英国調教馬の海外流出の拡大は、香港ジョッキークラブ(Hong Kong Jockey Club: HKJC)が発表したこの5年で200%増加の数字で明らかになった。
馬主が魅力的な賞金の獲得を望むために、香港、オーストラリアおよびドバイなどの国外に一流馬をますます流出させているという英国競馬界の課題は、レーシングポスト紙が編集し分析した統計によって先週大きくクローズアップされた。そしてこの統計は、トップクラスではないレーティングが80以上の馬の将来を暗いものにしている。
BHA(英国競馬統轄機構)は、クラス2-4のレースの顕著な減少と、その結果生じたクラス5-7のレースの増加が特に懸念される問題であり、このことが乏しい賞金レベルとともに英国調教馬を海外に流出させる原因となっているとしている。
BHAといくつかの競馬場は、競馬場がその賞金をホースメングループ(Horsemen’s Group)の最低賞金額表に一致させていることがレース格下げの一因であるとしているが、ホースメングループは、今春に最低賞金額表が導入されるずっと前からレースの格下げを行っていた競馬場もあると断じて譲らない。
またHKJCは、2006年に英国から輸入した現役馬は20頭であったが、2010年には60頭以上であったと明らかにし、以下のように状況を詳しく述べた。
ドミナント(Dominant)、アクラメイジング(Acclamazing)、コードマスター(Codemaster)、ローマンソルジャー(Roman Soldier)およびチャールズザグレート(Charles The Great)を含む英国から香港へ移籍したすべての現役馬が、レーシングポスト紙のレーティングで100以上を持つ馬で、この傾向が今年で収まる兆しは見られない。
サラブレッドの売買仲介業者で、サックビル・ドナルド(Sackville Donald)氏のパートナーであるアラステア・ドナルド(Alastair Donald)氏は、香港との最大の取引業者であり、ヴィヴァパタカ(Viva Pataca)やコレクション(Collection)のような馬を香港に売却した。そして、「需要は上昇傾向にある」と述べている。
また同氏は、「取引は堅調で、多くの香港の調教師は以前からオーストラリアやニュージーランドの馬を多数購買しており、ヴィヴァパタカやコレクションのような馬が購買されることは、ますます多くの取引が英国となされていることを示しています」。
香港が定着した購買者である一方で、オーストラリアも近年欧州調教馬の輸出先として浮上している。
クリス・ウォラー(Chris Waller)調教師が最近獲得したシドニーのナンバーワン調教師の地位は、欧州から馬を購買するという決断のおかげである。同調教師が管理するスター馬の中にはマイキングダムオブファイフ(My Kingdom Of Fife)、フォアテラー(Foreteller)およびスタンドトゥーゲイン(Stand To Gain)などがいる。
昨年オーストラリアに売られた他の一流馬の中には、グラスハーモニアム(Glass Harmonium)、レベルソルジャー(Rebel Soldier)およびタクティック(Tactic)がいる。またサックビル・ドナルド氏は8月30日、クラスイズクラス(Class Is Class)も間もなく売却されることを明らかにした。
同氏は次のように語った。「オーストラリアの競馬界は賞金額の大幅増加から利益を享受しており、また多くの馬が多くの馬主の共同所有になっているため、オーストラリア馬は購買しにくくなっています。その結果、香港の購買者は英国に目を向けています」。
香港に移籍する英国馬の数が増加していることは、英国ブラッドストック・エージェンシー(British Bloodstock Agency)のケヴィン・ニーダム(Kevin Needham)氏によっても、裏付けられている。
ニーダム氏は香港における英国馬の需要の原因にはいくつかの要素があると考えている。それはポンド安、過去の輸入馬の成功、2007年のオーストラリアにおける馬インフルエンザの発生とその後の馬の輸出禁止である。このオーストラリアの馬の輸出の禁止によって購買者は他国での購買を余儀なくされた。
ニーダム氏は、「オーストラリアで馬インフルエンザが発生した後、香港はオーストラリアから馬を輸入することができなくなりました。香港は競走馬の生産がないため、即戦力の馬を年間300頭輸入しています。そしてオーストラリアのインフルエンザの一件の後に、欧州からの輸入馬はかつての60頭程度から70〜80頭に増加しました」と語った。
香港に輸出された英国馬 | ||||
年 | レーティング89以下のレースに出走経験あり | レーティング90以上のレースに出走経験あり | 未出走 | 合計 |
2006 | 9頭 | 11頭 | 11頭 | 31頭 |
2007 | 9頭 | 15頭 | 9頭 | 33頭 |
2008 | 13頭 | 24頭 | 9頭 | 46頭 |
2009 | 16頭 | 26頭 | 10頭 | 52頭 |
2010 | 29頭 | 31頭 | 11頭 | 71頭 |
同氏は次のように続けた。「優良馬が継続して購買され、結果的に大成功を収めたということです。オーストラリアの一件とポンド安は、英国調教馬を割安にしました。特にここ2年においては、香港の人々はレーティングが100以上の馬を購買しており、このことが英国の人たちを残念がらせています」。
「オーストラリアの一件で、英国馬の評判は再び確立しました。現在英国調教馬は以前は行かなかった調教場に入厩しています」。
「また、香港は過去にカリフォルニアと“即戦力”となる馬の獲得で競っていましたが、現在カリフォルニアに、以前のような活気はありません。香港の馬主はより豊富な資金を持っています」。
香港の財力による強い影響力は、G2の2着馬ドミナントを馬主たちの言う6桁(数十万ポンド)の価格でハイクレア社(Highclere)から購買したことで明らかになった。
ハイクレア社のハリー・ハーバート(Harry Herbert)社長は、権威ある香港ダービーを勝つ能力のある馬を所有したいという香港馬主の欲望が英国をターゲットにしていると確信している。
「もし2000 mの距離とどのような馬場にでも適応する馬がいるならば、そのような馬はなかなか得難い馬なので、香港の馬主は購買するでしょう。ただ現時点で英国がそのチャンスを提供することは難しいです」と同社長は語った。
そして次のように付言した。「ドミナントは、香港ダービーを勝つことのできる極めて少数の馬のグループに分類されたので、特別なケースだったのです」。
By Peter Scargill
[Racing Post 2011年9月1日「The Lost Generation」]