BHA(英国競馬統括機構)は12月19日、馬の売買に関する待望のレビューを発表した。これに対し、生産界において適応と変化の実現を目指そうとする意欲が見られた。
生産界を法的に分析するこのレビュー(全83頁)は、「生産界の圧倒的多数の人々は誠実に振る舞っているものの、少数の悪徳者が非倫理的もしくは時には違法であるビジネスを行うことによって公正確保が損なわれている」と報告し、生産界の改革に向けて考案された一連の勧告を行っている。
このレビューの作成を指揮した元警察官ジャスティン・フェリス(Justin Felice)氏は、こう総括している。「私たちは、エージェント(馬売買仲介業者)による任務遂行中の違反行為が蔓延しているという明らかで有力な証拠をつかんでいます。中には、"2010年贈収賄法"、"2006年詐欺法"、"1977年刑法"のうちのどれかあるいは複数に抵触して犯罪行為になり得るケースがありました。また、"マネーローンダリング(資金洗浄)"あるいは"税金詐欺"と指摘される懸念のあるケースもありました」。
フェリス氏が行った8つの勧告には、BHAが生産界を統制する役割を引き受けるべきであるとする勧告も含まれていた。
生産界はすでに、1つの勧告に対して措置を取っている。それは、競馬界の様々な分野の代表者たちを集めたブラッドストック産業フォーラム(Bloodstock Industry Forum:BIF)の設立である。
9月に行われたBIFの第1回会合において、議長を務めたタタソールズ社のジミー・ジョージ(Jimmy George)販売部長はこう語った。「生産界は、英国での馬売買に関するBHAのレビューを歓迎します。レビューに記された結果や勧告に対応するために、生産界は8月からBHAと密接に取り組んできており、その多くがすでに行動に結びついています」。
「勧告に従って、BIFは正式に設立されました。現在、サラブレッド仲介業者協会(Federation of Bloodstock Agents:FBA)、ゴフス社、全国調教師連合会(National Trainers Federation)、馬主協会(Racehorse Owners Association:ROA)、タタソールズ社、サラブレッド生産者協会(Thoroughbred Breeders' Association:TBA)、ブリーズアップコンサイナー協会(Breeze Up Consignors Association)、それにBHAからの代表者で構成されています」。
TBAの理事会メンバーでコンサイナーのテッド・ヴォウト(Ted Voute)氏はこう述べた。「全員が集まり、心を打ち明け、多くの勧告に応えるために効果的な方法を考えてきました。これが完成品というわけではありません。それでも、わずかな時間で多くの勧告に対応するために協力して取り組んできました」。
もう1つの重要な勧告は、"BHAがエージェントの免許制度を導入し実施すること"である。レビューには、ごく一部の少数のエージェントによる"周囲に悪影響を与える行為"への痛烈な批判が含まれている。
この勧告では、免許を取得せずにエージェントとして活動した者は、過怠金や業界からの排除といった制裁の対象となる。
FBAはこの考えについて慎重な姿勢を見せた。FBAの代表者オリヴァー・セントローレンス(Oliver St Lawrence)氏はこう語った。「BIFはこの話題について長時間話し合ってきました。そしてBHAの代表者を含む全員が、エージェントの免許制度の導入は広い意味で複雑であり、セリへの購買者の参加に適用される国際基準の観点からも大変な労力を要するものであると認めました。それでもなお、FBAは会員(サラブレッド仲介業者)に対して、誰もが"公正確保に関する講義"を受講しなければならないなどの一層厳格な条件を課すことを決定しています。またFBAの会員の地位を、広く認められ需要の高い『個人および企業の公正性の"カイトマーク(英国規格協会の認証を受けていることを示すマーク)"』として確立することを決めています」。
カタールレーシング社のレーシングマネージャーでありトゥウィーンヒルズスタッドの創設者であるデヴィッド・レッドヴァース(David Redvers)氏は、レビューで挙げられたエージェントの免許制度などの問題に対処するのに、新設されたBIFには経験豊富なメンバーが揃っていると考えている。
