リングフィールド競馬場のポリトラック馬場は2011年11月に10周年を迎えたが、伝説的な障害競走調教師マイケル・ディキンソン(Michael Dickinson)氏が考案した新しいライバル素材の導入を同競馬場のオーナーたちが検討していることから、いつまでポリトラック馬場が続くかが議論の対象となっている。
先駆的なリングフィールド競馬場は、2001年11月13日にエクイトラック(Equitrack)に代わって導入されたポリトラック馬場において、ジェームズ・ユースタス(James Eustace)厩舎のデヴォリューション(Devolution)がジェイソン・テート(Jason Tate)騎手を背にディスカヴァーレーシングHを優勝して新しい時代の幕を開け、世界で初のポリトラック馬場開催を行った競馬場となった。
それ以来このポリトラック馬場は歳月と天候により劣化が進むとともに、ディキンソン氏が唱道して世界中の調教師、馬主、騎手および競馬場の馬場取締役からの称賛を得たタペタという強力な競争相手の出現に見舞われることとなった。
アリーナレーシング社(Arena Racing)のイアン・レントン(Ian Renton)部長とリングフィールド競馬場の馬場取締役のニール・マッケンジー-ロス(Neil MacKenzie Ross)氏は、100万〜200万ポンド(約1億3,000万〜2億6,000万円)と見積もられる更新費用の点はほとんど考慮せず、ドバイのほかヨークシャー州のミドルハムやニューマーケットにあるゴドルフィンの牧場を視察した。そして、リングフィールド競馬場と競馬関係者にとって今後の馬場をどうするかについては、この冬の開催そのものよりも重要であるとの認識を持って、さまざまな選択肢を検討した。
10月に騎手から馬場の粒子の跳ね返りについての不満が出たため、ポリトラック馬場の開発者マーティン・コリンズ(Martin Collins)氏は問題解決のためにリングフィールド競馬場に1万4,000ポンド(約182万円)の機械を貸し出す結果になったが、同氏もポリトラック馬場がこれほど長く存続したことに驚いている。
コリンズ氏は、「ポリトラック馬場を敷設した当時の私の推測では、5年は持ちこたえるもののその後はメンテナンスに費用が必要となると考えていました。しかし実際は10年持ちこたえ、費用を要しませんでした」と語った。同氏は、1987年にリチャード・ハノン(Richard Hannon)厩舎に、ギャロップ走路に初めてポリトラック馬場が敷設されて以来、その開発がケンプトン競馬場やウォルヴァーハンプトン競馬場をはじめとする約20ヵ所(混合人工馬場、キャンター走路および調教馬場を含む)もの取引にまで発展するのを目の当たりにしている。
英国でポリトラック馬場を採用した競馬場は、グレートリーズ競馬場が2009年1月にわずか7ヵ月営業しただけで財政問題により閉鎖を余儀なくされていなければ、4場だったはずである。
建設費3,000万ポンド(約39億円)のグレートリーズ競馬場の閉鎖は、競馬産業、とりわけすぐ近くに最高の全天候型馬場の競馬場を持つことを喜んでいたニューマーケットの調教師たちにとってつらい痛手であった。
メンテナンス作業以外に16ヵ月間使われることのなかったポリトラック馬場の状態をコリンズ氏が試験するため、ニューマーケット拠点の馬6頭が調教されることとなった5月には、グレートリーズ競馬場で再び競馬が行われるかもしれないとする望みが高まった。
コリンズ氏は、「リングフィールド競馬場の馬場が劣化しているのは明らかですが、11年目に突入しようとしていますので、なんら恥じることはありません。ポリトラックは競馬に貢献し、今日まで長期間にわたり良好で安全な馬場を維持してきました」と付け足した。
現在では異なる気候条件に適応するいくつかのタイプのポリトラックを供給しているコリンズ氏は次のように続けた。「世界中の全天候型馬場の数を見ると、私たちは最大のシェアを獲得しています。リングフィールド競馬場にどの馬場を採用するかはイアン・レントン氏次第ですが、私たちは、長い寿命の馬場を提供することができます。これまでに他の業者は5年間耐えられる馬場を提供できていません。ポリトラック馬場が大きな成功を収めたので、リングフィールド競馬場が再度私たちのところに発注しないのであれば非常に残念です。」。
