賭事の公正確保に関するアジアの専門家は英国当局に対して、「世界一賭事が盛んな地域を拠点とする不正オンライン賭事業者の拡大する脅威を、過小評価してはならない」と注意喚起した。
シティベット(Citibet)はそのような賭事業者の1つであるが、香港・シンガポール・マレーシア・マカオの非合法な市場での利益を独占していると考えられており、それは合法市場の売上げの20%以上に相当する。
香港ジョッキークラブ(Hong Kong Jockey Club: HKJC)の安全・公正担当理事であるマーティン・パーブリック(Martin Purbrick)氏は、こう語った。「インターネットの発展と携帯電話の普及により、新規の賭事客がかなり増加し、一連の無免許ブックメーカーが出現しています」。
「アジアのいくつかの不正賭事業者は、この10年間で競馬賭事やスポーツ賭事によって財を成しています。インドネシア・マレーシア・タイ・中国のような人口の多い国では、人々が突然自由に使えるお金を手にし始めたので、顧客ベースが急激に拡大しています」。
同氏は、洗練されたオンライン賭事基盤が開発されているので、アジアの不正賭事業者の影響はそれらが拠点とする地域にとどまらないと付言した。豪州・ニュージーランド・カナダ・米国・英国ではこのような市場が拡大している。
エディンバラ大学卒業後に香港警察で11年間勤務したパーブリック氏は、不正賭事サイトが犯罪グループにより運営されている証拠をつかんでいる。犯罪グループは、莫大な資金を稼げることと、マネーロンダリング・窃盗・詐欺のような他の活動のチャンスに繋がることから、こういったサイトの運営に魅力を感じている。
パーブリック氏のスピーチは、アジア競馬連盟(Asian Racing Federation)が不正賭事調査特別委員会(Anti-Illegal Betting Task Force)を正式に設立したことを受けて行われた。同氏が議長を務めるこの委員会は、HKJCが過去4年間にわたり実施した調査を引き継ぎ、メンバー国である21ヵ国それぞれの非合法市場を新たな視点で再調査することになるだろう。その後、政府や競馬統轄機関に向けて提示する個別のモデルを作成する予定である。
事前の不正賭事市場規模の調査は、10ヵ国で行われ、多くの賭事業者を対象としていた。
主なライバルであるAA-スター社(AA-Star)が無くなったので、調査の焦点はシティベットに向けられている。シティベットはマレーシアからの資金援助を受けているようだがフィリピンを拠点にしており、無免許でその活動が規制されていない。そして複雑な構造になっているエージェントを通じたエクスチェンジ賭事を運営し、中国南部だけで年間560億ポンド(約7兆8,400億円)に相当する額を売り上げている。
シティベットは、数十種類のスポーツを対象とした賭事を世界中の数百もの市場に提供しているが、とりわけ競馬部門に強い。
HKJCの公正課は、6ヵ月にわたるデータ収集作業を経て、シティベットの競馬賭事は合計で、最も賭事が盛んな香港・シンガポール・マレーシア・マカオの合法市場の5分の1以上に相当する額を売り上げていると見積もった。
このプロジェクトは他の競馬管轄区の数字も調査しており、シティベットの賭事客は、賭事対象の英国のレースに、1レース当たり平均約7,000ドル(約77万円)の賭事を行っていると見積もられている。
パーブリック氏はこう語った。「現時点では合法市場と比べればかなり低い額ですが、このような賭事業者は長く活動するほど発展します。彼らがウェブサイトや顧客サービスを改善すれば、顧客は一層合法的なものと見なすようになります。そこが問題です」。
「現時点ではリスクは低く、英国や欧州では問題になっていませんが、アジアを拠点とするシティベットに何の対策も取られなければ、負ける方の馬に賭けるエクスチェンジ賭事が提供されるわけですから、他の競馬統轄機関にも影響が及び、競馬の公正確保自体が危機に晒されるかもしれません」。
「英国でベットフェア社(Betfair)を通じてエクスチェンジ賭事を行う人々は、結局のところベットフェア社はBHA(英国競馬統轄機構)とともに取り組んでいるので安全であると認識しています。しかし、もし彼らがシティベットを通じてエクスチェンジ賭事を行えば、安全は保証されません。英国の賭事客はまだシティベットのことを知らないでしょうが、知られるようになるのは時間の問題です」。
By Howard Wright
(1ポンド=約140円、1ドル=約110円)
[Racing Post 2017年5月9日「Britain warned of the threat from illegal operators in Asia」]