フランキー・デットーリ騎手は今週初め、初騎乗するデルマー競馬場(カリフォルニア州サンディエゴ)に向かうために機上の人となっていた(やはりファーストクラスだ)。ファンはその写真をツイッターで見つけたかもしれない。しかし、この凱旋門賞騎手がくつろぎながら出走馬の過去成績を研究したり機内食を楽しんでいるときに、彼がレースでコンビを組むパートナーたちはどのような旅をしていたのだろうか?
米国最大の競馬の祭典ブリーダーズカップ開催に向かう一流騎手・調教師・マスコミ関係者とある意味ほとんど同じ手順で、競走馬は大西洋を横断する。運賃によってファーストクラス・ビジネスクラス・エコノミークラスに分かれており、それは客席と同様、足元の空間の広さに比例する。
すべての馬はどのクラスであろうと、運搬可能な大きなストール(全長:1馬身)に詰め込まれる。ストールはその後、駐機場において飛行機内の所定の位置に固定される。大半の長距離飛行の場合、エコノミークラスのストールには3頭、ビジネスクラスのストールには2頭が並んで立ってちょうど収まる。また、幸運な馬は歩き回るスペースのあるファーストクラスのストールを1頭で独占する。しかしどのクラスでもストールに一旦詰め込まれれば、通路で足を伸ばすためにそこを出ることはできない。
獣医師は同行するのか?
競走馬を飛行機で輸送する場合に獣医師が同行することは多いが、いつもというわけではない。競走馬輸送会社であるインターナショナル・レースホース・トランスポート社(International Racehorse Transport:IRT)のジム・パルトリッジ(Jim Paltridge)社長はこう説明した。
「顧客が選択する条件と飛行時間の長さ次第です。飛行時間が10時間を下回る場合、馬が水や飼料を摂取しなくなっても大した問題ではありません。しかし10時間以上となれば、獣医師を同行させるのは有効な投資となります」。
ほとんどの人にとって、軽食やアルコールなどの飲み物を気前よく出してもらえることが、空の旅の喜びの1つである。しかし乗り物酔いする不運な人にとって、空の旅はひどい苦痛となる。馬は通常、空の旅にとてもうまく対応するが、長距離輸送によりもたらされる感染症の"輸送熱"はあっと言う間に深刻化することがある。
獣医師がいてもいなくても、競走馬の乗る飛行機には搭乗から着陸まで馬の世話をするフラインググルームが少なくとも1人は同行している。馬が多いほど、グルームの数は増える。彼らは馬の世話をするとき以外はビジネスクラスに座っている。そしてストールのそばにいるときは緊急時のポータブル酸素タンクを携帯している。
グルームは空港ターミナルで通常の乗客と同様に保安検査と出国審査を受けた後、駐機場で馬に会う。したがって、タブロイド紙が"ブレキジット(英国のEU離脱)後に競走馬の輸送経路が不法入国者の新しいルートとなる"と心配する必要はない。
馬に関しては、輸送のかなり前にそのパスポートと書類を揃えなければならない。英国とアイルランドでは、ウェザビーズ社(Weatherbys)が国境検問所の役割を担っている。現役馬については無制裁証明書がありさえすれば、大半の国々で遠征は許可される。しかし、今週末にブリーダーズカップ開催が行われることで人気の目的地となっている米国では、完全な輸出許可証が要求される。けれども、この件についてはトランプ大統領を批判できない。なぜならこれは昔から続いてきた手順だからだ。
人間の後ろに搭乗する馬の群れ
機内で周りにいる乗客はどういう人だろうかと思いを巡らしたことはあるだろうか?何をしている人だろう?どこに行くのだろう?しかし、あなたがまず聞くべきことは、彼らが人間であるかどうかだろう。なぜなら、後方に馬の一団が乗っているかもしれない便があるからだ。
IRTのパルトリッジ社長は、「機内前方に人間、後方に馬を乗せる"コンビ便"と呼ばれる飛行機があります。残念ながら、このような便は徐々に減っていますが、KLMのニューヨーク行きの便は日常的に馬を輸送しています」と語った。
しかしながら多くの場合、貨物定期便あるいはチャーター便で馬は輸送される。IRTは今では主に馬を輸送しているが、創設当初は世界中でシカ、シマウマ、ロバやサーカスの動物を輸送していた。もっとも、同じ飛行機にブリーダーズカップの出走馬とライオンが一緒に乗るようなことはないだろう。飛行における最優先事項は安全性である。最初から最後まで支障のない空の旅を確かにするためにあらゆる努力が払われている。
パルトリッジ社長は、「機長はすべてのことについて冷静さを保ちます。彼らは滑走路全体を使い、緩やかに離陸し緩やかに着陸します」と語った。
馬の蹄鉄を外すことも勧められている。裸足の乗客に対してよく不満を表す客室乗務員には快く受け入れられないだろう。
誰もが気になる金銭的なこと
しかし正直なところ、私たちが皆知りたがっているのは、11時間裸足で立ちっぱなしで機内サービスのないロンドンからサンディエゴまでの空の旅に、どれだけの料金を支払わなければならないかである。人間の空の旅と同様、固定運賃はない。なぜなら、数多くの要素が関与するからだ。その日の輸送経路はどれだけ混んでいるか?定期便かチャーター便か?何頭の馬が乗るのか?
おおよその目安では、ロンドンからサンディエゴまでのエコノミークラスは出発地点から到着地点まで片道で約9,500ポンド(約143万円)である。人間が土壇場で航空券を予約した場合は1,200ポンド(約18万円)ほど掛かるが、もっと上手に準備すれば運賃はおよそ500ポンド(約7万5,000円)まで下げられる。
気まぐれでベルモント競馬場のレースに馬を出走させるとすればどうだろう?ニューヨークまでのエコノミークラスは片道で約5,700ポンド(約86万円)となる。ファーストクラスはどうだろう?各運賃は追加料金や検疫によって変わるが、エコノミークラスの2.5倍ぐらいとなるだろう。
しかし長距離輸送による影響は、馬が賞金を獲得して運賃を埋め合わせるチャンスを失わせるのではなかろうか?調査や事例証拠を見ると、馬の時差ボケは人間よりもましではなかろうかと示唆するものから、時差ボケは実際には競走能力を高めるのではないかというものまである。一攫千金を狙うためにカリフォルニアに馬を遠征させてみようと思うのであれば、急いでください。
By Katherine Fidler
(1ポンド=約150円)
[Racing Post 2017年11月 3日「Racing Revealed―The Facts behind the sport's unanswered questions」]