一方ドバイのメイダン競馬場が採用したタペタ馬場は、欧州でまだ敷設している競馬場はないが、ミドルハムを拠点としているマーク・ジョンストン(Mark Johnston)調教師はタペタ馬場が役目を全うできると確信している。同調教師は、「リングフィールド競馬場が再びポリトラック馬場を選んでも構いませんが、もしタペタ馬場を採用するならばすごく嬉しいです」と語った。
同調教師は次のように語った。「私の管理馬は2009年7月以来もっぱらタペタ馬場で調教を行っており、これは素晴らしいギャロップ走路です。私はポリトラックとタぺタの両方の馬場を試してみましたが、あまり違いはありません。しかしミドルハムの調教場のポリトラックの一部の質が一定でなかったためやり直さなければならなかった苦い経験をした際に、私はディキンソン調教師が完璧主義者であり、そしてタペタ社は最高のアフターサービスを提供するだろうと考えて、タペタを採用することにしました。これは素晴らしかったです」。
騎手と調教師の見解は、決定を行う過程において考慮されることとなっているが、レントン氏が直面しているジレンマを反映して、ジェイミー・スペンサー(Jamie Spencer)騎手およびウィリアム・ビュイック(William Buick)騎手もまた両馬場に甲乙をつけかねている。
スペンサー騎手は、「ポリトラック馬場は初めの4〜5年は素晴らしかったです。跳ね返りがなくカーペットの上を走っているようでしたが、タペタ馬場もヨーロッパで素晴らしい役割を果たすと考えています」と語った。
そして、「メイダン競馬場では、タペタ馬場はやや弾力が弱く、馬の肢抜きが上手くできてないように思いました。ワックスが熱で溶けており、少しばかり粘ついていたので、加速しにくかったようです。しかし、気温が高くなる前の朝6時ころであれば、本当に素晴らしいです」と付け足した。
ビュイック騎手は、「タペタ馬場は各競馬場がどのように騎乗してほしいと考えるかに応じて、ローラーで伸ばしたり管理できます。馬場を速くすることも、遅くすることもできます。タペタ馬場は融通のきく馬場ですが、ポリトラック馬場も同じぐらい良いと考えています。どちらも馬にやさしいです」と語った。
そして、「私は、調教師はリングフィールド競馬場のポリトラック馬場に満足していると確信しています。芝馬場が夏に堅すぎたり、秋に柔らかすぎたりして、未勝利レースの出走頭数が少なくなるのを見ればわかるはずです。ポリトラック馬場はいつも同じコンディションを提供し、偏りがありません」と付け足した。
レントン氏は夏の終わりに敷設作業を見込んで2012年の初めに結論を出すことを計画しているが、もし賞金問題のための財源充当がなければこの計画はこの冬の競馬開催までには完了するはずであったことを認めた。
同氏は、「リングフィールド競馬場におけるポリトラック馬場の導入は、あらゆる質の馬の出走を惹きつけ、全天候馬場のレースを変容させたと言ってもよいと思いますが、今それを2012年夏の終わりには更新しようとしています」と語った。
そして、「私たちは今後2、3ヵ月、再び世界で最高の人工馬場と考えられるものを導入することができるようマーティン・コリンズ氏の最新のポリトラック馬場とタペタ馬場を検討することになります。騎手たちの意見は、それらの馬場で騎乗した経験があるので非常に重要です」と付け足した。
ディキンソン氏はこの工事の受注に意欲満々である。
同氏は、「タペタ社はリングフィールド競馬場の馬場改修に応札する機会を与えられて光栄です」と語った。
そして次のように付言した。「私たちは大規模な調査・開発プログラムを実行してきており、2年前にはアメリカの東海岸でもうまく機能した−17℃でも凍らない商品を作り出しました」。
「タペタ馬場が英国の冬の厳しさに耐え得ることに自身があります」。
By Graham Green
調教師たちの見解
ジム・ボイル(Jim Boyle)調教師
(2001年以来全天候型馬場で124勝)
個人的見解では、ポリトラック馬場は競馬に貢献しています。騎手たちは先週、跳ね返りについて不満を言いましたが、新しいポリトラック馬場は今後も導入されるべきであると考えています。2012年に新しい全天候型馬場が敷設されると聞いており、素晴らしいことです。ポリトラック馬場で調教活動を始めてまだ10年しか経っていませんが、故障に関する限り、馬場が原因で増加したとは考えていません。
