ケンタッキー大学のグラック馬研究センター(Gluck Equine Research Center)は、細菌性の胎盤炎である"ノカーディオフォーム菌胎盤炎(nocardioform placentitis)"についての研究を一層強化するために、緊急資金の支出を認めた。この疾病は、牝馬の妊娠後期の流産・死産・早産・新生馬の死など仔馬の喪失を引き起す。
ケンタッキー州中部では、12月初旬からノカーディオフォーム菌胎盤炎の症例報告が相次いでいる。ケンタッキー大学獣医学診断研究所(UK Veterinary Diagnostic Laboratory:UKVDL)は12月に28件、1月に57件の症例を報告している。これらのうち54件の症例はファイヤット郡だけで報告されていた。
2月6日の理事会において、グラック馬研究センターはこの疾病が流行している間に、この疾病に関する現行の取組みを補完する新たな研究プロジェクトを立ち上げるために、コラー緊急対応資金(Koller Emergency Response Funds)を支出すると発表した。現時点では罹患するおそれのある牝馬を特定するのは難しいため、積極的な治療がしづらくなっている。
グルック馬研究財団の理事長であり、ハギャード馬診療センター(Hagyard Equine Medical Institute ケンタッキー州レキシントン)の馬専門獣医師であるスチュワート・ブラウン(Stuart Brown)博士は、こう語った。
「他の牧場は予想よりも多くの症例があったと述べていますが、私たちの多くの牧場では軽度で限られた症例しか確認していません。注意深く観察を行っているケンタッキー州中部の牧場においても、十分なサイズの仔馬を生んだ牝馬はいますし、出産前に胎盤炎が疑われる牝馬を治療するために牧場マネージャーと獣医師が協力して病気を特定し、うまく措置した例もあります。これらの経験こそ難問を解く一助となり、胎盤炎の発症率を把握するのに役立ちます」。
ケンタッキー大学は"より良い診断検査・予防措置の開発"が急務であると考慮し、細菌感染症に対する牝馬の反応について追加情報を得るために、新たな研究計画を進めている。この組織的な取組みには、繁殖・微生物学・免疫学・病理学について専門知識を有する教授陣が関わっており、地域の臨床医も協力している。
ケンタッキー大学獣医学部の学部長で、グルック馬研究センターの理事であるデヴィッド・ホロコヴ(David Horohov)氏はこう語った。「バリー・ボール(Barry Ball)、エードル・エロル(Erdol Erol)、レベッカ・ルビー(Rebecca Ruby)、アレン・ページ(Allen Page)、エマ・アダム(Emma Adam)、ジャクリーン・スミス(Jacqueline Smith)の各博士は、罹患するおそれのある牝馬を特定することを目指すこの研究を主導しています。彼らは、さらに分析を進めるために感染牝馬から検体を集め、抗生物質の効果を探るために特定した細菌の検査を継続しています」。
胎盤炎の症例は毎年わずかに見られるが、症例が急増するのは数年に一度である。直近では2017年に胎盤炎の症例が増加し、その前は2011年だった。UKVDL は今シーズン、2011年出産シーズンと同様の症例数を報告している。しかし、採取された全ての検体(罹患牝馬の胎盤組織を含む)において確認された症例が、必ずしも仔馬の喪失につながるものではないと指摘しておくべきだろう。実際、胎盤が感染しているかもしれない多くの症例において、健康で障害のない仔馬が生まれていた。
馬の繁殖を専門とするグルック研究所の研究者のボール氏によれば、症例が急増するのが数年に一度であることから、この疾病の発生源を把握して診断検査の向上を目指す研究者の取組みは複雑なものになっている。胎盤の病理検査によりノカーディオフォーム菌胎盤炎と診断できるが、分娩・流産前に診断を行うには子宮への腹部超音波検査が有効である。子宮の異変はこの疾病が顕著に進行してようやく確認できる。
2010-11年に頻繁に発症した胎盤炎に関して牧場でのリスクファクター(危険因子)について調べた後向き調査も、発症率に明らかに関連する多くの要因を突き止めていた。それには、「繁殖牝馬が多く家畜密度の高い大型牧場」と分類される牧場が含まれていた。反対に、「晩冬における長い放牧時間」、「出産前の牝馬へのプロゲステロンやhCGの注射」、そして「非ステロイド系抗炎症剤の投与」は、胎盤炎の発症率の上昇と関連しているとは認められなかった。
グラック馬研究センターでこれまで行われてきた研究は、「暑くて乾燥した気候の秋季」が、その後の冬・春の出産シーズンにおける胎盤炎の発症率の上昇に関係しているかもしれないと示している。しかし、その相関関係が何を意味しているかを確認するためには、さらなる研究が必要である。
短期的には、研究者たちは胎盤炎が発症している間にできるかぎり多くの情報を集め、夏のなるべく早い段階にそのデータ分析を始めることを目指している。また長期的には、胎盤炎についてより多くのことを学び、罹患するおそれのある牝馬を特定するために診断検査を受けさせることを目標としている。そうすれば、これらの牝馬は早期に胎盤炎に有効な治療を受けることができ、仔馬への影響を抑えることができる。胎盤炎の発症率が低い年でも、研究努力を継続することが肝要である。
研究者は牧場と協力し、胎盤炎に罹っていると疑われる牝馬の血液検体を毎週採取する。また同じ牧場で繋養されて胎盤炎を発生していないが監視下に置かれている牝馬の検体も毎週採取する。検体採取は診断時から出産するまで継続される。さらに、"すべての胎盤(感染しているもの、および監視下に置かれているもの)"、"安楽死となった仔馬""流産胎児"は最終診断のためにUKVDLで評価される。
By Blood-Horse Staff
[bloodhorse.com 2020年2月17日「Funds Increased for Nocardioform Placentitis Research」]