2014年の欧州重賞競走計画は、前年と同様、9ヵ国、406レースで構成された。その内訳は、イギリスが最多の146レース、以下、フランス111、アイルランド64、ドイツ44、イタリア30、スウェーデン4、ノルウェーとトルコがそれぞれ3、デンマーク1である。
今年の重賞レースの総数は昨年と同じであったが、勝馬の実頭数は306頭であり、昨年の315頭より少なかった。それでも今年は、昨年、2012年(310頭)、2009年(308頭)に続き、過去4番目に多い年である。
また、2014年はより多くの複数重賞勝馬がいた。昨年は重賞3勝を達成したのはわずか14頭で、5勝以上した馬はいなかったが、今年は3勝以上した馬は25頭で、しかもキングマン(Kingman)、チャームスピリット(Charm Spirit)、ノーブルミッション(Noble Mission)の3頭は5勝を挙げている。
“欧州重賞勝馬の種牡馬ランキング”の首位については変わりなかったし、誰も変わるとは予想していなかった。昨年ガリレオ(Galileo)産駒17頭が重賞で25勝したとき、私は“注目に値する”と述べたが、今年は22頭の産駒が重賞で32勝しているので、それを表現するのにはもっと強い形容詞、“驚異的”というのがふさわしい。
昨年2位のドバウィ(Dubawi)は今年4位に下がったが、重賞勝ち産駒13頭のうち2勝以上できたのはわずか1頭という成績は意外だった。ドバウィを押しのけて2位に入ったのは、その産駒がそれぞれ15勝したインヴィンシブルスピリット(Invincible Spirit)とシャマルダル(Shamardal)の2頭であった。インヴィンシブルスピリットの記録で注目されるのは、今年3頭しかいない5勝馬の中に、その産駒チャームスピリットとキングマンの2頭がいることである。また、シャマルダル産駒には4頭の複数重賞勝馬がいる。
○ 2014年の欧州重賞勝利馬(3勝以上)
G1 | G2 | G3 | 計 | |
(1) キングマン | 4 | − | 1 | 5 |
(2) チャームスピリット | 3 | − | 2 | 5 |
(3) ノーブルミッション | 3 | − | 2 | 5 |
(4) オーストラリア(Australia) | 3 | − | − | 3 |
(5) シリュスデゼーグル(Cirrus Des Aigles) | 3 | − | − | 3 |
(6) ディランマウス(Dylan Mouth) | 1 | 2 | − | 3 |
(7) インテグラル(Integral) | 2 | 1 | − | 3 |
(8) スレードパワー(Slade Power) | 2 | − | 1 | 3 |
(9) アヴニールセルタン(Avenir Certain) | 2 | 1 | − | 3 |
(10) アイヴァンホウ(Ivanhowe) | 2 | 1 | − | 3 |
(11) プリオーレフィリップ(Priore Phillip) | 2 | 1 | − | 3 |
(12) ザグレイギャツビー(The Grey Gatsby) | 2 | 1 | − | 3 |
(13) ソールパワー(Sole Power) | 2 | − | 1 | 3 |
今や平地・障害両用の種牡馬ディラントーマス(Dylan Thomas)の産駒が11勝で5位に入ったことはほとんど予想されなかっただろう。一方、まだ最高級の2歳〜3歳馬の産駒群しか出していないシーザスターズ(Sea The Stars)が他の3種牡馬とともに6位にランクインしたのは驚くに値しない。
“欧州重賞勝馬のブルードメアサイアーズ・ランキング”では、1981年生まれのダルシャーン(Darshaan)の牝馬の仔が昨年は21勝を挙げ見事トップに輝いたが、今年は早い段階で順位低下が予想され12位となった。昨年2位のデインヒル(Danehill)が今年1位となり、予見しうる範囲では今後その地位を占め続けるかもしれない。同馬の牝馬の仔16頭が26勝を挙げ、そのうちの5勝はカインド(Kind)の2番目に優れた産駒で、フランケル(Frankel)の全弟であるノーブルミッション(Noble Mission)によって成し遂げられた。
○ 2014年欧州重賞勝馬の種牡馬ランキング
1位(32勝) | ガリレオ |
2位(15勝) | インヴィンシブルスピリット、シャマルダル |
4位(14勝) | ドバウィ |
5位(11勝) | ディラントーマス |
6位(9 勝) |
シーザスターズ、ハイシャパラル(High Chaparral)、モンジュー(Montjeu)、 オアシスドリーム(Oasis Dream) |
○ 2014年欧州重賞勝馬のブルードメアサイアーズ・ランキング
1位(26勝) | デインヒル |
2位(12勝) | インディアンリッジ |
3位(10勝) | モンズーン |
4位(9 勝) | サドラーズウェルズ、ハイエストオナー(Highest Honor) |
6位(6 勝) |
ガリレオ、モンジュー、ケープクロス(Cape Cross)、 ピヴォタル(Pivotal)、ストームキャット(Storm Cat) マークオブエスティーム(Mark Of Esteem)、 |
○ 1971年以降の欧州重賞勝馬の種牡馬ランキング
1位 サドラーズウェルズ | 327勝(勝馬数158頭) |
2位 デインヒル | 198勝(勝馬数 91頭) |
3位 ガリレオ | 194勝(勝馬数 92頭) |
4位 ヌレイエフ(Nureyev) | 121勝(勝馬数 62頭) |
5位 モンズーン | 117勝(勝馬数 56頭) |
トップと大差があるものの2位と3位はインディアンリッジ(Indian Ridge)とモンズーン(Monsun)である。両馬ともその素性にノーザンダンサー(Northern Dancer)の影響がなく、異系交配馬として貴重な機能を果たしている。ノーザンダンサーの要素の無い仔、5代以内に先祖の重複が無い仔を生産することはますます難しくなってきている。つい2009年までは、5代以内に先祖の重複がない重賞勝利馬は55頭いたが、昨年は28頭に減少し、今年はさらに減って23頭になった。
ノーザンダンサーが競走馬の血統に大きな影響を及ぼしてきたことは言うまでもないが、4代以内にインブリードがある勝馬リストでは、この小柄なカナダ生まれの馬が先祖として血統表に2回あるいはそれ以上出てくる馬が多数を占めている。
しかし、私たちは、今日どの競走馬にも見られる特長をノーザンダンサーに起因するものと考えることには注意しなければならない。たとえ血統表に2回、3回と出ていても血縁的にはかなり遠くなっているので、今では影響力がそう大きいとは考えられない。同馬は血統において安定的な構成要素となっており、スター馬の血統表に出てくるのと同じような頻度で低能力馬や月並みな馬の血統表にも出てくるのである。
ガリレオは、驚異的な記録破りのシーズンとなったことで、歴代の重賞勝馬の種牡馬ランキングで現在第2位のデインヒルに4頭差まで迫っており、2015年の早い段階で2位となり、その産駒の重賞勝利数は200勝を越すに違いない。永久に破られることのない不動の1位とみられてきたサドラーズウェルズ(Sadler’s Wells)の記録も、同馬の最も有名な産駒ガリレオがあと数年生存し繁殖力を持続すれば、きっと脅かされることになるだろう。
By Tony Morris
[Racing Post 2014年11月20日「Phenomenal Galileo in class of his own」]