専属の獣医師や馬主友達が、持ち馬が病気になるのを防ぐために、健康 な馬に1年を通じて定期的に抗生物質を与えるよう勧めた場合、馬主の皆さんは、そのような助言はばかげていると考えるかもしれない。そう考えるのは、正し いことである。しかし、皮肉なことに、大多数の馬主は、数十年も前の忠告に基づいて、馬に定期的に駆虫剤を投与することにより、極めて類似したことを行っ ている。
馬を駆虫剤で治療することと、有効な寄生虫駆除プログラムを実施することには大きな差異がある。馬主の多くは駆虫剤に対する寄生虫の耐性は、深刻な問題 であることを認識していない。将来、寄生虫の駆虫剤耐性の問題が生じるのを避けるために、新たな駆虫剤使用要綱が是非必要である。
1つの記事で寄生虫駆除といった広範囲のトピックを完全に網羅することは不可能であるが、馬主はどのような点を注意すべきかに関して、アメリカで最も著名な2人の獣医寄生虫学者の意見を伺った。
従来の駆除方法の再検討
多くの人々が現在も踏襲している2ヵ月ごとの駆虫剤投与という従来からの駆虫剤使用要綱は、40年前ないし50年前に使用され始めたものであり、今日とは全く異なる寄生虫問題に基づいている。
ジョージア大学獣医校(University of Georgia’s College of Veterinary Medicine)の伝染病学部(Department of Infectious Diseases)で寄生虫学の準教授をしているレイ・M・カプラン(Ray M. Kaplan)獣医学博士は、「時代遅れの駆除方法の厳格な固守は、恐れという心理状態をもたらしています。馬主が馬に駆虫剤を頻繁に与えるのは、そうし なければならないと考えているためであり、また駆虫剤を頻繁に投与しなければ何が起きるか心配だからです。我々が現在直面している新たな諸問題に対応する ため寄生虫駆除方法が近代化できるよう、馬主と獣医師が寄生虫生態学に関する最新の知識を身につけることが重要です」と述べている。
ノックスビルにあるイーストテネシー臨床研究所(East Tennessee Clinical Research)の所長クレイグ・ライネマイヤー(Craig Reinemeyer)獣医学博士は、「最大の課題の1つは、3種類の基本的な化学系駆虫剤しかないということです」と述べている。同博士は、オハイオ州 立大学(Ohio State University)で獣医寄生虫学の獣医博士号を取得し、1984年から1998年までテネシー大学獣医校(University of Tennessee College of Veterinary Medicine)で教鞭を取った。同博士は、「製薬会社は、新しい駆虫剤を発見しようと努力していますが、困難な状況です。馬の寄生虫に対する新しい駆 虫剤が開発される見込みは、現在のところかなり低いですが、製薬会社は開発に努力しています」と述べている。
3種類の駆虫剤は、(1)ベンゾイミダゾール(フェンベンダゾール:Safe-Guard, Panacur; オキシベンダゾール:Anthelcide EQ)、(2)テトラヒドロピリミジン(ピランテル塩:Strongid)ならびに(3)大環状ラクトンとも呼ばれるアベルメクチン/ミルベマイシン(イ ベルメクチン:Eqvalan、Equimetrin、Zimectrinおよびモクシデクチン:Quest)である。
馬の寄生虫を駆除するために利用できる化学系駆虫剤は3種類しかないため、薬剤耐性が現実の問題となっている。現在、ベンゾイミダゾールに対しては最も多くの耐性寄生虫が存在する。
世間一般の意見と異なり、寄生虫の耐性が向上するのは、同じ駆虫剤を頻繁に使用するためだけではない。耐性は、駆虫剤が必要以上に投与される場合にも生じる。
ライネマイヤー博士は、次のように述べている。「非常に特異な寄生虫は、異なる生化学的メカニズム等を通じて、さまざまな駆虫剤による処置を乗り切る先 天的な能力をもっています。この特徴は、遺伝的に伝えられます。ただし、この特徴はこれらの寄生虫がほかの個体群に比べてある種の優位性をもっていない限 り、まれにしか起きません。駆虫剤が投与された後、駆虫剤に影響されやすいすべての寄生虫は、次々に死んでいきます。寄生虫は駆虫剤の投与後、4週間から 12週間の間、増殖しませんし、また卵を生みません」。