同氏はこう語った。「私にとって免許を取得しなければならないかどうかは問題ではありません。はっきりしていることは、 "前進するための最も簡単で最善の方法"を議論するために生産界がBIFを作ったことです。BHAがまとまりを欠く免許制度を導入することよりも、BHAも参加するBIFでしっかり議論されるほうが重要です」。
「BIFは生産界をめぐる公正確保の問題すべてに対応するための正しい目的達成手段であり、BHAはセリ会社やTBAなどと同様にこれに参加している、というのが私の考えです」。
生産界の70人以上がフェリス氏とそのチームによるインタビューを受け、匿名で回答した。レビュー全体には、インタビューからの引用や不適切な行為についての事例調査が散りばめられている。
不適切な行為として次の4つが主なものとして挙げられている。(1)露見しない不当利得行為、(2)エージェントが同一取引の売り手と買い手の双方を代表する行為、(3)謝礼金を要求する行為、(4)共謀された競り上げ。これらはすべて非倫理的と考えられており、時には違法となる。
様々なインタビューの引用と事例調査は、少数の悪徳者による行動が生産界の名声を傷付けることを示している。一方レビューチームは、どのような不正行為についてもクレームが寄せられた形跡がなく、実施規則(2004年導入。直近では2009年に改訂)の効果がないことを指摘した。
2004年と2009年のいずれの実施規則の下でも、クレームが寄せられたことはない。レビューは、"懸念を表明すれば、生産界から疎外されると怯える者がいるからだ"と述べている。
レビューにおいて"明らかに効果がなく、生産界に常時従事する多くの人々にさえも知られていない"と表現されるこの実施規則を全面的に点検する作業は、すでに行われている。
ジョージ氏は新たな実施規則を設ける必要性を認め、こう語った。「全く新しくて断固とした内容の実施規則を策定する作業はかなり進行しています。それはタタソールズ社やゴフス社のセリ名簿に掲載されるだけでなく、BIFに参加する全ての組織で広く普及して適用できるようになるでしょう。また、定期的に見直される予定です」。
「重要なのは、産業内のどの団体も干渉しない独立したクレーム処理手続きが新たな実施規則の下で導入されることです。そして必要な際には、BHAによって究極の制裁措置が取られます。BIFは、BHAの規制&調査プロセスは新たな実施規則の施行を支えるのに十分に堅実で信頼できるものであると考えています」。
ROAは実施規則の変更を歓迎している。ROAのCEOチャーリー・リヴァートン(Charlie Liverton)氏はこう語った。「ROAは生産界に関するレビューを全面的に支持してきました。馬主の保護は最も重要です。馬産業に投資する馬主が保護されていると保証することは、馬主数を維持し増加させるにあたり大変重要です。ROAは、レビューで出された勧告が新たな実施規則の下で実行に移されること、そしてセリ会社がそれらを取引条件に織り込もうとしていることを嬉しく思います。参加者全員によって共同で成し遂げられた進歩は、競走馬の売買において馬主を保護するのに役立つでしょう」。
レビュー作成の背景
このレビューの作成は2017年6月にBHAから委託された。BHAのCEOニック・ラスト氏はレビューの序文で、「BHA理事会は、非倫理的な行為や経験がどのように見られているかについて、また生産界が抱える多くの問題に目が向けられることについて不安を抱いていました」と述べている。これらは、競馬界の"投資を引き付け、馬主数を増やし続ける能力"への懸念を招く。
2018年3月にレビューチームの統率者に任命された元警察官ジャスティン・フェリス氏は、その40年にわたるキャリアにおいてランカシャー警察の最高責任者などの要職を務めてきた。
フェリス氏とそのチームは競馬界・生産界の70人以上にインタビューを行い、2018年9月にBHA理事会に中間報告を行った。
レビューの最終版は2019年7月にBHA理事会に提出され、その後まもなく生産界の主要関係者の間で共有された。本紙(レーシングポスト紙)は流出したコピーを入手し、8月にこのレビューの内容を明らかにした。
By David Baxter
(関連記事)海外競馬ニュース 2019年No.19「BHAの報告書、不適切なセリ取引の是正を求める(イギリス)」
[Racing Post 2019年12月20日「Bloodstock industry pledges to change as BHA review reveals unethical practices」]