ブリーダーズカップ社(Breeders’ Cup Ltd.: BCL)のグレッグ・アヴィオリ(Greg Avioli)会長は1998年、全米サラブレッド競馬協会(NTRA)の顧問および業務部長として競馬界入りした。
NTRAでの8年とBCLでの3年半の経験(9ヵ月のCEO代行と2年9ヵ月の会長)において、アヴィオリ氏は近年の馬券売上げと賞金額の記録的な成長の絶頂にあった競馬界および生産界を目の当たりにしてきた。
ブリーダーズカップ(Breeders’ Cup World Championships: BC)も、2007年に2日間のイベントとなり、2008年には14レースとなる拡大を遂げた。2006年当時、BCは8レースを施行する1日のイベントであった。
競馬が縮小に直面している現在、アヴィオリ氏はBCがその流れに沿って縮小するとは考えていない。アヴィオリ氏は、国際的な振興策、2014年までのESPN(Entertainment and Sports Programming Network 娯楽スポーツテレビ放送ネットワーク)との放映契約、そして特別出走枠と競走プログラムに関する変更などによって、BCがブランドとしてまた米国競馬の最大イベントとして一層進化すると期待している。
12月11日、BCLの短期および長期の計画について議論するために、BCL全体の役員会が行われるのに先立ち、アヴィオリ会長は以下のとおりサラブレッドタイムズ誌の質問に答えた。
サラブレッドタイムズ誌(以下:Q): 2008年と2009年のサンタアニタ競馬場でのBC連続開催の成果についてどのような評価をされていますか?
グレッグ・アヴィオリ会長(以下:A): BCは、2008年に引続き競馬産業全体が苦境にあった2009年において明るい材料となり、BCクラシック(G1)で優勝したゼニヤッタ(Zenyatta)のパフォーマンスは競馬界全体を盛り上げました。サンタアニタ競馬場での連続開催は、BCの成功全体において大きな役割を果たしました。同じ場所で2年連続開催したことで、私たちは経営成績においていくつかの驚くべき成長を目の当たりにしました。それは、(1) 入場者数が11%増加し9万6000人を超えたこと、(2) 2009年は国内の馬券売上げが2桁減少しているにもかかわらずBCの馬券売上げは3%増加したこと、(3) 海外からの出走馬が34頭を記録したことです。あらゆる面で、施行場のサンタアニタ競馬場ばかりでなく、施行団体のオークツリー競馬協会は、BCLにとって絶好のパートナーです。
Q: 初めて人工馬場(プロライド馬場)で施行された2年間のBCにおける出走馬のうち、前走がダート馬場であった馬は総じて良い成績を収めることができませんでした。このことついてどのように思われますか?このことは、将来のBC開催競馬場の決定に影響を及ぼしますか?
A: それは1つの懸念ではあります。しかし、偏った議論をしたがる人々は、ミッドナイトリュート(Midnight Lute)が2007年にモンマスパーク競馬場の水浸しのダート馬場でBCスプリント(G1)を制し、2008年にもサンタアニタパーク競馬場のプロライド馬場で同競走を連勝したこと、そしてその間にサラトガ競馬場のダート馬場で勝利を収めたことを忘れていると思います。2年間の限られたレース数では、プロライド馬場が芝馬に向いているかどうか、おそらく確定的結論に達するための十分な実例にはなりません。私たちの主な関心は、競馬場が人工馬場であろうとダート馬場であろうと、安全で安定した馬場を持つことです。その意味では、サンタアニタ競馬場の馬場は見事でした。2010年のBCはチャーチルダウンズ競馬場のダート馬場に戻るでしょう。まだ人工馬場は発展途上にあり、BCLの役員会は引続き人工馬場を偏見のない目で注視していきます。
Q: BCの放映がESPNに移って視聴率が下がりました。ESPNとの契約を成功とする根拠は何ですか?