「その間、死ななかった耐性個体は、生存競争がないため増殖することができます。したがって、遺伝子頻度は、個体群の中でゆっくりと、しかし確実に増加 します。同じ駆虫剤だけが投与される場合や駆虫剤が過剰な頻度で投与される場合は、耐性寄生虫が全個体群の中で増殖可能な唯一の寄生虫になるため、これら 2つの方法は、耐性発達の度合いを加速させます」。
いったん耐性寄生虫が個体群の大部分を占めるようになると、駆虫剤は耐性寄生虫の駆除に効かなくなる。
異なる駆虫剤の交互使用は、効果のある駆虫剤を効果のない駆虫剤と組み合わせて使うことによって寄生虫による臨床的影響を隠すことができる。定期的に駆 虫剤を投与した駆虫に責任のある馬主は、誤った安心感を抱くことがある。効果のない駆虫剤を使用した場合、深刻な寄生虫による問題にさらされる可能性があ る。
幸いなことに、駆虫剤が効いているかどうかを確認するためと、馬が治療を必要とする時期を決定するための簡単な方法がある。
虫卵数検査
カプラン博士は、「治療を必要としない馬に投与することによって、駆虫剤への抵抗力を強めてしまいます。もし虫卵数検査によって馬を観察しなければ、い つ治療プログラムが機能しなくなったか分かりません。私はこれまでに牧場で寄生虫病の深刻な発生を目にしてきましたが、いつもその原因は駆虫剤を投与して いなかったためではなく、効果のない駆虫剤を使用したためです」と述べている。
糞便内虫卵数計算(FEC)および糞便内虫卵数減少検査(FECRT)は、馬が駆虫剤投与を必要としているか、そしてどの駆虫剤が有効であるかを決定す るのに役立つ。間違いがないとは言えないが、FECRTは現在のところ、寄生虫耐性、とりわけ円虫の耐性を確認するための最善の方法である。FECRT は、約15ドル(約1,500円)ないし25ドル(約2,500円)かかり、新鮮な馬糞検体を必要とする。
FECRTは、駆虫剤を投与したときにFEC用の糞便検体を採取し、また投与してから10日後ないし14日後に再度糞便検体を採取して実施される。駆虫 剤投与後における糞便1グラム当たり虫卵(EPG)の数は、駆虫剤投与前のEPGと比較される。駆虫剤が効いている場合、EPGは90%以上減少してい る。EPGの減少が90%を下回る場合は、駆虫剤の効果は疑わしい。EPGの減少が80%未満の場合は、寄生虫が特定の駆虫剤に耐性を有する兆候であり、 当該駆虫剤はもはや効かないと考えられる。
FECRTの時期は重要である。これは、直近の有効な駆虫剤の投与後、あまり早い時期に評価された場合は、EPG数が少ないことがあるためである。最後 に投与された駆虫剤がベンゾイミダゾールかピランテルである場合は、FECRTは駆虫剤を投与してから2ヵ月後に行えば十分である。ただし、イベルメクチ ンかモクシデクチンを投与し、それが十分に効いている場合は、効果がなくなるまで待つ必要がある。したがって、FECRTの適切な間隔は、イベルメクチン を投与した場合には約12週間であり、またモクシデクチンを投与した場合には約16週間である。
馬の約25%ないし50%は、検査の前に駆虫剤を投与されていなくても、虫卵数がゼロか、または非常に少ないことが調査の結果、判明している。これらの 馬は、虫卵低放出馬(low egg shedders)と呼ばれる。(最後の駆虫剤の効果がなくなった後)虫卵数が多い傾向のある馬は、馬のうち約20%ないし30%だけである。虫卵高放出 馬(high egg shedders)と呼ばれるこれらの馬は、一番効果のある駆虫剤で治療されるべきであり、この駆虫剤はFECRTを利用することにより決定される。
カプラン博士は、「寄生虫駆除プログラムを作成するための最善の方法は、虫卵数が多いのはどの馬であり、また少ないのはどの馬であるかを決定するために 虫卵数計算を利用することです。虫卵数の少ない馬を対象とする基準プログラムを作成して、有効な駆虫剤を使用するべきです。その後、虫卵数の多い馬を追加 的に治療しなければなりません」と述べている。
寄生虫の伝播
事実上すべての放牧馬が伝染力のある円虫の仔虫にさらされることが調査によって明らかになっている。馬房の清潔な状態と乾燥している牧場は寄生虫の生存にとって好ましくないため、このような環境で飼育されている馬は、円虫の仔虫にさらされる可能性がはるかに少ない。
