総賞金300万ドル(約2億4,000万円)のBCターフ(G1 芝)は英国チャンピオンズデーの賞金総額とほぼ同額の賞金を提供しているが、かつての欧州の優良馬にとっての磁石のように引きつける存在とはなりがたい。
2009年と2010年のブリーダーズカップにおいて、BCターフは7頭立てで行われた。これは1984年の第1回ブリーダーズカップ以来最も少ない出走頭数である。2011年は11頭が予備登録をしており、そのうち6頭が欧州から遠征してくるだろう。(訳注:2011年BCターフは9頭立てで欧州の遠征馬は5頭であった)。
ブリーダーズカップは世界中から出走馬を惹きつけることを誇りとし、“勝てば参加できる(Win and You're In)”条件のブリーダーズカップ・チャレンジをさまざまな国に拡大し、種牡馬登録を増加させ大きく発展してきた競馬イベントであるが、BCターフだけでなくブリーダーズカップの全競走における欧州からの遠征馬の欠如が問題として浮上しつつある。
10月15日に開催され大盛況であった第1回英国チャンピオンズデーは、今年のブリーダーズカップから多くの有力馬を奪い取った。
米国人たちは、凱旋門賞勝馬のデインドリーム(Danedream)、チャンピオンS勝馬のシリュスデゼーグル(Cirrus des Aigles)、英国チャンピオンズデーのクイーンエリザベス2世Sで欧州のスーパースターであるフランケル(Frankel)の2着となったエクセレブレーション(Excelebration)、チャンピオンSでシリュスデゼーグルの2着であったソーユーシンク(So You Think)、3着であったスノーフェアリー(Snow Fairy)を見ることはできない。ブリーダーズカップは、ほぼ間違いなく世界で最も能力の高い3歳馬フランケルの関係者にとって全く出走の検討対象になっていなかった。
欧州の優良馬の多くは、その代わりに賞金額の高い香港あるいは日本に遠征するだろう。ジャパンカップの総賞金は651万2,000ドル(5億2,100万円)で、ジャパンカップダートは339万2,000ドル(2億7,140万円)である。そして、香港国際競走においては総額で約870万ドル(約6億9,600万円)が提供される。欧州と同様の薬物ルール、馬の輸送費完全提供、関係者へのビジネスクラスの航空運賃と宿泊ホテルの提供もまた、欧州の競馬関係者を惹きつけている。
2012年は、英国チャンピオンズデーがサンタアニタ競馬場で開催されるブリーダーズカップのわずか2週間前に開催されるので、ブリーダーズカップにとってより難しい課題の年となるだろう。11月と12月に開催される日本と香港の選択肢は、より魅力的となるだろう。
来年のもう一つの悩ましい点は、サンタアニタ競馬場の本馬場が人工馬場からダート馬場に転換されることである。2008年には欧州の多くの調教師が人工馬場は芝馬にとって正しい方向性であり良い選択肢となると考えたので、欧州馬を惹きつけていた。欧州の馬は日常的に人工馬場で調教され、競走している。
国際競馬カレンダーの中でブリーダーズカップを必要不可欠な最終目標として再建する1つのステップは、2013年までに競走当日の薬物使用をすべて排除することである。欧州の競馬関係者は、米国における競走当日の薬物使用により不利となっていると感じ、ますます不満を持っていると伝えられている。欧州馬がブリーダーズカップのレースでサリックスの投与を容認されるとしても、欧州はこの薬物を定期的に投与することには慣れていない。馬にサリックスを投与したことで馬体が影響を受け、走行が思わしくなかったと報告した欧州の調教師も何人かいる。一方ブリーダーズカップ当日のサリックス投与を禁止することに伴う問題は、そのことでブリーダーズカップがアメリカの調教師を失うことになるかもしれないということである。
一方、英国チャンピオンズデーを9月中旬に移行させるという提案がある。それは、10月中旬が天候の点でかなりリスクがあるからであり、この変更はブリーダーズカップにとって好都合だろう。
ブリーダーズカップに国際色を維持させるのであれば、やらなければならないことが沢山あるのは明らかである。現在、南半球馬には減量が与えられている。おそらく、南半球馬の限定レースを作ることを考慮に入れる時期であり、年齢と馬の成熟度はより一層見合うものになる。このような変更は新しい市場拡大に繋がるだろう。
ブリーダーズカップは財産であり、ソーユーシンクのような馬をBCクラシックに惹きつけるのに十分な価値がある。海外の競馬日程との新たな調整および香港や日本などの大規模な賭事市場との共同プール賭事のような革新によって、ブリーダーズカップが成長しつづけることを期待したい。
By Eric Mitchell
[The Blood-Horse 2011年10月29日「What’s Going on Here−Competing Globally」]