リバプールのジョン・ムーアズ大学で現在博士号を取るために勉強中で、既に48歳のため指導教授のグレーム・クローズ博士から“町で最高齢の学生”とあだ名をつけられているジョージ・ウィルソン(George Wilson)氏は、「私たちは、どうすれば騎手が慎重かつ安全に減量し、減らした体重を維持し、体調を良くできるか説明することで、騎手を助けることができます」と語った。
体重維持に必死の努力が必要なことは、騎手生活を物語っている。あらゆる世代の騎手にとって、体重維持には発汗と節食の2つの方法があり、これらは常に同時になされる。21世紀に入った今日でも、プロ騎手の大多数は18世紀の騎手と同じようなやり方で体重を管理している。
ウィルソン氏は、「他のスポーツではダイエットと体重管理についての考え方を変えました。他のスポーツに採用されているスポーツ栄養に関する行動指針は、騎手にも役立つでしょう」と語った。
そして次のように続けた。「私たちが重点的に取り組んでいるのは騎手への指導です。私たちがしようとしているのは、騎手のやっていることを批判することではなく、何ができるか説明することです。それは発汗による減量への依存度を下げ、安全に減量する代替的方法についてです」。
この減量法に協力している65人のプロ騎手のうち、今日はキース・マーサー(Keith Mercer)騎手、ハリー・ヘインズ(Harry Haynes)騎手およびフラニー・ノートン(Franny Norton)騎手が参加した。この減量法はアイルランドで実施された取組みに基づいて英国の騎手に焦点を合わせている。
検査の初めの段階は骨密度、体脂肪および筋肉量を調べるCTスキャンである。ノートン騎手はマットレスの上に横になり、体全体の映像を作るスキャナーの下を通った。その後2〜3分でプロセスは完了し結果が印刷される。
ここでの鍵となる結果は、エリート運動選手であれば10%前後の数字を記録しなければならない体脂肪率である。マーサー騎手は、ノートン騎手に続いてスキャナーの下を通った。マーサー騎手は手首骨折後12月後半から1月末までソファに座って過ごしていたために、体脂肪率は3ヵ月前よりも2〜3%増加していた。しかし、これは心配することではない。つまり、同騎手がここで処方されたダイエットと運動についての助言に従えば、次回CTスキャンを受けるときには数値は適度のものになるだろう。
すべての騎手は悪夢のような急激な減量経験を持っているが、ここに来ることで悪夢ではなくなることが多い。ノートン騎手は、「私はここに通い始める前までは、翌日までに113ポンド(約51.3 kg)に減らす必要があるようなときに強引に実行しようとしても翌日には118ポンド(約53.5 kg)までしか落ちておらず、ひどい気分になりました。現在のやり方は前向きな方法です」と語った。マーサー騎手は一度すでに十分減らした体重を5日間でさらに11ポンド(約5 kg)落とさなければならならなかったことについて、2度と繰り返したくない経験であると告白した。
ウィルソン氏は厩舎スタッフや騎手であった経歴から、騎手の体重管理のための日課と意欲を理解できている。同氏は、「月曜日に150ポンド(約68 kg)の負担重量だったのに、金曜日には140ポンド(約63.5 kg)で騎乗しなければなりませんでした。私はそれを発汗で減らして非常に健康を害し、騎手を辞めました」と経験を語った。
彼を救ったのはスポーツ科学である。ウィルソン氏の第2のキャリアはピカレスク小説のようなもので、体育の先生、サッカーチームのトランミアローバーズ(Tranmere Rovers)やポイン・トゥ・ポイント競走騎手のフィットネスコーチなどであった。これらの経験によって、ウィルソン氏は現在のように研究用の白衣を着て、ハインズ騎手にマスクを着けさせ、ガス分析を通じてエネルギー消費量を分析するコンピュータモニターに目を凝らすようになった。そこで分析しているのは、10分間の歩行、10分間のジョギング、騎乗マシンへの10分間の軽い騎乗、そして3200 mのアマチュアレースで勝つ騎手の平均的なスピードに見立てた4分間の騎乗などの間の呼吸に伴うエネルギー消費量である。
この方法によって、ヘインズ騎手のエネルギー消費量を見極めて、同時に同騎手専用のダイエット・運動療法を考え出すことが可能になる。ヘインズ騎手はこのトレーニングに取り組み、ウィルソン氏はそのトレーニング中の数値を観察する。
「騎手は特定の心拍数域で運動すれば、かなりの脂肪量を燃やすことができます。私はヘインズ騎手に一定のカロリーを燃やす運動スケジュールを渡し、カロリーを超えないで続けられる食事プランを提供することができます」。
「体重を落とす以外に選択肢はありません。たとえば彼は1日あたり2,500カロリーを消費するとしましょう。私たちは、彼に落とすべき体脂肪がどれだけあるかに応じて、1,700カロリーのダイエットを指示するでしょう。しかし、彼は適切で健康的な栄養摂取量を摂りつつ脂肪量を最大限減少するべく運動を行うので、より快適かつより効果的に体重管理を行うことができます」。
