ジャドモント牧場(Juddmonte Farms)
2008年の収得賞金ランキングのトップ10に入る生産者の中で、アブドゥーラ殿下(Khalid Abdullah)所有のジャドモント牧場は“全出走馬に対する重賞勝馬率ランキング”に7.1%でトップに入った。同牧場の2008年の出走馬70頭の うち5頭の馬が重賞を制している。
同牧場は2008年に5つのG1優勝を獲得した。シャンゼリゼ(Champs Elysees 英国産)はウッドバイン競馬場のノーザンダンサーターフS(Can-G1)とハリウッドパーク競馬場のハリウッドターフカップS(G1) を制した。ファーストディフェンス(First Defense)はサラトガ競馬場のフォアゴーH(G1)を、モンザンテ(Monzante)はデルマー競馬場のエディリードH(G1)を、ベンチュラ (Ventura)はベルモントパーク競馬場のジャストアゲームS(G1)をそれぞれ制した。
ジャドモント牧場のもう1頭の重賞勝馬はコスチューム(Costume 英国産)である。
ベンチュラはBCフィリー&メア・スプリントに優勝後、2008年エクリプス賞最優秀牝馬スプリンターの最終候補に残ったが、最終的にはインディアンブ レッシング(Indian Blessing)が同賞を獲得した。その数年前にジャドモント牧場はチャンピオン馬バンクスヒル(Banks Hill 英国産)、インターコンチネンタル(Intercontinental 英国産)、リャファン(Ryafan)およびワンデスタ (Wandesta 英国産)を生産している。ジャドモント牧場は1995年と2001〜03年にエクリプス賞の最優秀生産者賞を受賞し、最優秀馬主賞は これまでに2度受賞している。
ジャドモント牧場はレキシントンとニューマーケットに牧場を持つ。そのほか、米国、英国、アイルランドの7ヵ所に牧場を持っている。所有する全350頭の繁殖牝馬のうち100頭近くが米国に繋養されている。
2009年のシーズンを迎えるにあたり、ジャドモント牧場に残念なことがあった。同牧場は20歳の繁殖牝馬トーサウド(Toussaud)を1月5日、 安楽死で亡くしている。2002年の最優秀繁殖牝馬に選ばれた同馬は、チェスターハウス(Chester House)、エンパイアメイカー(Empire Maker)をはじめ4頭のG1馬を輩出した。
ジャドモント牧場
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ジョセフ・ラコンブ・ステーブルス(Joseph LaCombe Stables)
ジョセフ・ラコンブ・ステーブルスは今シーズン、目覚しい成績をあげただけでなく、2頭の兄弟馬により快挙を成し遂げた。
ラコンブ・ステーブルスが生産した兄弟馬は2週続けてハリウッドパーク競馬場でステークス競走を制し、いずれの勝利においてもコースレコードを出した。 11月27日にスルーズティズナウ(Slew’s Tiznow)が1700 mのウォーチャントSを1分40秒34で制し、12月6日にスルーズティジー(Slew’s Tizzy)が1800 mのネイティブダイバーH(G3)を1分46秒78で制した。
いずれの馬もティズナウの産駒であり、母馬は出走した4頭の仔馬のうち3頭の勝馬を輩出したヘパティカ[Hepatica 父スルー ピー(Slewpy)]である。なおヘパティカには現在、3頭の未出走の仔馬がいる。ヘネシー(Hennessy)産駒の3歳牝馬ストーミース ルー(Stormy Slew)、デピュティコマンダー(Deputy Commander)産駒の2歳牝馬インペレーター(Imperator)そしてストーミーアトランティック(Stormy Atlantic)産駒の名前のない1歳牡馬である。
2008年の同ステーブルの重賞勝馬4頭のうちの1頭がスルーズティジーである。他の重賞勝馬は、ベストパルS(G2)の勝馬アズールレオン(Azul Leon)、サンズポイントS(G2)の勝馬ロウシルク(Raw Silk)、トゥズラH(G3)の勝馬トリックスピック(Trick’s Pic)である。
25頭の出走馬からこれら4頭の重賞勝馬を出し、勝率16%で、ラコンブ氏は“全出走馬における重賞勝馬率ランキング”で1位となった。
76歳のラコンブ氏は、監査法人の地域副社長で、その監査法人に加盟している会計事務所の会長であった。長年競馬ファンであった同氏は、1990年代半ばに馬の購入を開始した。
ラコンブ氏は1997年の2歳のシーズンにおいて8戦8勝し年度代表馬となったフェイバリットトリック(Favorite Trick)の所有者として有名である。
ジョセフ・ラコンブ・ステーブルス
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ユージン・メルニク氏(Eugene Melnyk)