A: ESPNとの提携で視聴率が上がれば良かったのですが、視聴率そのものは1つの要素でしかありません。じっくりと視聴者の動向を分析したところ、1700万人の人々がESPNを通じて、2日間で合計8時間の中継において、平均視聴時間は1時間を越えていたことが分かりました。
また、私たちが惹きつける必要のある若年男性層に対し、ESPNは文字通り数百万ドルの競馬の販売促進を行いました。1つの例として、ESPNはBCに至るまでの間、その販売促進のために300ものスポット広告を放映しました。これはBCおよび競馬界全体にとって真の価値であり、私たちはESPNとの協調を総合的に評価する要素としてこのことを組み入れています。
Q: BCは南カリフォルニア、ケンタッキーおよびニューヨークで最も頻繁に開催されてきました。これらの独自の強みと弱点は何でしょうか?BCはもはやこれらのエリア以外に戻ることはないのでしょうか?
A: 現在進行中の戦略的計画の1つは、2010年以降にBCをどこで開催すべきかを決定する基準を作ることです。このことはBCLの12月の役員会で私たちが取り扱う主要ポイントの1つとなります。サンタアニタ、チャーチルダウンズおよびベルモントパーク競馬場は、最も頻繁にBCを開催していますが、それは世界レベルのイベントを開催する能力を立証したからなのです。
Q: エクリプス賞の投票にBCの競走成績が大いに反映される制度を支持しますか?
A: NTRA(全米サラブレッド競馬協会)、全米競馬記者協会(Turf Writers Association)およびデイリーレーシングフォーム紙(Daily Racing Form)はエクリプス賞の受賞者の決定に関して賞賛に値する活動をしています。私たちは受賞候補馬への投票基準の設定は彼らに任せています。しかし、BCが年末に部門別のチャンピオン馬を決定するのにあたり重要な役割を演じていることは歴史が物語っています。年度末に施行されるBCは、シーズンの最高のものを決定するイベントとして成長し続けると思います。従って、その役割が減るとは考えていません。
Q: イベントの地位を上げるために、BCの広報にハリウッドのスターなどの有名人を起用されました。2010年にはBCの舞台はチャーチルダウンズ競馬場に移り、2011年にはベルモントパーク競馬場に移る可能性があります。ロサンジェルスの市場から離れてBCがその地位を確立し続けるためにどのような戦略がふさわしいのでしょうか?
A: 有名人の起用はロサンジェルスにとって正しい戦略でした。前進するためにどのように取り組むかは、ある意味BCがどこで開催されるかによります。過去2年間、ハリウッドの娯楽界はBCを取り上げてくれました。
競馬のことをよく知っている真のファンであるクライヴ・オーウェン(Clive Owen)氏やデニス・ホッパー(Dennis Hopper)氏のような有名な俳優に協力していただいたこと、『ボストン・リーガル(Boston Legal)』、『クリミナル・マインズ(Criminal Minds)』、『カーブ・ユア・エンシューシアズム(Curb Your Enthusiasm)』、『ダンシング・ウィズ・ザ・スターズ(Dancing with the Stars)』、『デスパレートな妻たち(Desperate Housewives)』、『アントラージュ(Entourage)』、『グレイズ・アナトミー 恋の解剖学(Grey’s Anatomy)』および『ロスト(Lost)』のようなテレビ番組に出演した俳優にご協力いただいたことことは、素晴らしいことでした。彼らは競馬場に来ただけではありません。TV番組『アクセス・ハリウッド』やいくつかの雑誌のような娯楽メディアで、彼らは自発的にBCの宣伝もしてくれました。
エリザベス・バンクス(Elizabeth Banks)氏が『ジェイ・レノ・ショー(Jay Leno’s show)』でBCについて話してくれたのが好例です。それらは一般大衆にBCを広く知らしめ、BCのブランド性を高めてくれました。
Q: 種付料が下落し、生産頭数が減少しているために、BCLの種牡馬登録料と産駒登録料の収入は減少するように思われます。BCLはこの収入減を他の方法で補填する計画を持たれているのでしょうか、あるいは経費を削減するのでしょうか?
