競走馬、とりわけトップクラスの競走馬の生産は、大抵の場合、余裕のある億万長者の分野である。しかし、そのような身分ではないものの、競走馬の生産を生業としようとする勇者もいる。
高額牝馬を購買して高額な種付料の種牡馬のもとに送り、高額な管理費・獣医費が掛かるこの冒険的事業は、本当に利益を生み出せるのだろうか?
私たちが話を聞いた小規模生産者A氏は、「おそらく可能でしょうが、キャッシュフローについての十分な理解と聖人のような忍耐力が必要となるでしょう」と述べた。
A氏がまず初めに語ったことは、事業を始めるにあたり、生産界進出のためのまとまった資金が重要になるということだ。
「まず若い牝馬を購買することから始めます。セリに出向いて牝馬を購買し、自分の土地に繋養し、自ら管理します。しかし、そのような土地を持たないのであれば、それができる人を見つけて、購買牝馬を有料で管理してもらいます。そのために起業後数年間は多額の資金が必要となります。もし2016年12月のセリで牝馬を購買し、その牝馬が生んだ仔を1歳で売るとすれば、その資金を回収するのに2年掛かります」。
「生産には多額の費用が掛かります。そのため、資金繰りについて良く知っておく必要があります。牝馬を購買・管理して種牡馬のもとに送り、生まれた仔馬を管理するようになるまでには、多額の資金が必要となります」。
資金が枯渇することへの恐怖心が無くなることはない。
「多額の資金が出て行くと非常に不安になります。支払いに関して困惑するような問題に直面するかもしれないので、自分が現在どのような状況にいるのか知っておく必要があります」。
購買牝馬を牧場に繋養すると、交配相手となる種牡馬について、また誕生する仔馬の将来について、多くの決定を下さなければならない。楽しいことのように思えるが、正しい判断をしたいのであれば、専門家の助けが必要となるかもしれない。
A氏はこう語った。「誰でも血統について学ぶことはできますが、それを完全に把握しておく必要はありません。しかし馬格は重要であり、一生馬に関わるホースマンであれば、自らその判断をしなければなりません」。
「そうでなければ、馬格を見る目を持つ人が必要です。すぐに問題を起こしそうな牝馬を自らの判断で購買しない方が良いでしょう」。
「私はセリカタログのページで多くのことが語られている牝馬を好んで購買します。そして将来問題が生じないように、健康状態の良い種牡馬と交配させます。選んだ種牡馬が思い通りの結果を出せば満足です。また、90%の割合でG1馬を選びます」。
小規模生産者は、繋養している牝馬が出産した仔をセリに上場することで、利益を上げようとする。彼らは、交配計画が相応しい結果をもたらし、健康上の問題や欠陥がない仔馬が生まれることを望んでいる。また、しばしば予測不可能で変わりやすい考えを持つエージェント(馬売買仲介者)や調教師がセリにおいて、彼らが交配相手に選んだ種牡馬を気に入るように願っている。
優良馬を生産して大成功を収めれば、その母馬を維持して次に生まれる仔馬を売却しても、あるいはその母馬を売却しても、利益を生むことができる。
A氏はこう語った。「優良馬を出す牝馬を手にすれば、多くの収入を得るためにその牝馬にしがみついて仔を生ませ続けることは容易でしょう」。
「しかし、一番良い時期に、気に入った牝馬を売却する強さを持たなければなりません。私は上々の結果を出す廉価の牝馬を購買し、より良い機会を与えることができる人へその牝馬を売ることに多くの喜びを感じます。より優秀なリーグへ昇格させるようなものです」。
「たとえ牝馬を売却してもその牝馬の今後を見守り続けます。さらに、あなたが売却したその牝馬の仔馬の活躍を見たくてたまらなくなります。それは、以前その牝馬を所有していたからです。また、その牝馬の母、姉妹を繋養することもできます。その牝系が成功すれば、将来新たな利益を生むことでしょう」。
A氏は、創業間もない生産事業のために一番良い決定を下したいのであれば、追加費用を支払ってでも専門家の意見を聞くべきだと述べる。
「詳しい知識を持っていないのであれば、種牡馬選びや牝馬の購買・管理に役立てるために、専門家の意見に頼るべきです」。
「そして、信頼できる獣医師が必要であることを忘れないでください。生産者はその点については節約できません」。
小規模生産者は資金とともに、目に見えない資質を必要とする。
A氏はこう付言した。「忍耐強さが大切です。牝馬は自らの生殖能力、あるいは相手の種牡馬の生殖能力の問題のためにすぐに受胎しないかもしれず、流産してしまう可能性もあります」。
「このような事は生産事業を営むにあたっていつでも生じ得ることであり、へこたれずに頑張るしかありません。生産者はあらゆる決定を下せますが、運も必要です」。
利益を上げるために少頭数の繁殖牝馬群に頼ることは、明らかにリスクを伴うビジネスである。健康な仔馬を得るのに運を当てにしたり、仔馬が商業的な価値を持つよう専門家の意見に頼ることで、出費は増大する。短期的な出費、フラストレーション、絶望に耐えられるようにならなればならない。
しかし、多くの人々が生産事業に取り組む理由として、競馬・生産への愛情を挙げている。私たちが話を聞いた小規模生産者A氏は、「これは素晴らしい生き方です。あと30年この職業を続けることを望んでいます。馬は素晴らしい生き物で、その生産は最高のビジネスです」と語った。
小規模生産者という職業の概要
必要なもの:牝馬の購買・種付・管理のために掛かる資金。
収入:固定給なし。生産馬のセリでの人気に大きく依存。
長所:牝馬を廉価で購買し、その牝馬の期待を上回る活躍を目にすること。
短所:資金枯渇への不安が無くならないこと。投資から利益を得るのに2年を必要とすること。
By Zoe Vicarage
[Racing Post 2016年7月21日「'Sometimes you've got to sell the mares you love'」]