ユージン・メルニク氏はオーナー・ブリーダーで、生産馬の勝利を楽しんでいる。
2008年も2頭の生産馬が活躍して牧場の成績に貢献し、同氏を喜ばせた。2007年のカナダ年度代表馬シーリーヒル(Sealy Hill)は2008年のステークス競走に勝つことは出来なかったが、現役最後のレースであるBCフィリー&メア・ターフを芝チャンピオン牝馬フォーエ バートゥギャザー(Forever Together)の2着で終えた。シーリーヒルは2008年に収得賞金額が65万9287ドル(約6593万円)で、これはメルニク氏が生産したサラブ レッドの中で最高である。
もう1頭は、ウッドバイン競馬場のオータムS(Can-G2)を制しカナダ・チャンピオン古馬の栄誉を獲得したマーチフィールド(Marchfield)である。
繁殖牝馬ばかりでなく、メルニク氏はケンタッキーとフロリダに、チャンピオンスプリンターであるスパイツタウン(Speightstown)、ストロングホープ(Strong Hope)、フラワーアレイ(Flower Alley)などの種牡馬を繋養している。
薬品会社バイオベイル社(Biovail Cop.)の創始者で前会長であるメルニク氏は、その競走成績もさることながら、競馬場外での数々の慈善寄付の面でも有名である。メルニク氏はニューヨー ク州エルモントにあるベルモントパーク競馬場のアンナハウス(Anna House)の建築のためにベルモント育児協会(Belmont Child Care Association)に100万ドル(約1億円)を寄付した。
ナショナル・ホッケー・リーグのオーナーで、オタワ州の上院議員でもあるメルニク氏は、アフガニスタンを訪問し、米軍とカナダ軍のホッケーチームに用具とジャージを寄付した。同氏は、子供、医療、教育およびスポーツの分野で、多数の慈善運動を支援している。
ユージン・メルニク氏とその妻ローラ(Laura)は、2005年にサラブレッド馬主・生産者協会(Thoroughbred Owners and Breeders Association)から米国年度代表馬主賞を授与された。
ユージン・メルニク氏
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モンティキュール牧場(Monticule Farm)
ゲイリー・ナップ(Gary Knapp)博士のモンティキュール牧場は、2冠馬であるビッグブラウン(Big Brown)を生産し、13万4645ドル(約1346万円)という金額で“出走馬1頭あたりの収得賞金ランキング”の1位となった。
モンティキュール牧場は2008年に、総額357万6700ドル(約3億5767万円)を獲得した3歳馬チャンピオンのビッグブラウンを筆頭に29頭を出走させ、収得賞金ランキングで11位に入った。
ナップ氏は競走馬の成績を予測するためにバイオメカニクス[訳注:生物の構造や運動を力学的に探求する学問]を使用するエクイックス・バイオメカニック ス社(Equix Biomechanics)に出資している。ビッグブラウンは1歳馬のとき、エクイックス社の立馬検査と歩様分析において高得点を得ていた。バウンダ リー(Boundary)の牡馬であるビッグブラウンは、2006年ファシグティプトン社(Fasig-Tipton)の1歳馬セールにおいて600万ド ル(約6億円)で売却された。
ナップ氏は、ビッグブラウンがケンタッキーダービー(G1)を制したときに、「ビッグブラウンをここで生産・育成し、セリに出したことに満足しています。同馬が活躍しているのを見るのは大変嬉しいです」と述べた。
モンティキュール牧場の誇りは、レキシントンの630エーカー(約252 ha)の牧場に繋養している21頭の繁殖牝馬である。その繁殖牝馬のなかにはビッグブラウンの母馬である10歳のミエン[Mien 父ヌレイエフ(Nureyev)]がいる。
ビッグブラウンの血筋はモンティキュール牧場の繁殖牝馬の多くに流れている。
ナップ氏は、「当牧場からクラシック勝馬が出ました。この業績は消えることなくずっと残るので大変嬉しいです」と述べた。
ナップ氏はまた、サラブレッドの販売においても成功を収めている。2006年、同氏はプラビアス[Plavius 父ダンジグ(Danzig)、母 シャープミニスター(Sharp Minister) 母の父デピュティミニスター(Deputy Minister)]を920万ドル(約9億2000万円)で売却している。
モンティキュール牧場
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By Frank Angst
(1ドル=約100円)
[Thoroughbred Times 2009年2月7日「Rare bread―Leading breeders of 2008」]
次号(9号)には「北米のリーディング・ブリーダー(連載 3)」を掲載