競馬界は故障馬が発生しなかった4月6日のグランドナショナルを終えて、誰もが安堵のため息をついていたが、BHA(英国競馬統轄機構)のCEOポール・ビター(Paul Bittar)氏がこのレースの施行に当たっては“不当”なプレッシャーがあったと表現したように、フラストレーションもあった。
安全なレースを開催できたとの自己満足に対してグランドナショナルの全関係者が警鐘を鳴らした一方、ビター氏は次のように強調した。「エイントリー競馬場とレース参加者が受けている監視とプレッシャーは、そのレベルは別として確かにありました」。
「結果的には、非常に良い結果が得られたことに関して全ての関係者が大きな称賛に値します。毎年のグランドナショナル開催は、競馬のイメージと売上げのいずれの面でも英国競馬界にとって大変重要ですが、2013年のグランドナショナルほど安泰だったレースは無いでしょう」。
今年のグランドナショナルはこのように特に問題がなかったが、王立動物虐待防止協会(Royal Society for the Prevention of Cruelty to Animals:RSPCA)のCEOガヴィン・グラント(Gavin Grant)氏が安全措置の前向きな効果を認めながらもゴール地点での問題点を見つけ出すことは止められなかった。
以前ビーチャーズブルック(6号障害)に“イエローカード”を出していたグラント氏は、次のように語った。「ゴール地点に向かっているときに何頭かの馬が非常に消耗しているように見えたことを指摘します」。
「BHAとエイントリー競馬場に対する開催全体についての報告書を準備する際にこのことを調査しますが、昨年行った障害の変更措置が安全で激しいレースに対応できたものと思われることには満足しています」。
2013年グランドナショナルは、とりわけスタート地点と障害の骨組みの変更および騎手の騎乗振りのおかげで特に事故はなく、新聞の見出しは優勝馬オーロラズアンコール(Auroras Encore)一色となった。なお、同レースがジョンスミス社をスポンサーとして開催されるのは今年で最後となる。
エイントリー競馬場は、この満足感を与えた要素と890万人に上ったテレビ視聴者により、英国競馬の王冠に嵌められた宝石とされるグランドナショナルに対し長期の献身的サポートを引き継ぐ潜在的スポンサーの数が増えることになるのを期待している。
ジョッキークラブの地域担当理事で、エイントリー競馬場と英国北西部を管轄するジョン・ベイカー(John Baker)氏は、4月7日に次のように語った。「私たちは焦らずにグランドナショナルの適切なパートナー探しをしています」。
「この30年間でシーグラム社(Seagram)、マーテル社(Martell)およびジョンスミス社のたった3社しか迎えていないグランドナショナルのスポンサー契約に、すでに多くの関心が寄せられています」。
ベイカー氏は、エイントリーハードル(G1)を土曜から木曜に移したことにより木曜の入場者数が増加し、これにつられて土曜の入場者数が史上3番目に大入りの合計15万人以上となったことで、今年のグランドナショナルミーティングの3日間の開催からセールスポイントが引き出されたことに元気づけられた。
そして次のように語った。「エイントリーハードルを木曜に移したことはとても良い措置で、金曜日についても一新することができました」。
「チャンネル4は放映1年目で素晴らしい仕事をし、また視聴率はグランドナショナルがどれだけ素晴らしい世界的なレースであるかを示しており、その数字は新しいスポンサーを確保する大きな後押しとなるでしょう」。
全出走馬40頭と騎手が無傷で1周目を終えた時に、競馬界にとってその安堵感は具体的なものになった。レース中も、メディアが目を光らせている中での綱渡りの飛越の興奮は、7万人以上の観衆のどよめきにあらわれていた。全40頭が序盤の7つの障害を記録的な速さで飛越し、33頭が2周目に入るまでに落馬がたった2頭であった今年のレースにおいて、実況アナウンサーの一言一言に観衆は沸いた。
今年のグランドナショナルに問題点は無かったが、エイントリー競馬場では関係者すべてによる結果報告が行われる伝統があり、その関係者の中には、RSPCAおよびその馬担当顧問を長年務めるデヴィッド・マー(David Muir)氏がいる。そのマー氏は、障害の変更措置と騎手のレースへの取組み方を大きく賞賛した。
またベイカー氏は次のように語った。「障害の変更措置のほかすべてのことについてかなり自信を持って今年のグランドナショナルに臨みましたが、競馬のレースからリスクを完全に取り除くことはできません。すべてが私たちの思うように進み、うまく行ったと思いますが、“大成功”だったと言うつもりはありません」。
ベイカー氏もビター氏も、今年のグランドナショナルを成功に導いた競馬界の取組みを“誇り”に思っている。
ビター氏は次のように語った。「英国競馬界には、馬の福祉の観点から誇ることのできる過去の実績と現在の番組があります。動物愛護団体などが、そうではないと主張するためにグランドナショナルに対するメディアの注目を悪用するのに直面したことは苛立たしいことです」。
「7万人の満員の観客と数百万人のテレビ視聴者に対してエイントリー競馬場の外に現われた抗議者の数は約30人であったことからみれば、グランドナショナルへの大衆の支持レベルが分かります」。
「しかし、予後不良事故のないグランドナショナルが1回達成されたからといって私たちの自己満足にはなりません。グランドナショナルと競馬全般への評価が競馬に全く投資しない人々のための人質に取られないよう、馬の福祉のためのたゆまない努力を明らかにし、揺るぎない実績をはっきりと示し続けるつもりです」。
「グランドナショナルは、英国競馬最大のショーウィンドーであり、2年の困難な時期と実験的な準備期間の後、2013年に再び輝かしいレースを開催出来たことは満足のいく結果でした」。
By Bruce Jackson
[Racing Post 2013年4月8日「BHA chief unhappy at level of pressure on Aintree」]