海外競馬情報 2017年03月20日 - No.3 - 4
シンジケート馬主は競馬の未来の鍵となる(イギリス・アイルランド)【開催・運営】

 英国とアイルランドでは、購買力があり馬を所有することを望む人々の需要よりも、馬の供給の方がはるかに上回る状況になっている。もっとも、我々の直面している事態が生産過剰なのか、それとも需要不足なのかという点についての答えは、それを尋ねた相手によって異なるようだ。

 それでも、新規馬主が競馬に参加するように一層働きかける必要があるというのが、一般的に一致している意見である。

 本紙のリー・モターズヘッド記者は1月29日付のコラムにおいて、"王のスポーツ(Sport of Kings)"という言葉は競馬をうまく言い表しているが、その表現が必ずしも競馬に新規馬主を迎え入れるのに役に立つわけではないと述べた。今や、競馬は幅広い人々が参加できるスポーツとなっている。

 シンジケート馬主は、豪州競馬界において、数が多いというだけではなく、大きな役割を演じている。その良い例は、シンジケート馬主はグローバルグラマー(Global Glamour)やホーツェン(Houtzen)のような優良馬を所有しており、セリにおいても影響を与えていることである。

 より持続可能な馬主の基盤を探求するにあたり、英国とアイルランドの競馬界はシンジケート馬主に注目することが賢明だろう。

 英国で今後有望なシンジケート馬主の1つであるオントゥアウィナー(Ontoawinner)は、現在会員数が300人に達しており、所有馬60頭を14名の調教師に預託している。その所有馬クワイエットリフレクション(Quiet Reflection)が2016年コモンウェルスカップ(G1ロイヤルアスコット開催)で優勝したとき、このようなビッグレースでは失われつつある溢れんばかりの熱狂に包まれた。

 オントゥアウィナーを運営するサイモン・ブリッジ(Simon Bridge)氏はこう語った。「競走馬が過剰に生産されているのではなく、競馬に参加する新規馬主が減っているのだと思います。豪州では、シンジケート馬主は長年躍進しており多くの成功を収めています。しかし、英国の人々は何かにお金を支払うときは何が得られるのか、慎重に考えるようです。それでも、シンジケートの会員にはそれぞれ何か特別なことに参加していると感じてもらいたいと思います」。

 「1頭の馬に対する持分の大きさにかかわらず会員を平等に扱うことが、オントゥアウィナーの成長の鍵となりました。私たちはすべての会員が馬主気分を味わうことを望んでいます。そのためには、コミュニケーションが不可欠であり、競馬開催日を楽しんでもらわなければなりません」。

 ブリッジ氏は、競馬場は馬主に競馬をより楽しんでもらうように取り組んでいるが、"頭が痛くなりそうな"最初の馬主登録手続きが障害となって、新規馬主に対して歓迎ムードを出せていないと指摘し、こう続けた。

 「BHA(英国競馬統轄機構)はこの手続きをできるだけ面倒なものにしているのではないかと感じます。馬主登録や馬名登録に手間が掛かり、ただ馬を競馬場に連れてくるだけで相当骨が折れます。21世紀なのですから、もっと簡潔にできるはずです。競馬場は確かに改革を進めていますが、BHAが足手まといになっています」。

 若手調教師の1人エイミー・マーフィー(Amy Murphy)氏はこの見解に賛成し、こう語った。「シンジケート馬主は迅速に馬主登録できる新しいアイデアであると言えます。一旦馬が欲しいと思い立ったら、うんざりするような書類作成に煩わされたくありません。手続きを早く進めて、馬主としてのスリルを楽しみたいと考えるでしょう」。

 「それに、書類に署名した日にいくつもの費用の支払いを求めるのではなく、1回限りの馬主登録料で済ませるべきだと考えます」。

 馬を所有することに伴う資金収支には変動部分がある。最もわかりやすいのは、馬の購買費用と維持費・預託料などの関連費用、そして賞金である。

 馬の維持費・預託料に対して賞金額が低いことは、英国・アイルランドの競馬界が今日直面している最も大きな問題として、いつも決まって話題にされる。スタンドガード(Stand Guard)はオールウェザー競走で多くの勝利を収めており、通算28勝3着内7回で10年間の獲得賞金は8万8,383ポンド(約1,237万円)であるが、このような馬について考えれば、その問題の原因がすぐに分かる。

 今のような経済的に不安定な時代において、多くの人々が望む幅広い資金提供が競馬界ですぐに実現することは、残念ながらまずないだろう。

 馬主であることで得られるかもしれない収入が限られるのならば、マーフィー調教師が挙げた、馬主になることで得られるスリル感は、より大きな意味を持ってくる。

 このような楽しみが預託料の支払いにつながるとは限らないが、シンジケート馬主やレーシングクラブは資金的に苦労している調教師に対して確実な支払いが可能であり、その義務がある。

 賞金額が危機的レベルにまで落ち込んだという事実からは逃れることはできない。しかし、それは競馬界が、ただ単に馬主として勝ち負けの興奮を味わうために競馬に参加したいと考える人々と関わってはいけないということではない。

 2016年に英国で598万7,167人が競馬を観戦し、競馬が英国で2番目に多くの観客を集めたスポーツとなったことを思い出すべきである。それらの観客の中には馬主として競馬に関わることを望む人がいると考えても良いだろう。

 オントゥアウィナーのウェブサイトにはシンジケート馬主を奨励するビデオがある。

 その中で、オントゥアウィナーのナイル・オブライエン(Niall O'Brien)氏は、「世の中には、何が最高に楽しいかまだ分かっていない人々が大勢います」と述べている。

 今や競馬界は門戸を開け、両腕を広げてそれらの人々を迎えるときである。

By James Thomas

(1ポンド=約140円)

[Racing Post 2017年2月21日「Opening doors to a new audience is the key to sustainable future」]