海外競馬情報 2011年05月13日 - No.9 - 5
ヴィクトワールピサにある英国の血脈(イギリス)【その他】

 ヴィクトワールピサは日本の社台ファームで生産されてはいるが、3月26日の同馬のドバイワールドカップ優勝は、英国のサラブレッド生産界にとっての勝利でもある。

 サンデーサイレンスの代表産駒の内の1頭で、皐月賞と日本ダービーの勝馬ネオユニヴァースの2年目の産駒のヴィクトワールピサは、生産者ジョン・グリーサム(John Greetham)氏の勝負服を背に1997年のポモーヌ賞とジョンポーターSを制した英国産のホワイトウォーターアフェア(Whitewater Affair)を母としている。

 現在81歳のグリーサム氏は、ワイモンダムのワトルフィールド近郊を拠点とした馬の生産をもう行ってはいないが、自身の基礎牝馬であるショートコモンズ(Short Commons)の子孫がドバイワールドカップで優勝するのを見て喜んだ。

 グリーサム氏は思い出を次のように語った。「私は1973年にワトルフィールドに来て、牧場を買いました。牧場には草を食む動物が必要で、競走馬を生産することが頭に浮かび、キース・フリーマン(Keith Freeman)氏に連絡を取りました」。

 「フリーマン氏は私のために2頭の基礎牝馬を購買し、そのうち1頭がショートコモンズでした。同馬は購買時には16歳で、最盛期は過ぎていると言えたかもしれませんが、私にとっては良い馬でした」。

 ショートコモンズが残した唯一の牝馬は、ロレンザッチオ(Lorenzaccio)を父とし、1975年にマーストンスタッド(Marston Stud)で生産されたショートレーションズ(Short Rations)である。

 ショートレーションズは、オーストラリアのG1馬マルーンド(Marooned)や長距離適性のあるアークティックアウル(Arctic Owl)を含む13頭の勝馬を送り出した。しかし同馬の影響が最も強く現われたのは、1982年の産駒でバスティーノ(Bustino)を父とするマッチトゥーリスキー(Much Too Risky)である。マッチトゥーリスキーは、その母馬と同様に素晴らしい繁殖牝馬になった。

 グリーサム氏は、「フリーマン氏はバスティーノを管理するロイヤルスタッド(Royal Studs)のマネージャーであるマイケル・オスワルド卿(Sir Michael Oswald)と知合いで、ショートレーションズをバスティーノと交配させることを助言しました。その結果、母馬と同様に地味ですが勝鞍もあげ素晴らしい繁殖牝馬にもなったマッチトゥーリスキーが生まれました。同馬の産駒のうちの何頭かはやや重い馬場を好み体つきは細身ですが、スピードにも対応できました」と述べた。

 マッチトゥーリスキーの15頭の産駒のうち少なくとも12頭が勝馬となった。ホワイトウォーターアフェアは、2,400 m以上で活躍する優良馬を送り出したマキャヴェリアン(Machiavellian)の初期の産駒であり、ディクタット(Diktat)を父とする同馬の半妹ショートスカート(Short Skirt)は2006年のセントサイモンSとムシドラSを優勝しており、最高の牝馬であった。またウォーニング(Warning)の仔でG2勝馬リトルロック(Little Rock)も送り出した。これら3頭は、グリーサム氏の黄色、黒、赤の勝負服を背負って出走したが、このうちホワイトウォーターアフェアとショートスカートは同氏のもとで繁殖牝馬として繋養されることはなかった。

 マイケル・スタウト(Sir Michael Stoute)調教師によって管理され、ホワイトウォーターアフェアは3歳シーズンのケンプトン競馬場での未勝利競走優勝からループSでの優勝まで急速に成長し、同馬の関係者たちにオークスの追加登録料1万5,000ポンド(約210万円)を支出する気にさせた。結果的に同オークスでは、ホワイトウォーターアフェアはレディーカーラ(Lady Carla)に9馬身の大差をつけられたが、その後ポモーヌ賞を制して翌年のヨークシャーオークスと愛セントレジャーに挑戦するに至ったなど、多くのレースで良績をあげた。

 グリーサム氏は、「スタウト調教師は5歳シーズンもホワイトウォーターアフェアを管理することを望みましたが、同馬は肢を故障し引退しました。そして関口房朗氏がしばらくの間ずっと同馬を購買しようと努力し続け、最終的に取引が成立しました」と語った。

 そして次のように続けた。「それは高額な取引であり、値段には上限はありません。物には売り時があると私は考えており、関口氏は同馬を非常に購買したがっていました。実際に日本でよく活躍したので、関口氏の正しさが証明されました」。

 母馬がそうだったように、ホワイトウォーターアフェアも牧場に大きな貢献をした。同馬の初年度産駒は、日本で供用されているシングスピール(Singspiel)を父とする英国産で日本のG1勝馬のアサクサデンエンである。またホワイトウォーターアフェアは、ネオユニヴァースの父であるサンデーサイレンスと交配し重賞競走勝馬のスウィフトカレントも送り出した。

 ヴィクトワールピサは、サンデーサイレンスとマキャヴェリアンの母馬クードゥフォリー(Coup De Folie)を通じてヘイロー(Halo)のインブリード(3×4)であり、ホワイトウォーターアフェアの7番目で最後の産駒である。

[Racing Post 2011年3月31日「British bloodlines behind Japanese World Cup winner」]