現在進行中の米国競馬界における薬物検査と薬物規制の将来についての議論の一環として、競技外検査(out-of-competition testing)がより緊急性のある課題となることを期待しよう。
いつでも競走馬を検査できるようにすることは、競走当日までに馬体内から消滅し、検出できなくなる禁止薬物を発見するうえで重要な役割を果たす。さらに重要なことには、調教師や獣医師に対してたった1時間前の通知で薬物検査を実施する可能性があると警告することは、強力な抑止力として役立つ。競技外検査と罰則および競技規則の強化が組み合わさることで、競馬界は不正者を排除するのに大きな成果を挙げることができるだろう。
現時点で、米国は他の主な競馬国と比べると競技外検査の面で立ち遅れている。
最近のジョッキークラブ円卓会議(Jockey Club Round Table conference)のプレゼンにおいて、マッキンゼー社(McKinsey and Co.)のダン・シンガー(Dan Singer)氏は様々な国際的薬物検査・薬物規制プログラムで行った分析の結果を伝えた。米国では、実施された薬物検査全体のうち競走当日以外に採取されたサンプルはたった1%であった。それに比べ、オーストラリアでは21%のサンプルが競技外検査で採取された。また、香港における競技外検査の割合は11%、フランスでは10%であった。
ニューヨーク州、カリフォルニア州、インディアナ州、デラウェア州、ケンタッキー州およびニュージャージー州はすべて、競馬の競技外検査を実施しているが、これらの競馬統轄州では依然として、プログラムを効果的なものにするのを妨げる多くの障害がある。
これらの障害を取り除くには、先ず州競馬統轄機関に広範囲にわたる薬物を検査する権限を持たせるための州の規制変更が必要となる。そして、すべての現役競走馬の居場所を追跡するシステムが必要だ。すでに競馬場以外の調教施設でも調教記録が公開されていることを考慮すれば、中央のデータベースに全ての馬の居場所を記録するのは技術的にそう難しいことではないだろう。
最大の障害は、全ての州の間で互いに協力させるための相互性である。ある州がその州を拠点とするサラブレッドのサンプルを採取する権限を他州に与えたり、近隣州のためにサンプルの採取を要求されることを望まないので、この点においてかなりの抵抗がある。
しかしここで、統一した薬物検査と罰則制度を構築するという基本的な目標に立ち返ってみよう。競技外検査はこの目標を目指すのに必要不可欠なものである。そして分かり切ったことであるのを承知で言えば、もし個々の州や競馬統轄機関がいくつかの規定を逃れたりそれら全てを無視するようなことができるのであれば、私たちは決して統一化を成し遂げることができないだろう。
確かに、競技外検査は、このシステムの効果を最大限上げるために追加的な作業やサンプル採取が必要となるので、検査費用を押し上げるだろう。現在、競技外検査で通常採取されるのは、血液サンプルのみであるが、マッキンゼー社は、尿サンプルや体毛サンプルも採取すべきだと勧告している。
しかし追加費用は法外に高額というわけではない。マッキンゼー社は、独立の中央機関による全ての薬物検査実施と薬物規制で発生する追加費用は、米国全体の年間賞金総額の2%程度であると見積もっている。
ジョッキークラブのオグデン・ミルズ“ディニー”フィップス(Ogden Mills“Dinny”Phipps)会長は円卓会議の閉会の辞において、「ここニューヨーク州では、この額は馬主がラシックスの注射とその後のエレクトロライト(電解質。“ジャグ”と呼ばれる)に支払っている額をわずかに上回るだけです」と語った。
フロセミド(別名サリックスあるいはラシックス)使用に賛成か否かにかかわらず、大半のホースマンは統一化を要求している。彼らは競走条件が公平となること、ルールが明確となること、そして競走が公正であることを望んでいる。したがってホースマンはこの問題に正面から取り組み、競技外検査を受け入れるべきである。州競馬統轄機関に対して何も隠していないことを示し、競技外検査を早く行うよう迫るべきだ。これはサラブレッドビジネスや競馬、そして競走馬にとって良いことである。
By Eric Mitchell
[The Blood-Horse 2014年8月23日「What’s Going On Here―Outside the Lines」]