11月22日のゴフス社11月セール(Goffs November Sale)のオープニングセッションの呼び物となっていた愛オークス馬チキータ(Chicquita)が600万ユーロ(約8億4,000万円)で購買されたことで、ポール・メイキン(Paul Makin)氏所有の優良サラブレッドが売りに出されるポーリン社(Paulyn)処分セールに対して高まっていた期待感の正しさが証明された。
2日間にわたる同セールの初日は、長年高額落札馬が出る傾向にあった。しかし、1980年代前半にアウザール(Authaal)が310万ギニー(約5億5,335万円)で落札されて以来長年保持されてきた記録がついに破られ、チキータがアイルランドで最高落札馬となった瞬間に比肩できるものはこれまでなかった。
チキータは高い前評判にふさわしく、ポーリン社処分セールで一流上場馬24頭のうち最後に上場されたが、数ヵ月待たれた末についにチキータがゴフス社のセリ場に現れたときの雰囲気は刺激的なものであった。そして競売人ヘンリー・ビービー(Henry Beeby)氏がジェームズ・マクヘイル(James McHale)氏による最初の値300万ユーロ(約4億2,000万円)を受け付け、ドラマが開始された。
3歳牝馬チキータを巡る競り合いはすぐに、マクヘイル氏と反対側の購買人席に座って電話で息子のロス(Ross)に指示を出していたピーター・ドイル(Peter Doyle)氏との直接対決となった。この競り合いは数分の間、お互いに一進一退であったが、ドイル氏による560万ユーロ(約7億8,400万円)から600万ユーロ(約8億4,000万円)への価格引上げが決定打となった。
その後チキータがリングを離れるときに、一斉の拍手が沸き起こり、ここ数ヵ月で莫大な利益を出した処分セールに相応しい終幕となった。
ドイル氏は顧客の名前を明かさなかったが、「チキータは、私の長い付き合いの常連顧客に購買されました。ビービー氏が競売人席で王冠に輝く宝石だと言ったように、素晴らしい牝馬で、落札できたことに満足しています。確実に現役を続行できるはずです」と語った。
ポーリン社処分セールは、チキータの他にも7桁(百万ユーロ台)をつける取引が2頭あり、約2時間半で驚くべき約1,300万ユーロ(18億2,000万円)もの売上げを達成した。そのうちの1頭は、ナーヴィックインターナショナルが110万ユーロ(約1億5,400万円)で落札した元ジュライカップ勝馬フリーティングスピリット(Fleeting Sprit)である。同馬の当歳と1歳馬(いずれも父はガリレオ)が18万ユーロ(約2,520万円)と30万ユーロ(約4,200万円)で落札された数分後に、この購買は行なわれた。
日本人購買者の高橋力氏がフリーティングスピリットを落札したが、同氏は次のように語った。「フリーティングスピリットの当歳馬と1歳馬はあまり良く見えませんでしたが、このレベルの落札額を付けなければならないことは分かっていました。日本に帰って、ディープインパクトと交配することになるかもしれません」。
一方、メイキン氏が所有するソング(Song)が100万ユーロ(約1億4,000万円)ちょうどで落札された。数週間前には同馬の3/4妹ベターベターベター(Betterbetterbetter)が米国で520万ドル(約5億2,000万円)で落札されたばかりである。またソングはイエスタデー(Yesterday)とクォータームーン(Quarter Moon)の全妹となるが、フランケルの仔を宿して上場された欧州初の牝馬という栄誉にあずかり、最終的に価格が100万ユーロに届いてジョン・イーガン(John Egan)氏が獲得した。
イーガン氏は、「フライアーズタウンスタッド(Friarstown Stud)の財産となるはずです。トップクラス牝馬の購買を検討していましたが、その基準を満たしました。彼女を落札できたことに満足です」と語った。
ポーリン社処分セールで上場されたもう1つの逸品は、未出走の3歳ガリレオ産駒スパークルプレンティ(Sparkle Plenty)で、65万ユーロ(約9,100万円)で落札された。英ダービー馬プールモワ(Pour Moi)の3/4妹となるスパークルプレンティは、勢いのあるフランスのモンソー牧場(Ecurie Des Monceaux)の代表を務めるアンリ・ボゾ(Henri Bozo)氏によって落札された。
ポーリン社処分セールが惹きつけた注目と関心は、同日のセリにも強く影響した。その日はポーリン社処分セール以外にも一流馬が上場され、アガ・カーン(Aga Khan)殿下や故ジェリー・オールダム(Gerry Oldham)氏からの上場馬は、世界中のさまざまな積極的な購買者から大きな注目を集めた。