ウィルソン氏は、「朝食を抜くと体は脂肪を体内に維持しようとするのでよくありません。体を炎だと想像してみて下さい。1日に1度だけ多量の薪を入れるのではなく、定期的に一本の薪をくべるのです」と語った。ヘインズ騎手は、あたかもピーターマーシュチェイスを優勝したアコーディングトゥピート(According To Pete)に騎乗するかのように騎乗マシンに乗る。ウィルソン氏の同僚であるカール・ランガン-エヴァンズ(Carl Langan-Evans)氏がヘインズ騎手の後ろに立って入念に計られた1ハロン相当時間内に何回馬を押さなければならないのか大声で尋ね、一方ウィルソン氏は同騎手のそばに立ってまるで自分がへインズ騎手の馬に賭けているかのようにその回数を大声で叫びます。
「頑張れハリー、このハロンは19回だ。1、2、3、….. 。次は最後のハロン、31回だ。頑張れハリー、行け、行け、17、18、19、20….. 」。
ヘインズ騎手はスピードを上げてレースに勝ち、馬から降りた。「私は怪我をした後にここに初めて来た時は155ポンド(約70.3 kg)でしたが、2ヵ月以内に137ポンド(約62.1 kg)まで落としました」。
「私の体力は体重が落ちても変わりませんでした。ジョージのダイエットプランは実行自体は簡単ですが、自制心が必要です。最も難しいのは走りに行くための時間を作らなければならないことであり、特に遠方の競馬場での騎乗が予定されている日は、ランニングのために午前4時に起きることもあります」。
「しかし今やサウナに入ることなしに最低体重になることができます。ここに来なかったならば決してできなかったでしょう」。
ウィルソン氏は、サウナの使用を禁止せず、微調整のためには問題ないと考えている。同氏は次のように語った。「意図的に多量の発汗をすることは体にとって良くありません。もし指示されたプログラムに従えば、発汗への依存度を大幅に減少できるでしょう。騎手は一日に数回体重を調整しなければならない唯一のエリート運動選手です。そして騎手が私たちに“カロリーを取り続けながら体重が減らせることは信じられない”と言ってくるときは、たまらないです」。
マーサー騎手は次のように語った。「私はいつも最少限の体重しか減らせませんでしたが、今や発汗に頼るようなことはなく、減量を適切に行うことができます。この計画は能力と健康状態を向上させます。私は以前よりも活力があり、この方法で私の基本の体重は半ストーン(7ポンド=約3.2 kg)減少し、サウナに行くことはなくなりました」。
ノートン騎手はこの減量方法に熱心に取り組んでおり、その教育的価値を評価している。
ノートン騎手は、「多くの騎手は体重が増えるのを恐れて朝食をとりません。しかしウィルソン氏のダイエットプランによって、私は朝食、昼食および夕食を含む1日6食が摂れます」と語った。
そして、「もし古い型が破られてより広く実践されるようになれば、私たち皆が長く騎乗生活を送れ、気分よく、より俊敏に騎乗することができるでしょう。すべての騎手はこれを試してみるべきです」と付言した。
計画実行前(騎手の典型的な食事) | |
8:30 紅茶1杯 10:00 紅茶1杯 12:00 コーラ1杯 16:00 紅茶1杯とトゥイックス(チョコバー) |
18:00 ルコゼート社スポーツドリンク 20:00 チキンケバブとえんどう豆 22:00 紅茶1杯 |
計画実行後(ジョージ・ウィルソン提案の騎手の食事) | |
目覚めの緑茶1杯、30分間の脂肪燃焼ジョギング 朝食:全麦パンの上に落とし卵あるいは茹で卵2つ(パンには何も塗らないか多価不飽和脂肪のバターを非常に薄く塗る)。水1杯。緑茶1杯。 午前半ばのおやつ(9:30):コッテージチーズとライビータ(シリアルクランチ)、水1杯、緑茶1杯 昼食(12:00〜13:00):ボール1杯の新鮮な野菜あるいはヌードルスープ(300 ml)とライビータ3枚、りんご1個、水1杯、緑茶1杯 |
午後のおやつ(14:00):ギリシャヨーグルトと水1杯 夕食(18:00〜18:30):小さいチキンフィレと蒸し野菜(ニンジン、えんどう豆、ブロッコリ)、水1杯、緑茶1杯 夕食の1時間半後に30分の軽いジョギング。帰宅後25gの乳清プロテインシェーク(水と混ぜる)と水1杯 夜食:プロテインシェークがベスト。その他に非常に脂肪分の少ない七面鳥あるいはチキンの薄いスライスを2枚、水と混ぜた大さじ1杯分のコッテージチーズと水1杯。 |
By Steve Dennis
[Racing Post 2012年2月19日「Dietary plan aims to keep jockeys fitter and happier」]