海外競馬情報 2013年07月20日 - No.7 - 2
エリザベス女王の所有馬エスティメイト、ゴールドカップ優勝(イギリス)【その他】

 ロイヤルアスコットで起こって欲しい願い事リストの一番はサー・ヘンリー・セシル(Sir Henry Cecil)厩舎の勝利であったが、エスティメイト(Estimate)がエリザベス女王陛下にゴールドカップ(G1)初勝利をもたらしたことで、別の重要目標が達成されることとなった。

 英ダービーを5勝しているサー・マイケル・スタウト(Sir Michael Stoute)調教師は、欧州一の伝統ある長距離競走ゴールドカップにおいて、誰もが欲する優勝の歴史的瞬間を自分自身が楽しみながら巧みに操ることができたことで、今回の勝利をこれまで成し遂げた最高の成功と同等に位置づけた。そしてこのエスティメイトの勝利は、レディーズデーに歓声と拍手のクライマックスをもたらした。

 この優勝がエスティメイトの馬主にとって意味することは、女王陛下が語るまでもない。目の前で繰り広げられるビッグレースのクライマックスの虜になっているロイヤルボックスの女王陛下を映し出すテレビショットから、彼女の上機嫌は一目瞭然だった。

 女王陛下は、ライアン・ムーア(Ryan Moore)騎乗のエスティメイトがシムノン(Simenon)を首差抑え、トップトリップ(Top Trip)を3着に下した瞬間、興奮気味に拍手し、一方女王の競走・生産アドバイザーであるジョン・ウォレン(John Warren)氏は女王の隣の席で飛び跳ねていた。

 206年の歴史を持つゴールドカップでは例年、女王陛下が優勝トロフィーを授与しているが、今年は6万1,000人の沸き上る観客とこの特別な出来事で満杯となってしまったパドックの前で、息子のアンドリュー王子から女王陛下自身が優勝トロフィーを受け取った。

 エリザベス女王は1953年にクワイアボーイ(Choir Boy)でロイヤルアスコット開催での初勝利を挙げたが、今回の22回目の優勝は王室の競走と競走馬生産への関わりに大きな意義を持つもので、1977年にセントレジャー(G1)を制した牝馬ダンファームリン(Dunfermline)以来の欧州G1制覇であった。

 スタウト調教師は次のように語った。「この勝利は女王陛下に大きな喜びをもたらし私も非常に感動しています。女王陛下は競馬を心から愛されており、良い気晴らしとなっています。大変感動したとおっしゃり、関係者全員に感謝されていました」。

 「今回の勝利は、女王であることとは別に本当に競馬を愛する1人の婦人として、英王室の主催するロイヤルアスコットの伝統あるゴールドカップで優勝したものであり、本当に意義深いものです。女王陛下は競馬の偉大な支援者であり、その存在は英国競馬にとって大変良いことです」。

 エスティメイトは女王即位60周年である昨年、クイーンズヴァーズ(G3)に優勝し、その後今年5月のサガロS(G3)を制し、アスコット競馬場では3戦3勝を誇っている。

 スタウト調教師は次のように付言した。「自信があっただなんてとんでもありません。ただエスティメイトはうまく仕上がりました。長距離向きの血統ですが、それでも牡馬相手に優勝するにはレベルを上げなければならないと考えていました」。

 ムーア騎手は次のように語った。「エスティメイトが女王陛下に勝利をもたらしたことは素晴らしいことです。女王陛下の勝負服でゴールドカップを勝つことは格別です。良い枠順を引き、レース前半で好位置につけることができ、エスティメイトがとてもリラックスしていたので、その位置をキープできました。他馬が仕掛けようとしていても、常に制することができました」。

 胆嚢感染症のために今シーズン始めに仕事を離れていたスタウト調教師は、この3年間G1勝利から遠ざかっており、ワークフォース(Workforce)の2010年凱旋門賞(G1)優勝が最後のG1勝利であった。

 スタウト調教師は次のように語った。「エスティメイトを心穏やかでリラックスした状態に仕上げるのに一生懸命手を尽くしました。このような作業はいつも大変だと感じますが、サンガロS以来の出走で、もう一度良い状態に仕上げなければならず、一番人気になる程ではありませんでした。ただ最後の直線でいい感じだったので、私たちは期待しました。でも私はとても現実的で、勝つことはとても難しいと考えていました」。