また、フランケルの仔を宿した別の牝馬2頭が大きな関心を集め、そのうちのG3勝馬ヘイゼルレーヴァリー(Hazel Lavery 父エクセレントアート)は、エド・サックビル(Ed Sackville)氏により85万ユーロ(約1億1,900万円)で落札された。
一方、オリヴァー・セントローレンス(Oliver St Lawrence)氏は、南半球の繁殖シーズンにフランケルと交配した南アフリカのG1馬チョコリシャス(Chocolicious)を40万ユーロ(約5,600万円)で落札した。
今年のアガ・カーン殿下が上場した牝馬の中での注目馬は、デヴィッド&ダイアン・ネーグル(David and Diane Nagle)夫妻のバロンズタウンスタッド(Barronstown Stud)が55万ユーロ(約7,700万円)で購買したシャワラ(Shawara 父バラシア)である。シャワラは、ヴェルメイユ賞(G1)やヨークシャーオークス(G1)の勝馬で凱旋門賞(G1)2着のシャレータ(Shareta)の母で、シーザスターズ(Sea The Stars)の仔を宿している。
ダイアン・ネーグル氏は、「シャワラはまさに私たちが探し求めていた牝馬です。繁殖牝馬としては高齢ですが実績もあり、年齢の割に若々しく見えます。落札できたことに満足しています」と語った。
この少し後に、故ジェリー・オールダム氏の処分セールで、G3勝馬アルビソラ(Albisola 父モンジュー)をはじめとする馬が落札された。アルビソラは、バリー・ワイスボード(Barry Weisbord)氏とジェームズ・デラフーク(James Delahooke)氏がアメリカの有名なシェフのボビー・フレイ(Bobby Flay)氏の代理で購買した。
By Ryan McElligott
メイキン氏、処分セールの結果に満足
満足げなポール・メイキン氏は、ゴフス社が約2時間半の処分セールで1,273万4,000ユーロ(約17億8,236万円)を売上げたことを祝うために提供した豪華なスイートルームに引き上げた。
メイキン氏は、この売上げに当然満足していると述べたが、上場馬の中には“割安な馬”もあったとし、次のように語った。
「ゴフス社は称賛に値する素晴らしい仕事を行ってくれました。タタソールズ社(Tattersalls)も好きですが、これ以上の仕事は出来なかったでしょう」。
「割安だった馬もあり、セニカ(Scenica アルゼンチンG1馬)のような牝馬(フォレナーツスタッド(Forenaghts Stud)が10万ユーロ(約1,400万円)で落札)や彼女が生んだモンジュー産駒(ハーバーツタウンハウススタッド(Herbertstown House Stud)が8万ユーロ(約1,120万円)で落札)が、もっと高値にならなかったことに少し驚きました」。
「セニカがアルゼンチン馬であることで偏見があったのかもしれません。もっと高値をつける洞察力の備わった人がいなかったことにがっかりしました」。
「しかし、期待していたよりもわずかに高値で落札された上場馬もありました」。
メイキン氏は、この処分セールの売上げを1,000万〜1,200万ユーロ(約14億〜16億8,000万円)と大まかに見ていたが、確定した売上げ額は分からないと述べた。
「売却すると決める前には牝馬が13頭もいるとは思いませんでした。なるほど、私が馬にうんざりするのも無理はありません。レースで活躍する牡馬を所有したかったものです」。
1階席に座ってセリの様子を眺めていたメイキン氏は、その間イライラしていたことを告白した。
「50万ユーロ(約7,000万円)の価値のある馬を獲得したいのであれば、なぜ20万ユーロ(約2,800万円)から始めるのですか。そんなスタイルが気に入らないので、少しばかり退屈し、妻のリンダール(Lyndall)からあくびを我慢するよう何回か言われるほどでした。けれどもチキータが競られ始めたときには神経を集中しました」。
メイキン氏は本日アイルランドから帰国する。そして、残りの現役馬を所有し続けるが、競走馬生産には未練はないと語った。
「年を取り過ぎましたし、馬の生産は時間がかかるプロセスです。我慢強くない性分で、私には行動が必要なのです」とメイキン氏は付言した。
By Martin Stevens
(1ユーロ=約140円、1ドル=約100円)
[Racing Post 2013年11月23日「What price a Classic winner? €6,000,000」]