マーカス・トレゴニング(Marcus Tregoning)調教師
(2001年以来全天候型馬場で36勝)
ポリトラック馬場は私の管理馬に非常に有益でした。発育の遅れた馬がいても、ポリトラック馬場のおかげで冬に出走させることができます。そしてもちろん、賞金についても考慮しなければならず、賞金が出るレースがあれば管理馬を出走させます。
私は調教場にポリトラック馬場を持っていますが、故障については大きな違いはないと言えます。すべての調教師が故障について異なる問題を抱えており、競馬は芝の方がわずかに安全であるかもしれないと認識していますが、故障率が高くなったとは聞いたことがありません。またポリトラック馬場に適応するために私の調教と競馬のスタイルを変えなければならなかったことも一度もありません。
ウィリアム・ミュア(William Muir)調教師
(2001年以来全天候型馬場で51勝)
ポリトラック馬場は競馬にとって絶対に有益でした。ポリトラック馬場で出走する馬の質を見るだけで十分です。主要レースに挑戦する前に、ポリトラック馬場で出走させることを好む調教師がいることを知っています。
夏は馬が堅めの馬場を得意としない場合、ポリトラック馬場は馬の肢に疲労を与えないので、出走させるのに適切な馬場です。
また、私の管理馬はポリトラック馬場によって深刻な故障をしたことはないと思います。騎乗の作戦やスタイルに関するかぎりは、馬場ではなく競馬場について考慮すべきだと思います。たとえば、私はサウスウェル競馬場では馬を全速力で走らせますが、傾斜のきついリングフィールド競馬場ではそうさせません。新しいポリトラック馬場はしばらくの間は素晴らしいことを確信しています。ウォルヴァーハンプトン競馬場に敷設されたポリトラック馬場を見れば、本当に素晴らしく、跳ね返りもほとんどありません。ポリトラック馬場について言えることは、時間が経過すると摩耗するということです。
ゲイリー・ムーア(Gary Moore)調教師
(2001年以来全天候型馬場で197勝)
リングフィールド競馬場のポリトラック馬場は、競馬場にとっては一点の疑いもなく素晴らしかったです。またポリトラック馬場開場初日から管理馬を走らせていますが、通常より多くの故障が生じるようなことはなかったと胸に手を当てて言えます。しかし、リングフィールド競馬場では馬がコーナーを全速力で走る傾向があるために上手く回れないことがあり、このことは残念です。跳ね返りに関する限りは、コメントは控えたいと思います。リングフィールド競馬場は良くやっており、そのスタッフたちも有能です。
ポリトラック馬場を敷設した競馬場 |
リングフィールドパーク競馬場 |
ケンプトンパーク競馬場 |
ウォルヴァーハンプトン競馬場 |
グレートリーズ競馬場(現在閉鎖中) |
ダンダーク競馬場 |
ウッドバイン競馬場(カナダ) |
カーニュシュルメール競馬場(フランス) |
シャンティイ競馬場(フランス)( 2012年3月オープン) |
マルセイユ・ヴィヴォー競馬場(フランス) |
クランジ競馬場(シンガポール) |
イスタンブール・ヴェリエフェンディ競馬場(トルコ) |
アーリントンパーク競馬場(米国) |
デルマー競馬場(米国) |
キーンランド競馬場(米国) |
ターフウェイパーク競馬場(米国) |
ポリトラックの歴史 | |
1987 | リチャード・ハノン厩舎に初めてギャロップ走路として敷設される。 |
1995 | ニューマーケットのウォレン・ヒル厩舎にギャロップ走路として敷設される。 |
2001 | リングフィールド競馬場がポリトラック馬場で競馬を開催した初めての競馬場となる。 |
2004 | ウォルヴァーハンプトン競馬場がポリトラック馬場を敷設。 |
2005 | ケンタッキー州のターフウェイパーク競馬場が米国初のポリトラックを有する競馬場となる。 |
2006 | ケンプトンパーク競馬場がポリトラック馬場で競馬開催を開始する。 |
By Graham Green
[Racing Post 2011年11月18日「Surface faces its biggest challenge after a decade of all-weather rule」]