海外競馬情報 2013年09月20日 - No.9 - 3
モンザンテ事件から競走馬のアフターケアと愛護を考える(アメリカ)【その他】

 モンザンテ(Monzante 9歳)はG1馬からクレーミング競走馬に成り果て、故障の末に安楽死措置がとられた。これに対する大衆の抗議は、競走馬の動物愛護問題がどれだけ複雑なものかを物語っている。

 マリアズモン(Maria’s Mon)のせん馬モンザンテは、2008年にデルマー競馬場でエディーリードH(G1)に優勝し、ハリウッドパーク競馬場のチャーリーウィッティンガムメモリアルH(芝G1)で2着となった。その後不振の2年間を過ごし、アローワンス競走1勝のみで、坂を転がり始めた。7月20日にエヴァンジェリンダウンズ競馬場の総賞金4,000ドル(約40万円)のクレーミング競走で右前肢の種子骨を骨折し、同馬のキャリアは幕を閉じた。調教師で馬主のジャッキー・サッカー(Jackie Thacker)氏は、レース後モンザンテを厩舎に戻していたが、同馬が苦しんでいたため厩舎かかりつけの獣医師に相談し安楽死措置が必要であると決断した。

 このモンザンテへの安楽死措置により、2008年ケンタッキーダービー(G1)でのエイトベルズ(Eight Belles)の予後不良への反応に匹敵するほどの強い怒りがソーシャルネットワーク上で爆発した。エイトベルズの件では、同馬は投与されていなかったにも拘わらず、激しい憤りがアナボリック・ステロイドの使用に集中した。さらに、同馬の悲劇的な死は、比較的早急な競馬界でのアナボリック・ステロイド使用撲滅に繋がった。

 モンザンテの件はずっと扱いにくい。競馬ファンは、G1馬が最下級に近いクレーミング競走レベルに成り下がるまで馬主の間でたらい回しされたことに対する生理的嫌悪感を訴えた。そして改善されるべき点の中には、(1) クレーミング競走の廃止、(2) 成績が下降した重賞勝馬への引退強要、(3) より効果的な出走前診断の実施、(4) 引退・アフターケア施設への競馬産業の支援強化の奨励、が含まれていた。

それらを一つひとつ検討してみよう。

 クレーミング競走が廃止されれば当然北米競馬産業は骨抜きになり完全に停止するだろう。馬主に現役馬購買の手段を提供するクレーミング競走は、ジョッキークラブの統計によれば、米国、カナダおよびプエルトリコのレース全体の67.3%を占める。賞金額全体の約38%はクレーミング競走を通じて交付されており、その額は年間4億5,250万ドル(約452億5,000万円)以上である。この統計には、レース全体の約19%を占め北米の賞金額全体の12%になる未勝利クレーミング競走分は含まれていない。

 強制的な競走馬引退に関しては、馬主などが執行停止命令案を提起するのを手ぐすね引いて待っている弁護士団がいるものと思われる。また、競馬ファンの感情には反するかもしれないが、馬は個人所有物であり、どのように扱われるかは馬主の判断によるものである。米国には動物愛護法があるが、モンザンテ事件においては、サッカー氏は同馬の“気持ちの切りかえ”のために長い休止期間から競走に戻しただけで、かつ同馬は元気を回復したと話していた。モンザンテはその後、出走前獣医診断をパスし、十分な健康状態と評価されていた。サッカー氏は、アローワンス競走でも良い勝負をするだろうと考え、その資格を獲得するために、クレーミング競走に出走させただけだと語った。

 また、ルイジアナ州が鎮痛剤ビュート(phenylbutazone)の使用について他州と足並みを揃えていないことは言及する必要がある。ビュートは、競走36時間前にモンザンテに与えられていた(ルイジアナ州は競走24時間前までのフェニルブタゾン投与を容認している)。北中米競馬委員会協会(Association of Racing Commissioners International: RCI)は2010年、全州に対しビュートの許容レベルを以前の5マイクロmg/mlから2マイクロmg/mlに引き下げるよう勧告した。この閾値引下げは、ビュートの高い許容レベルが出走前診断の精度の妨げとなると感じていた統轄機関の獣医師によって支持されていた。ルイジアナ州は2012年に引き下げられた許容レベルを適用するよう試みたが、ルイジアナ・ホースマン共済協会(Louisiana Horsemen’s Benevolent and Protective Association)に反対された。現状では、ルイジアナ州は重賞と準重賞に限り2マイクロmg/ml、その他のすべての競走に5マイクロmg/mlの許容レベルを適用している。ビュートの許容レベル引き下げは馬の安全性を高めることを目的としており、レースの種類とは本来無関係である。安全性と公正性に関する措置は、公平にとられるべきである。

 これらのことは馬のアフターケアと動物愛護の問題を引き起こす。競走馬の引退および第2の人生のための施設ができつつあるにもかかわらず、現在利用できる施設は実際の需要に対してほんの一部だけしか受け入れることしかできないのが現状である。競馬産業は、馬の数にうまく対応する長期的戦略を要求している。馬主にとって安定した財源に支えられた実行可能な選択肢を作り出す必要がある。これらの選択肢は精力的に普及が促進され、また称賛されるべきである。馬主が所有馬をアフターケアすることは、ステークス競走を勝つのと同じぐらいの権威と名誉の印であるべきである。

 なぜなら最終的には馬のケアは、法制化することのできない個人の責任に帰着するからである。

 ここは話を単純にし、正しい行動をとる馬主たちに褒賞を与えよう。

By Eric Mitchell
(1ドル=約100円)

[The Blood-Horse 2013年8月3日「What’s Going on Here―Do the Right Thing」]