馬の腸にいるメスの円虫が卵を産み、それが馬糞とともに排出される。気温が華氏45度ないし85度(摂氏7.2度ないし29.4度)に達すると、これら の卵はふ化し、生まれた仔虫は馬糞塊の中で成長する。伝染力のある仔虫は、馬糞から出て飼草のほうに這っていく。草を食んでいる馬がこれらの仔虫を摂取し て、寄生虫の生態系サイクルが新たに始まる。
馬は「ラフ」と呼ばれる排便エリアで草を食むことを当然のことながら避ける。調査によると、ラフは「ローン」と呼ばれる牧場の草食エリアよりも15倍多 い仔虫を含んでいる。牧草地での馬の放牧密度が高すぎる場合には、馬はラフで草を食むことを強いられ、仔虫を摂取する確率が非常に高くなる。
牧草地を鋤きならすことは、大部分の牧場で普通に行われていることである。これは、牧場の見た目をよくする一方で、寄生虫に大きな「支援」を与えること になる。牧草地の鋤きならしは、馬糞の山を崩して、伝染力のある仔虫を草食エリア全体に一様に分散させることによって、自然の分離という絶妙なシステムを 乱すことになる。
ライネマイヤー博士は、「牧草地を鋤きならすのに唯一適した時期は、暑くて乾燥した天候のときです。理想的にいえば、馬は2週間から4週間、牧草地に近 づけないようにするべきです。フロリダ州では、夏季に牧草地を鋤きならすことができ、大部分の仔虫は2週間で死にます。オハイオ州で10月に牧草地の鋤き ならしをした場合は、仔虫に対する影響はほとんどありません。いったん卵がふ化し、仔虫が伝染力を持つ段階に達すると、これらの仔虫は冬の間でも生き延び ることができます。寄生虫伝播に関する唯一にして最大の誤解は、寒い天候によって仔虫が死ぬという理解です」と述べている。
同博士は、仔虫は暑い天候よりも寒い天候のほうが生き残るためにエネルギーが少なくて済むため、冬のほうが仔虫の生存にとって好都合であると述べてい る。冬が到来したときにすでに牧草地にいる伝染力のある仔虫は、ほどよく生き残って馬に感染することができる。ただし、冬に馬糞と一緒に排出された卵は、 氷点下の温度によってたちまち死ぬので、暖かい天候が到来するまで、新しい仔虫が個体群に加わることはない。
寄生虫駆除の目的
カプラン博士は、「ほぼすべての種類の寄生虫に対する駆除の目的は、潜在的に伝染力のある段階の寄生虫による環境汚染を防止することです」と述べている。
同博士は、駆除プログラムの一環としての「駆虫剤投与」という言葉は、環境汚染防止よりも馬の治療を強調することになるので適切でないと付言している。
30日ないし60日ごとに駆虫剤をやみくもに投与する代わりに、カプラン博士とライネマイヤー博士は、古くからの習慣をやめて寄生虫駆除を年間サイクル として考え始めるよう馬主に対し強く勧めている。駆虫剤の投与は、寄生虫の伝播が起こりそうな時期に開始するべきである。南部諸州では、寄生虫の駆除サイ クルは、夏の終わりから早秋にかけて始まって春まで続けられる。北部諸州では、駆除サイクルは、冬の終わりから早春にかけて開始して秋まで継続される。
伝統的な駆虫剤投与プログラムの大きな問題は、馬を個体と見なさないことである。寄生虫感染の程度は、同じ牧場の同じ集団の馬でも非常に異なる。このこ とが他の馬ほど頻繁に駆虫剤を投与される必要のない馬がいる理由である。駆虫剤の投与頻度を決定できる唯一の方法は、FEC(糞便内虫卵数計算)である。
集中的治療(基本的治療の代わりではなく)を必要とする馬を特定するために、通常のFECが1年に約2回すべての馬に対して行われるべきである。
どの駆虫剤が個体群で効いているかを知るために、FECRT(糞便内虫卵数減少検査)を利用して3種類のすべての化学系駆虫剤をテストしなければならな い。過去に有効であった駆虫剤が今も効いているかを確認するために1年ごとまたは2年ごとにFECRTを繰り返す必要がある。駆虫剤に対する寄生虫耐性 は、急速に高まるが、現在のところFECRTはどの駆虫剤が効いていて、どの駆虫剤が効いていないかを知るための唯一の方法である。
By Cynthia McFarland
(1ドル=約100円)
[Thoroughbred Times 2010年2月27日「Deworming protocol」]