ストロナックグループ(Stronach Group)の会長で創始者のフランク・ストロナック(Frank Stronach)氏は先週、6つの所有競馬場(サンタアニタパーク、ガルフストリームパーク、ピムリコ、ローレルパーク、ゴールデンゲートフィールズ、ポートランドメドウズ)において薬物の使用および乱用を規制する"10点計画"の一環として競馬場内への薬局設置を提案した。実現すれば、競馬場勤務の獣医師は薬物を場内に持ち込むことを禁じられ、その顧客(馬主や調教師)の馬の治療に必要な薬物は場内の薬局を通じて手に入れることが義務付けられる。そして馬に処方した薬物の詳細記録は残され、定期的に見直されるだろう。このような薬物使用のトラッキングは、香港ジョッキークラブ(Hong Kong Jockey Club: HKJC)では日常的なことである。本誌(ブラッドホース誌)のエリック・ミッチェル(Eric Mitchell)編集長は最近HKJCに連絡を取り、場内薬局制度がどのように機能しているか質問し、獣医臨床サービス部長のクリストファー・M・リッグス(Christopher M. Riggs)博士から回答を得た。
ブラッドホース誌:HKJCはすべての競馬場で薬局を運営しているのですか?
リッグス博士:HKJCは、獣医臨床サービス部(Department of Veterinary Clinical Services: DVCS)を通じて獣医医療を提供しており、そこの獣医師はすべてHKJC職員で香港にいるすべての馬を専門的に治療しています。DVCSはすべての香港馬が調教されているシャティン競馬場の競走馬診療所を拠点としています。競走馬診療所にはしっかりと管理された確実な薬局があり、安全原則を基にした厳密な運営手続きに従っています。これらの手続きが厳守されているかは、HKJCの監査部が定期的かつ独自に監督しています。小さいサテライト診療所が、ハッピーバレー競馬場(競馬開催日のみ利用可能)、検疫所、シャティンのメインの厩舎地区から離れた厩舎設備にあるオリンピックステーブル(Olympic Stable)、引退競走馬がさまざまな活動のために繋養されている厩舎にあります。これらの診療所には、主要薬局のサブユニットとなる薬局があり、同じ規制措置に従って運営されています。
ブラッドホース誌:獣医師は必要とする薬物をどのように手に入れられますか?処方箋を書くだけで良いのですか?
リッグス博士: DVCSの獣医師が承認した場合のみ、薬局から薬物を出すことができます。日常的な薬物(継続的に使われる抗生物質、調教師がよく要求する品目)は毎朝獣医師の承認後に厩舎地区用医療箱(Secure Stable pharmacy box)に入れてしっかりと閉じられ、直接厩舎に届けられます。そして獣医師は厩舎に行き、この医療箱を開け薬物を使用します。獣医師は当面の治療のためにそれぞれの救急箱の中に一定の在庫を有しています。各々の救急箱の在庫チェックは一日の終わりに実施され、在庫の動きはDVCSの情報システムである獣医管理情報システム(Veterinary Management Information System:DMIS)に記録された処方と照合されます。そしてどのような不一致もすぐに追求されます。どちらにしても、在庫品は薬局を出ればすべて馬に処方されたことがVMISに記録されなければなりません。
ブラッドホース誌:薬はどのようにして与えられますか?獣医師は薬物を1回分の10ccしか購入できず、瓶ごと購入することはできないのでしょうか?
リッグス博士:獣医師はすべてHKJC職員ですので、お金のやり取りはありません。すべての在庫の動きはVMISに記録され、料金は治療した馬の馬主の銀行口座から直接引き落とされます。在庫品は定期的に最小単位で与えられます。たとえば、すべての注射剤は薬局で出されるときに予め注射器に入れられます(そして厩舎地区用医療箱か獣医師自身の救急箱に供給される)。
ブラッドホース誌:個々の馬の薬物投与記録はどのように記録され保管されていますか?それはどれぐらいの頻度で行われますか?
