海外競馬情報 2012年06月20日 - No.6 - 1
BHA、裁決システムの改革と先進技術の利用促進を計画(イギリス 前編)【開催・運営】

 本紙が入手した情報によると、英国の競馬場は、BHA(英国競馬統轄機構)の新CEOであるポール・ビター(Paul Bittar)氏によって実施される広範囲の業務見直しの一環として規制改革に取り組むことになるようだ。

 ロンドンのBHA本社に中央裁決委員会を設置することおよび重要な決定に先進技術の利用促進を図ることは、ビター氏と同じオーストラリア人であるBHA競馬開催運営・規則担当理事のジェイミー・スティア(Jamie Stier)氏が主導した徹底的な緊急見直しの結果の一つである。

 スティア氏は、BHAの競馬界へのサービス向上を目指し、開催日における裁決委員および決勝審判委員の役割をあらゆる側面からの調査を担当してきた。競馬場裁決委員の役割は抜本的に改革することが予定されている。しかし、オーストラリアと同様にこれらの競馬場裁決委員を専門的な開催執務委員に完全に置き換える計画はなく、また何らかの改革が行われるとしても2013年までは実施されないだろう。

 メルボルンのレーシングヴィクトリア社(Racing Victoria)を辞めた後、1月にBHAのCEOに就任したビター氏は、次のように述べている。「人々は私が新しいCEOとして競馬運営方法を見直すことを期待しているでしょうが、これはまさにその見直しの一部です」。

 「競馬への参加者に分かりやすくするためにBHAの運営方法を簡素化できるかどうか検討しようと思います。また人々の認識と理解を高めかつ信頼を深めるため、先進技術が利用できるかどうかを調査したいと思います」。

 「賦課金による全体の資金調達水準が30%以上も低下し、当分の間この状況が変わらないと思われる中で、BHAは新たにより効率的な事業運営方法を模索しなければなりません。我々は、競馬というスポーツの役に立つためにBHAにいるのです。そのため、我々はどのような機会が存在するかに関して狭い視点で考えることはできません」。

 スティア氏の調査のうちで最も重要な結果は、開催執務委員の役割の変更であると思われ、現在各競馬場において裁決委員と決勝審判委員が行っている一定の機能はおそらく中央裁決委員会に移されるだろう。

 香港における11年間の経験をこのプロジェクトに持ち込むことになる同氏は、次のように述べている。「我々は始動段階にあり、検討の対象とならないものはありません。裁決といった特定の領域だけに集中するのは間違いと思われますが、とりわけ現在のような財政状態においては、我々はいかなることも避けて通るべきでありません。どうすればうまく機能するかに関して、虚心坦懐の気持ちを持ち続けなければなりません」。

 「開催執務委員の中央への集約は検討対象になり得ますが、これは競馬場から全員を移動させるということではありません。特に現場で必要とされる機能もあるため、開催執務委員すべてを競馬場から移動させてしまうことは決してないでしょう。たとえば、発走委員をロンドンの事務所に置くことはできません。どのような機能が中央に集約され得るかを調査することになりますが、この調査は開催日だけを扱うものではありません。より良質のサービスを提供し得るすべてのことを検討するのです。これは、我々が行っているすべての事柄を調査した上で、事業を行うためにより効率的で費用効果の高い方法があるかどうかを調べるための徹底的な見直しとなるでしょう」。

 ビター氏は、見直しの結果を“虚心坦懐に受け入れる”と述べているが、見直しに関して一定の見解を持っているのは確かである。同氏は次のように述べている。「有給裁決委員と裁決委員は、取締りが主な役割ではありません。本来彼らの役割は、開催日の運営と調整を行うことです。それはある意味で地域社会の取締りのようなものです」。

 「見直しの副産物として、競馬施行規程の違反が見つかるかもしれません。したがって、食い違いを最小限にし、公正に係る問題で開催日に暗い影を投げかけないようにするため、別のシステムの下であれば、有給裁決委員や裁決委員が行っている規律実行のうちの一定の側面は競馬場から取り除くことができるかもしれません」。

 もし開催終了後に制裁を下す中央裁決委員会が導入されることになれば、ビター氏の考えに影響を与えたと思われる2つの注目を集めたケース、すなわちバラブリッグズ(Ballabriggs)に騎乗したジェイソン・マグワイア(Jason Maguire)騎手およびリワイルディング(Rewilding)に騎乗したフランキー・デットーリ(Frankie Dettori)騎手が鞭使用ルールに違反したケースのような扇情的な問題の熱を冷ますことができるかもしれない。

 ビター氏は、次のように述べている。「我々は、競馬場でその日のレースが終わるまで処理せずに置いておき、中央裁決委員会によって処理され得るものがあるかどうかを調査できます。もう少し客観的に調べるために現場の興奮から離れることは、騎手と開催執務委員のいずれの観点からもプラスになることがあります」。

