長い間スタートの合図のため撃鉄の起こされていたピストルが遂に鳴ら された。1999年にアンドリュー・ブラック(Andrew Black)氏とエドワード・レイ(Edward Wray)氏がウィンブルドンのワンルームのオフィスで設立し、翌年インターネットでサービスを開始した革命的な事業が、15億ポンド(約2,100億 円)の評価額で株式上場される。
少なくともベットフェア社(Betfair)の株の一部だけが公開されるだろう。なぜなら、新しい株は発行されておらず、既存の株式資本の10%しか購入可能とならない可能性があるからである。
おそらくそれは、株主が現在ベットフェア社の将来に抱いている信頼の尺度であり、同時に新しい投資家に信頼を与える必要性の現れである。
ところで、ベットフェア社はなぜ今のタイミングで株式上場を行うのだろうか?
ベットフェア社は、同社の紹介と透明性という点で、株式の公開が海外投資家と賭事統轄者にとって魅力的になり得るという利益を強調するが、もう1つの動機は、自分たちの所有株式の価値に気がついた何人かの主要株主が望んでいるということである。
株式公開は、相応しいと判断する時に株の一部を現金化する1つの手段である。おそらく経済不況の影響を受け、彼らの数人が資金を必要としている。あるいは、彼らは成長の鈍化に賭けるリスクの分散を望んでいるのである。
4年前にベットフェア社の株を大量に購入した者はかなりの利益を得る立場になったと考えるだろうが、ベットフェア社の現在の見積価格は、日本企業のソフ トバンク社が23%の株を3億5,500万ポンド(約497億円)と伝えられる価格で購入した2006年とおおよそ同額である。現在の評価額15億ポンド (約2,100億円)はベットフェア社の年間収益の約30倍であり、この割合は将来の大きな成長見込みを表わしている。
現在ベットフェア社の株式資本の25%を保有しているブラック氏とレイ氏は、持ち株の少なくとも10%を提供することを明らかにしているため、彼らには3,700万ポンド(約51億8,000万円)がもたらされることになり、しばらく大きな動きはないだろう。
一風変わっているが、ベットフェア社の魅力の1つは、負債がなく1億5,100万ポンド(約211億4,000万円)の現金を有していることである。そ してさらに今回の株式公開が、技術的および地理的に新しいチャンスを開拓するため、あるいは買収に資金提供するため、将来の更なる資金集めに余裕を与える ことになる。
ベットフェア社の評価を行うということは、その将来の潜在的な成長を予想することである。過去の成功のスピードと規模は疑いようのないものであり、その 結果、現在2,000人の職員と300万人以上の顧客会員を擁している。そしてこれらの顧客は、賭事口座に総額2億8,000万ポンド(約392億円)以 上を預けており、すべての欧州株式市場で扱われる金額を上回る1日当たり500万ポンド(約7億円)の取引を行っている。
ベットフェア社は、賭事市場と公正問題の扱い方を革命的に変えただけではなく、目覚ましい技術を持つ革新者でもあることを証明した。英国経団連 (Confederation of British Industry:CBI)の年間優秀企業賞2回と企業に贈られる英国女王賞(Queen's Award)2回を含む一連の権威ある賞を何回も受賞したことは不思議ではない。
これは目覚しい成功であり、ベッティング・エクスチェンジをチャレンジできないような独占的な立場に至らせるため、素晴らしい技術を用いて開発された巧みな仕組みとして、これはめったにない実例である。
ベットフェア社は、非常に有能な人々により創立され運営されている企業である。ハマースミスの本社を訪れた人で強い印象を受けない人はいない。しかし、 2010年3月の事業年度終了時に1億ポンド(約140億円)以上を売り上げて絶賛されたベット365社(Bet365)ほど収益力の高いインターネット 賭事業者とはならなかった。
創業当時は向こう見ずな経営であったが、英国のブックメーカーだけでなくオーストラリアの賭事・競馬団体と激しい戦いを交えていた第一線からブラック氏とレイ氏が徐々に身を引いたため、必然的に、だんだんと現在の法人組織としての社風に引き継がれてきた。
ベットフェア社は、2006年についにタスマニア・ゲーミング委員会(Tasmanian Gaming Commission)から賭事運営免許を取得した。そして現在は、クラウン社(Crown Limited)との合弁事業となっているが、ベットフェア・オーストラリア社(Betfair Australia)は、課税率の高いオーストラリア市場に比較的控えめに参入するために多額の費用を投じて苦闘しなければならなかった。
ベットフェア社が将来とも発展できるかどうかは、欧州、アジア、北米においてインターネット賭事に立ちはだかる国際的な障壁がどれだけのスピードでどの程度取り除かれるかにかかっている。
2009年にベットフェア社が、主要競馬テレビチャンネルでありインターネット賭事会社であるTVG社を買収したことは、米国市場への戦略的に有益な参 入となった。しかしニュージャージー州やカリフォルニア州などでは最近若干の動きが見られるものの、米国全体で本格的なベッティング・エクスチェンジを確 立するための道のりは依然として長く険しいものである。
一方ベットフェア社は英国において、政府を説得してベッティング・エクスチェンジに損害を与える可能性のある税制と賦課制度を強要しようとする相次ぐ執 拗な攻撃に直面している。これらは、ブックメーカーとBHA(英国競馬統轄機構)にとって望ましい結末である、ベットフェア社の競争力減退を招く可能性が ある。
このような状況にもかかわらず、ベットフェア社は現実的にどれだけ多くの競馬賭事客を惹きつけることができるのだろうか。競馬賭事市場はほぼ飽和状態に なっているのだろうか。ベットフェア社が洗練された博識な賭事客とトレーダーを惹きつけているため、ベットフェア社が適用するオッズは、同社が存在しな かった時のオッズよりも各馬の実際の勝率をより正確に表わしている。この結果ほぼ間違いなく、ベッティング・エクスチェンジはその初期に比べてあまり魅力 のないものになっている。当然のことながら、ベットフェア社は他の市場、とりわけサッカー賭事の市場における成長を模索している。
多くの不確実性はあるが、ベットフェア社への支持はその経営能力への信頼の問題に基づくものと考えられ、同社は過去の実績により今後とも信頼を欠くことにはならないだろう。
By David Ashforth
(1ポンド=約140円)
[Racing Post 2010年9月22日「A remarkable success−but horizon is not altogether clear」]