 「うまいレース運びをしなければなりませんでしたが、この牝系は強力なスタミナを売りにしていました。半兄に1999年ゴールドカップを制したエンゼリ(Enzeli)がいるので、血統面での心配はあまりありませんでした。エスティメイトは非常に頑張り屋で、精神的に強い馬です。レース中に非常に落ち着いていることが長所なので、長距離に向いた牝馬です」。

 なおこのレースで、ムーア騎手は、トップトリップとシムノンの進路を妨害したため不注意騎乗として2日間の騎乗停止処分を受け、ジョン・ムルタ(John Murtagh)騎手は鞭使用ルール違反で4日間の騎乗停止処分、ミカエル・バルザローナ(Mickael Barzalona)騎手は不注意騎乗で3日間の騎乗停止処分をそれぞれ受けた。

 シムノンは、2012年ロイヤルアスコット開催でのアスコットSとクイーンアレクサンドラSの2勝にさらに1勝を加えることを狙っていたが、ウィリー・マリンズ(Willie Mullins)調教師は次のように語った。「2着になったことにがっかりしてはいません。シムノンは競走生活の最高の舞台で、1ハロン標識では十分チャンスがありました」。

 「メルボルンカップに焦点を定めていますが、豪州遠征は11月で、過密スケジュールになってしまうかもしれません」。

 トップトリップを管理するフランソワ・ドゥーメン(Francois Doumen)調教師は次のように語った。「トップトリップはこの距離を初めて走りましたが、新たなカスバーブリス(Kasbah Bliss 訳注:ドゥーメン厩舎のカドラン賞などを制した長距離馬)となる気配を感じます。10月のカドラン賞(G1)に出走させるつもりです」。
 

2013年ゴールドカップ(G1)結果
1着 エスティメイト(Estimate) オッズ7-2(4.5倍)
2着 シムノン(Simenon) オッズ5-1(6倍)
3着 トップトリップ(Top Trip) オッズ7-1(8倍)
4着 カラーヴィジョン(Colour Vision) オッズ12-1(13倍)
馬主:エリザベス女王 調教師:サー・マイケル・スタウト 騎手:ライアン・ムーア
厩務員:カースティ・シャウフォット 生産者:アガカーン牧場 着差:クビ、1馬身、2馬身 

By John Lees


大レースに勝ったこれまでの王室所有馬

 エリザベス女王はアスコットゴールドカップに優勝した初の英国国王となり、王室としては4人目の優勝経験となった。

 エリザベス女王の曾祖父エドワード7世は、自身が生産し所有していた名馬パーシモン(Persimmon)が、英ダービーとセントレジャーの優勝に続き1897年のゴールドカップを驚きの8馬身差で制したとき、皇太子であった。

 そしてその皇太子の母ヴィクトリア女王は生産者として、ラフレッシュ(La Fleche)が牝馬三冠を達成した2年後の1894年に、ゴールドカップを制している。

 ヴィクトリア女王の叔父の1人であるヨーク公フレデリックは、2頭のゴールドカップ優勝馬アラジン(Aladdin 1815年優勝)とバンカー(Banker 1821年優勝)を所有していた。

 エスティメイトは、ウィリアム・ヘイスティングス=バス氏(William Hastings-Bass 現ハンティンドン卿)が管理したアンノウンクォンティティー(Unknown Quantity)が1989年8月にシカゴのアーリントンパーク競馬場のアーリントンH(G1)を優勝して以来、女王の初のG1馬となった。

 直近の英国内G1を制した女王の所有馬は、女王陛下即位25周年にあたる1977年にオークス、セントレジャーを制したダンファームリンであった。 
 

エリザベス女王所有のG1勝馬
馬  名 競走名
1954 オリオール(Aureole) コロネーションカップ、キングジョージ
1954 ランドー(Landau) サセックスS
1957 カロッツァ(Carrozza) 英オークス
1957 アルメリア(Almeria) ヨークシャーオークス
1958 ポールモール(Pall Mall) 英2000ギニー
1965 カニスベイ(Canisbay) エクリプスS
1968 ホープフルベンチャー(Hopeful Venture) サンクルー大賞
1974 ハイクレア(Highclere) 英1000ギニー、仏オークス
1977 ダンファームリン(Dunfermline) 英オークス、英セントレジャー
1989 アンノウンクォンティティー(Unknown Quantity) アーリントンH
2013 エスティメイト(Estimate) ゴールドカップ 

1970年以前のレースについては、1971年にパターンレースが創設された際G1に格付けされたレースを含む。

By John Randall

[Racing Post 2013年6月21日「Send her victorious」]