海外競馬情報 2012年01月20日 - No.1 - 1
エクスチェンジ賭事上陸は“勝つことが全て”の競馬を脅かす(アメリカ)【開催・運営】

 競馬はほぼ全てにおいて、勝つことに報酬を与えるという仕組みである。これは競馬の公正確保を確かにすることと賭事客を保護するためになされている。すべての出走馬は勝つためにベストを尽くす。競馬場が平均で賞金の60%を勝馬に与え、勝馬の馬主、調教師および騎手に大きな報酬が与えられるのはそのためであり、通常大半のレースにおいては下位となった馬には収支を合わせるのに十分な金額は提供されない。馬主、騎手あるいは調教師にとって、レースに負けることには何の金銭的誘因もない。

 他方ベッティング・エクスチェンジの提供を承認している国々においては、個々の賭事客は基本的に馬が負ける方に賭事を行うことができ、ある馬が勝てないという内部情報を持っている者は誰でもそこから利益を得ることができる。これは、すべての賭事がパリミューチュエル方式で行われすべての賭金が賭事プールに集められる米国競馬とは全く違うコンセプトである。米国では、ある馬が負けたとしても誰かが直接的にお金を得ることはない。

 ベッティング・エクスチェンジの危険性は、現在英国で調査されている。騎手が馬の能力を発揮させなかった10のレースを対象に、BHA(英国競馬統轄機構)は意見聴取を行った。そして米国最大の競馬イベントであるブリーダーズカップの前日の11月3日に、BHAは2009年1月17日〜8月15日に競馬施行規程違反があったかどうかに関する10日間の意見聴取と証言を終えた。そして懲罰委員会は、騎手5人および免許が付与された馬主2人を含む13人が関与する活動を調査し、馬主が騎手に故意に騎乗で負けるように金銭を渡したかどうかを検討した。その結果、馬主は、仲間に馬がベッティング・エクスチェンジで負ける方に賭けさせて利益を得ていたことが判明した。

 この10のレースに関してBHAに召喚された騎手は、ポール・ドウ(Paul Doe)騎手、グレッグ・フェアリー(Greg Fairley)騎手、ポール・フィッツサイモンズ(Paul Fitzsimons)騎手、カースティ・ミルクザレク (Kirsty Milczarek)騎手およびジミー・クイン(Jimmy Quinn)騎手であり、関与した馬主はモーリス・シネス(Maurice Sines)氏とジェームズ・クリックモア(James Crickmore)氏であった。

 BHAが電話の通話記録や賭事口座に対して行った調査によれば、騎手たちは騎乗するレースで負けることを約束して金銭を受け取り、情報はギャンブラーたちに伝えられていた。

 世界最大のベッティング・エクスチェンジ提供会社であるベットフェア社(Betfair)は、主に英国で営業しているが、米国でも足掛かりを得ようとしている。米国では、カリフォルニアとニュージャージーの2州で、ベッティング・エクスチェンジの提供を認めることのできる法律(授権法)が承認された。

 ホースマンの団体や競馬場がベッティング・エクスチェンジからの賞金の取り分について合意していないために、これらの州ではまだベッティング・エクスチェンジは行われていない。ベッティング・エクスチェンジからの収入は、パリミューチュエル賭事と比較すれば非常に小さい割合しか賞金額に還元されず、ホースマンの団体は、もしベッティング・エクスチェンジが単勝と複勝の売上げを減らした場合には、賞金に還元される資金は大きな打撃を受けるだろうと懸念している。

 カリフォルニア州競馬委員会(California Horse Racing Board)は、2012年には関係団体の間でベッティング・エクスチェンジを開始することに同意が得られるだろうと示唆した。その時期は5月が有力視されているが、予定通りになるかどうかは誰にもわからない。

 ベットフェア社は2011年夏のモンマスパーク開催前にニュージャージー州でベッティング・エクスチェンジ運営を望んでいたが、合意には至らなかった。

 ある賭事客を他の賭事客と組み合わせるベッティング・エクスチェンジ賭事は、賭事客のうち的中者に対して賭金の2%〜5%のみを支払わせる仕組みである。この小さい割合から、競馬場、ホースマンは賞金として、そして州は税収として各々の取り分を受け取る。賞金額に向けられる割合は売上げの1%以下と見積もられる。これに対し、現在の場内馬券売上げ、場外馬券売上げおよび会員制賭事(advance-deposit wagering: ADW)を合わせた賞金還元の割合は、売上げの約5%である。

 ベットフェア社は、ベッティング・エクスチェンジは若くてハイテクに精通した観客を惹きつけ新しいファンを生み出し、既存の賭事客からの売上げを減少させることなく、競馬の利益を増加させるだろうと述べている。また同社は、これらの新しいファンは馬単や3連単のような他の賭事も始め、一旦彼らが競馬を学べば、賭事プールと競馬が成長するのに寄与すると主張している。

 ところで英国では、負け馬を支持することでお金を受け取ることができ、それは競馬を危険にさらすと考える人々もいる。そこでは、レースに勝つことがすべてではなく、負けることにも何かしらの意味を見つけることができるからだ。

 現行のパリミューチュエル賭事であろうと、ベッティング・エクスチェンジであろうと、お金が絡むときはいつでも、不正をはたらこうとする者が現れる。競馬統轄者は現在のシステムを監視し規制することでさえ、すでに多くの問題を抱えている。財政上差し迫った事情がほとんどないような場合に、競馬に新しいレベルの複雑さを加えることは疑問であり、このコンセプトを支持するのは難しい。

By Mark Simon

[Thoroughbred Times 2011年11月26日「Winning needs to be everything」]