 「判定を下すことおよび裁決委員の仕事の一定部分は、他のスポーツにおいて先進技術の支援または解決策を得ている分野の最も明白な実例であると私は常に考えてきました。それが競馬にとって正しい解決策であるかどうかは分かりませんが、我々が検討もしないのであれば、どうかしています」。

 同氏はチェルトナム・フェスティバルの直前に、新任者として直ちにその影響力を巧みに使った。そして同フェスティバル開催中に競馬場裁決委員に一層の裁量を与えるため、議論を呼んだ鞭使用規則を大きく変更した。その結果チェルトナム競馬場の裁決委員は、もはや単に鞭の使用回数のみに基づいた通達によっては束縛されていない。

 この動きに対する批判者は、異なる裁決委員会間において意思決定の不一致が生み出されてしまうと述べている。これは、規制の見直しに関してスティア氏とすでに協議していたビター氏が十分に覚悟していた批判であった。同氏は、次のように述べている。「ある意味において鞭使用の問題は、我々がすでに直面していた矛盾のある問題を人々が提起する機会を与えてくれました。当然の反響であるとは分かっていましたが、それは我々がいずれにしてもやろうとしていたこととつながっています」。

 「矛盾することは常にあるものですが、我々の仕事はそのリスクを最小限にすることです。開催日の一定の側面を調査するために先進技術を活用する中央裁決委員会を設置し、それにより裁決委員の自由裁量の矛盾に関する懸念のいくつかに対処できると考えています」。

 「鞭使用が現時点において最も明白な問題であるため、私は例としてこの問題だけを取り上げています。現場において何かが結果を変えてしまうのであれば、それはその場で直ちに対処する必要がありますが、それは制裁が現場で科せられなければならないことを必ずしも意味しません。すべての鞭使用違反がBHAの中央裁決委員会によって後日検討されることとした場合、一貫性が高まるでしょうか。直感的には“イエス”と言えるでしょう」。

 ビター氏とBHAのコミュニケーション・コンサルタントであるジョン・マキシ(John Maxse)氏も、とりわけ裁決委員の審議がテレビ放映される時代において、現代テクノロジーが提供する放映機会に敏感である。マキシ氏は、ラグビーにおける4人目の審判員やクリケットでの3人目の審判員について言及している。これらのスポーツでは、重大な決定が検討される際に、きわどい判定をした場面の録画テープが繰り返し放映され、審議が長々と行われる。

 マキシ氏は、「4人目の審判員は、ピッチ上にいませんし、また競技の最中にもいませんが、先進技術を利用して決定を下すことができます。このことは、競馬においても選択肢の模索が重要であるということに関係しています。つまり、競馬界に対してより良質のサービスを提供することや、決定を公平に行って参加者と競馬ファンの信頼を高めるためのサービス提供の最善方法を見つけ出すことの重要性です。現在は騎手を招集して証言させているので、我々はその様子を見ることが出来ず、映像もそれを映し出してはいません。視聴者は、裁決委員と同じ映像を観ているわけではないのです」と述べている。

 ビター氏は、チャンネル4に対して自分の考えをすでに伝えている。同テレビ局は、2013年に競馬のさまざまな可能性に関して独占的地上波放送局になるためのおよそ1,500万ポンド(約19億5,000万円)の契約に最近署名している。同氏は、「契約締結に向けて我々を促したものは、この契約により競馬の規程に関して視聴者の理解と信頼を高めることができるということです。我々は、規程がどのように適用されるかについてチャンネル4が視聴者に対して適切に説明できないような立場に陥りたくはありません。したがって、我々はチャンネル4と時間をかけて話し合う必要があります」と述べている。

 スティア氏は、最新の改良された先進技術がかなりの出費を伴うことを認めている。同氏は、「費用はかかりますが、長期的に見れば我々は一定の期間をかけて競馬を前進させるシステムについて話し合っているのです。しかし、とりわけ現状の賦課金に基づく財政状況において、我々には創造的であることが求められます。我々の利害関係者および馬券購入者に対して、最も費用効果の高い方法でサービスを提供するのが我々の仕事です。我々は何が機能するかに関して虚心坦懐の気持ちを持ち続けなければならず、同時に競馬の公正を守るために最善を尽くさなければなりません」と述べている。

 そして、「これは、我々が行うあらゆる事柄を検討し、より効率的で費用効果の高い業務方法があるかどうかを確認するための徹底的な見直しとなるでしょう。現行システムが満足できるものでないと言うではなく、時代は変わると言うことが重要です。今の状況は10年前とは異なっており、また10年たてば状況は変わるのです」と付言している。

 ビター氏は、スティア氏の考えに賛成している。ビター氏は、「我々に基準を与え、経済的な価値をもたらし得る年間開催日数の臨界点に我々がいるということは、ある意味で幸運です。3年ないし5年後に開催日が今と全く同じように運営されているということはありえません」と述べている。


[後編は次号(7号)に掲載]

By Nicholas Godfrey

[Racing Post 2012年4月17日「Bittar’s Regulatory」]