リッグス博士:VMISにはその都度リアルタイムで記録されています。さらに、調教師は皆"調教師薬物ブック(Trainer Medication Book)"を保持する義務があります。これには馬に投与された禁止薬物や規制物質がすべて記録されなければなりません。また処方箋はすべて、その薬物を処方あるいは投与したDVCSの獣医師によって副署されなければなりません。さらに馬は調教中の抜き打ちのサンプル(検体)採取に従わなければならず、もし禁止薬物の存在が明らかになれば、その結果は調教師薬物ブックと照合されます。そして不一致あるいは不明の薬物の存在があれば、これは独立した獣医部(獣医規制部)によって徹底的に調査されます。
ブラッドホース誌:もし馬が急に疝痛を起こしたり、緊急の治療を要する場合、競馬場の獣医師は必要な薬物を即座に手に入れることができますか?
リッグス博士:はい。特別の目的のための救急箱があります。また、DVCSの獣医師は必要なときにはいつでも薬局に出入りできます。HKJC職員として、獣医師は全員雇用前の身元調査を受けなければならず、HKJCの行動規範に縛られています。DVCSは最高レベルの公正確保で運営しています。しかし、薬局の出入りもすべて記録されており、有線テレビで幅広く映し出されています。
ブラッドホース誌:海外馬が香港のレースに出走できるのであれば、HKJCはどのように薬物検査を行っていますか?その馬の調教師に薬物投与記録の提出を要求しますか?
リッグス博士:香港では国際競走が年5回あり、海外馬はそのすべてに出走することができ、管理馬を出走させる調教師は皆、詳細にわたる薬物投与記録を提出しなければなりません。香港到着後すぐに、セキュリティー下で各馬から血液サンプルと尿サンプルが採取されます。もし出走を不可能にする禁止薬物の存在が明らかになれば、馬主はHKJCが支給した輸送費をすべて返済しなければならず、調教師は過怠金を支払うことになります。
尿サンプル(あるいは血液サンプル)は、レース当日の朝にすべての馬から採取され、レース前に禁止薬物が体内に存在していないか検査されます。レース後すぐに1、2着馬と1番人気にもかかわらず3着以下となった馬、および裁決委員が指示した馬は否応なく血液サンプルと尿サンプルを採取されます。さらにレース前に尿サンプルが取られなかった馬もレース後に採取されます。
ブラッドホース誌:薬局ではどのような薬物を入手でき、いつ開いているのでしょうか?
リッグス博士:合法で臨床的適応のある薬物はすべて薬局で提供され、薬局には週6日スタッフがいます。
ブラッドホース誌:民間獣医師が香港の競馬場のバックヤードに入ることは可能ですか?
リッグス博士:いいえ。外部の獣医師にセカンドオピニオンを聞くことは可能ですが、実際に診察するには香港で登録されていなければならず、馬主や調教師はDVCSと親密に取り組むことが必要となるでしょう。
ブラッドホース誌:獣医師のトラックには禁止薬物や非処方薬の捜査が行われますか?どれくらいの頻度でこのような捜査は実施されますか?
リッグス博士:すべての獣医師がHKJCに雇用されており、すべての施設はHKJCに所有されているので、これは適用されません。有線テレビのネットワークと調教中の馬への抜き打ち薬物検査が、部外者による独断的な治療を防ぎます。
ブラッドホース誌:獣医師が許可されていない薬物を持っていることが判明した場合、どうなりますか?またそれが調教師の場合にはどうなりますか?
リッグス博士:獣医師が競馬施行規程に反する行為を行っているのが判明した場合、おそらく解雇されるでしょう。調教師が施行規程に違反すれば、厳重な罰則が与えられるでしょう。
ブラッドホース誌:香港は調教中薬物検査を実施していますか?
リッグス博士:はい。直近の2012/2013年の競馬シーズンの間、1万4,000件の競走当日の薬物検査に加え、1,200件の調教中薬物検査を実施しました。
ブラッドホース誌:調教師は自ら馬に治療薬を与えることができますか?
リッグス博士:いいえ。その行為は競馬施行規程を違反することになり厳罰が与えられることになり、香港の法律を破ることにもなるでしょう。
ブラッドホース誌:調教中のフロセミド(訳注:商品名はラシックスあるいはサリックス)の使用は容認されていますか?調教中に使用が認められる薬物はありますか?
リッグス博士:いいえ。調教中にフロセミドを使った日常的治療は許可されていません。一連の薬物は臨床的適応で認められています。しかし、馬が出走する際に体内に禁止薬物がないことを確かにするために厳格な残留期間が指示され遵守されています。
By Eric Mitchell
[bloodhorse.com 2014年4月23日「How Hong Kong's On-Track Pharmacies Work」]