界のリーダーになることを希望しており、実施することはすべて香港競馬が群を抜いて優れたものとなることに重点が置かれています」と述べている。
(1香港ドル=約15円)
〔The Blood-Horse 2007年2月17日「Leading Edge」〕