A: ここ数年BCLの最優先事項の1つは、長期にわたる種牡馬登録料と産駒登録料への依存を減らすために、BC開催の収入とスポンサー料収入を増加させることでした。私たちはこの点に関して若干の成功を収めており、BC開催とスポンサー料収入全体が、2002年〜2005年までの7400万ドル(約74億円)に対してこの4年間は1億700万ドル(約107億円)にまで増加しました。
私たちは、とりわけこの経済的に厳しい時期に種牡馬登録や産駒登録などの特別登録をして頂いている生産者や馬主に同情を感じており、特別登録以外の収入に関するさまざまな可能性も模索しています。これは私たちが戦略的計画の1つとして厳密な調査を行っているもう1つの事柄です。
Q: BCは、その2日間全体における賞金を削減するのか競走数を減少させるのか、どちらなのでしょうか?BCマラソン、BCダートマイルおよびBCターフスプリントのようないわゆる特殊レースを追加することで、BCはどのような恩恵を実現できたのでしょうか?
A: 拡大された2日開催で14競走を施行したことは、真の恩恵をもたらしました。BCの金曜開催の総売上げは北米の1日総売上げのトップ5に入りました。世界中からより多くの馬が高額賞金を目指して参戦しており、競馬産業全体の縮小傾向にもかかわらず毎年馬券の売上げは増加しています。2007年以前は、BCには通常90頭〜100頭の出走馬がありました。競走プログラムを拡大してから、現在は140頭〜150頭の出走馬があり、特別出馬登録申込をした馬主に対して最も大きな舞台に参加するチャンスを与えています。最終的に私たちは役員会レベルで競走数を検討し、どこが機能していてどこを改善できるのかを評価します。
Q: BCはこの経済低迷期においても、イベントを成長させるため果敢に挑戦しています。あなたは、成長を続行させることに重点をおくつもりですか、あるいは今後数年は現在のレベルを維持することに重点を置かれるのでしょうか?
A: BCが世界最高のスポーツイベントの1つであり続けるためには、私たちは成長と革新を続けなければなりません。そのためにはBCの競走数と賞金を増やすことに加えて、他の方法を取ることが必要となるでしょう。
例えば、私たちはBCと“通常シーズン”の競馬とをどのようにしてさらに連携させるかについて検討しています。それは、(1) メルボルンカップ(G1)に似たやり方でイベントのエンターテイメントの側面を拡大すること、(2) 賭事業者との提携を強化すること、(3) とりわけ私たちが今年真の利益を得たソーシャルネットワーキングの領域で、より挑戦的なマーケティングを行うこと、などです。
Q: 馬券売上げを増加させるために、どこに可能性を見出しますか?海外だけでしょうか? この2年間における欧州調教馬の成功は、その方程式にどのように組み込まれますか?
A: 2009年は海外におけるBCの馬券の売上げは30%増加しており、BCは海外からの参戦馬を惹きつけ続けていますので、この傾向は続くでしょう。850億ドル(約8兆5000億円)の国際的な馬券市場は、米国の重要な長期の成長機会であり続ける一方で、米国内においてもまだ売上げの上昇傾向があるでしょう。過去数年に関する調査によれば、米国内には2000万人もの競馬ファンがいることが示されています。私たちは賭事およびサイマルキャストのパートナーを介そうが介すまいが、開催前にイベントに対する興味と強い熱意を高めることで、そして新旧のメディアを通して、これら多くのファンを惹きつけなければなりません。この標的としている層には伸びしろがあります。
Q: 2010年、2015年、2020年においてBCがどのような展開を辿ることを期待していますか?
A: 私たちはBCの発案者であるジョン・ゲインズ(John Gaines)氏の生産対策としての使命を本旨としており、競馬における重要な国際イベントとしての特徴を続行させ、国内外で馬券売上げと入場者数を増加させ、公正確保の問題で引続き先導し、BCが提供すべき最善のものを具体化し、結果として私たちは多くの人々にサラブレッド競馬に投資し続けるように促していきます。
thoroughbredtimes.com 2009年12月9日「Breeders’ Cup expands as the industry contracts」]