海外競馬情報 2017年10月20日 - No.10 - 4
出走取消を減らすために罰則を強化(イギリス)【開催・運営】

 BHA(英国競馬統轄機構)は、英国競馬において出走取消を減らすための抜本的な対策を発表した。出走取消を繰り返す者をなくすために、厳しい罰則が科されることになる。

 出馬投票後の出走取消の理由としては、「自己判断」「獣医師の判断」「馬場状態の変化」が90%を占める。8月16日、これら3つの取消理由に対応する10の勧告が発表された。これは8月9日に近年では最多の1日100頭以上の出走取消があったことを受けて取られた措置であり、その日の出走取消で最も多かった理由は「馬場状態の変化」だった。

 BHAは出走取消を繰り返す者は少数であると考えている。これら少数者を特定し、罰則を科すことが、この対策の主目的の1つである。BHAのCOO(最高執行責任者)のリチャード・ウェイマン(Richard Wayman)氏は、ルールを順守して活動する大多数の調教師と、これら少数の調教師を区別することに意欲的である。

 ブックメーカー・賭事客・調教師・騎手の代表者は、その支持の程度は様々であるが、BHAの勧告を歓迎している。しかし、馬主協会(Racecourse Owners Association: ROA)は、見直しプロセスとその結論の1つを批判した。そして、土壇場の出走取消により騎手が被った収入減を全面的に補償すべきであるというBHAの要求について、「全く受け入れられない」と述べた。

 出走取消は昨年、8%近く増加した。BHAはこの傾向を反転させるために打ち出した対策を段階的に実施する。BHAはこの対策について、「均整が取れ、公正で、的を絞った計画である」と述べている。

 主な勧告の1つは、各調教師の全出馬投票における出走取消の割合とその詳細を示した"出走取消一覧"の年4回の発表である。

 これにより割り出される出走取消の平均レベルを50%上回る値を閾値とする。そして調教師が期間内にこれを超える出走取消を行えば、12ヵ月間「自己判断による出走取消」が認められなくなる。

 第1回目の"出走取消一覧"は10月に発表される。しかし、その一覧は過去12ヵ月間を対象とした統計なので、BHAがこれについて罰則を科すことはない。罰則は、2018年3月以降に発表される"出走取消一覧"に基づいて科されることになる。

 他の主な勧告内容には次のようなものがある。

・ 獣医師の判断で出走取消となった馬は、2日間出走できなくなる。

・ 競走当日の午前9時以降の出走取消の際に騎手へ支払われる補償金の引上げの検討を、ROAと騎手協会(Professional Jockey Association)に対して要求(現在の補償金は騎乗手当の40%であるが、手当全額を支給することを要求している)。

 出馬取消は過去3年間減少していたが、昨年秋の統計でその傾向が逆転していることが明らかになり、見直しが開始された。今回の勧告はそれを受けたものである。

 ウェイマン氏はこの対策には2つの目的があると述べ、「まず、実施されているルールが乱用されないこと、そして今後数ヵ月間そして数年間で出走取消を最低レベルまで減少させることを確実にしたいと思います」と語った。

 そしてこう続けた。「2つの異なる観点から出走取消について調べて、この問題に取り組んできました」。

 「第一に、出走取消を比較的頻繁に行う調教師の行動を改めさせたいと思います。出走取消を頻繁に行う調教師を特定してその情報を公表すること、そしてそれらの調教師に厳しい措置をとることに、集中して取り組みます。もちろん、調教師が馬の健康面や馬場状態の変化といった根拠がはっきりとした理由で出走取消できることは重要です。しかしそれと同時に、そのような権利が乱用されないことを確かにしなければなりません。これらの勧告をまとめている時に、"ルールを順守して活動する大多数の調教師に不当に罰則を与えてはならない"と、私たちは明確に考えていました」。

 「第二に、最も多い出走取消理由に繋がる特異な行動に対処します。出走取消の理由の90%は、自己判断、獣医師の判断、馬場状態の変化に関係しているので、次の対策を取ります」。

・ 裁決委員が競走当日に、これまでに同じ馬場状態で出走取消となった出走予定馬を調査する。

・ 「獣医師の判断」が理由で出走取消となった馬は、2日間出走できない。

 またBHAは、出走取消のルールに違反した調教師に課される現在の過怠金140ポンド(約2万1,000円)を大幅に増額することを約束した。ただし、新たな金額は未定である。

 ウェイマン氏は、これらの勧告は賭事客と外国の顧客の利益を念頭に置き、顧客重視の考え方で作成されたと述べた。

 このような対策に乗り出すときには動物愛護を最高水準に保つ必要がある。ウェイマン氏はこれを"挑戦である"と表現した。しかし、これらの措置が、走るのに不向きな馬や100%の状態ではない馬を出走させるように関係者にプレッシャーをかけることはないと確信している。

 ウェイマン氏はこう語った。「私たちは、これらの措置の影響を一層注意深く監視していきます。そしてこの問題に予期せぬ結果がもたらされるか、あるいは私たちが切望する出走取消の減少を達成できるかどうかを究明します」。

 "提案された馬場状態の基準の採用"に対する全国調教師連合会(National Trainers Federation)の反論は受け入れられたようだ。これは、馬場状態の変化の幅が基準より小さい時は、調教師は出走取消を行うことができないというものである。

 馬場状態の記述方法に統一性が欠けていることから、このような措置の早急な採用は議論を巻き起こしたと、BHAは認めた。

 ウェイマン氏はこう語った。「馬場状態を理由とした出走取消、とりわけ馬場状態の変化が比較的小さい場合には、特に注意深く監視していきます。これらの措置の影響が確認でき、私たちの期待通りに出走取消が減少し始めれば、私たちはこの勧告に立ち返るでしょう」。

 BHAは、このような目標の達成について明確な数字を示しているわけではない。しかし、2016年の出走取消の増加傾向を反転させるだけではなく、より一層の改善を試みたいと考えていることを明らかにした。

 ウェイマン氏はこう語った。「私たちは出走取消を最低限に抑えることを目指しています。近い将来、そして数年先において、出走取消が段階的に減少し続けるのを見たいと思っています。ある数字を目標に掲げるよりも、それこそが私たちの中心的な目標です。すぐに影響をもたらす、もしくは調教師の行動に徐々に変化をもたらすような罰則を適用できるでしょう」。

 BHAによれば、平地競走の海外からの年間収入は、48時間前出馬投票制度(48時間ルール)が適用され始めた2006年の600万ポンド(約9億円)から1,600万ポンド(約24億円)に増加している。しかしROAは、英国競馬における出走取消の財政面への影響に関する分析が不足しているとして疑義をはさんだ。そして、48時間前出馬投票こそが出走取消の多発の主な要因となっており、先週水曜日がその良い例だと主張した。

訳注:48時間前出馬投票制度(48時間ルール)は、英国競馬の海外へのライブ映像配信を発展させるために、2007年の平地シーズン開始時から全面的に適用されることになった。しかし、それにより調教師や馬主の間で混乱が生じ、見返りとして2008年3月から「自己判断による出走取消」が認められるようになった]。



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By Scott Burton

(1ポンド=約150円)

[Racing Post 2017年8月17日「BHA taking tough stance on scourge of non-runners」]