10月1日・2日にロンドンで開催された国際血統書委員会(ISBC)の年次総会において、遺伝子治療が議題として取り上げられた。関係当局が遺伝子治療の実践方法(プラクティス)の良し悪しをどのように区別するかが、差し迫った問題である。
ISBC副会長のサイモン・クーパー(Simon Cooper)氏は、IFHA(国際競馬統括機関連盟)年次総会(通称:パリ会議)の評議会において、ISBC年次総会の報告書を次のように発表した。
「ISBCはIFHAとともに、遺伝子編集物質を利用するなどの全ての遺伝子治療を禁止することで、遺伝子編集の規制と記録に取り組んできました。また、遺伝子治療を認めるためにいくつかの免除が必要かどうかについて検討してきました」。
「生産・競走・賭事についてのIFHA国際協定の2つの条項には、遺伝性ゲノム改変を理由にサラブレッド血統書から "失格"あるいは除外とされるとする現行規定が含まれています。しかし、ISBCはそれらをどのように改善するかについて検討しています」。
ウェザビーズ・ジェネラルスタッドブック(Weatherbys General Stud Book)の理事を務めるクーパー氏はこう続けた。「ISBC年次総会において、マデリン・キャンベル(Madeleine Campbell)博士がこの議題について素晴らしいプレゼンを行いました。同博士は英国王立獣医科大学(Royal Veterinary College)において人と動物の相互作用・倫理学の専任講師であり、馬の繁殖の専門家です」。
「私たちはそのプレゼンを聞いた後、筋骨格障害など競走馬に生じる障害のための"良い"遺伝子治療が、治療ではなく能力向上を目的とした遺伝子編集のような"悪い"遺伝子操作とどのように区別されるかを決定する方法について検討しました。そして、どの障害が遺伝子治療によって治せるか、また何が遺伝子ドーピングの性質を持つかを、どの機関が決定すべきかについて考えました」。
「この区別は、いかなる遺伝子編集も禁止するISBCの要件・指針の条項およびIFHA国際協定に反します」。
「遺伝子治療によってもたらされる脅威に対処する為の方針と血統書ルールを策定する際に、血統書機関は動物の遺伝子操作を統制する自国のルール・規制・法律を慎重に評価しなければならないと、私たちは助言します。さらに、キャンベル博士のプレゼンを基にして、倫理規定について十分考慮するように勧めます」。
ISBC年次総会では、年間種付頭数を140頭に制限する米国ジョッキークラブの最近の提案についても言及された。
クーパー氏はこう語った。「米国ジョッキークラブがこれを課すのであれば、ISBCが干渉できることではありません。それでもISBCは、サラブレッドの血統書のような閉鎖的な血統書に伴う遺伝子の多様性の損失を監視し続けます。そして何がグローバルな立場なのかを見極めるために、独立した国際的な研究を共同で行います」。
ISBCが承認した血統書の数は、クウェートが加わったことで68に上った。来年はパキスタンの承認が見込まれており、この数はまもなく増加するだろう。タイ、アンティグア、セントルシア、パナマ、ウクライナは承認に向けた様々な評価段階にある。
一方、中国の立場は調査下にある。ISBC年次総会の報告書にはこう記されている。「アジア・オセアニア血統書委員会(Asian & Oceanian Stud Book Committee)は中国の立場について再度懸念を表明しました。中国血統書委員会により行われている登録はISBCの要件・指針に則しているが、多くの輸入馬が登録されておらず、輸出証明書も発行されていません」。
By Howard Wright
[Racing Post 2019年10月9日「Gene therapy on the agenda for International Stud Book Committee」]