私たちは2020年にようやく別れを告げ、新たな年に向け思いを巡らせている。全体から見ると、コロナ禍において米国各地の主要競馬場・種馬場・セリが通常どおりに運営できるように競馬産業がうまく対応したので、2020年には競馬にとって前向きな瞬間がいくつかあった。
ただ、そのような瞬間をできるだけ手に入れることができたとしても、2021年にはすべてがうまくいくと予測することは、ほぼ不可能である。競馬の安全・福祉に関する問題は山積している。大晦日のわずか前に可決された一括法案は、競馬公正安全法(HISA)による新しい時代の到来を告げるが、2022年の半ばまでHISAが完全に実施されることはないだろう。ゴールまでの道のりは長い。
馬券売上げの配分の設定が崩壊しているオンライン賭事(ADW)の問題は、明らかに存在するのに見て見ぬ振りをされている厄介な問題の1つだ。我々よりも聡明な人々が、ホースマンや競馬場にとってより適切で公平な配分を見つけ出すべきである。それどころか、新型コロナウイルスの感染拡大、そして(より大きい割合が賞金資金に提供される)場内馬券売上げの消滅により、うまくいけば、この議論は急速に進展することになるだろう。
一方、引続き最大の問題である"競走当日の薬物使用"においては、状況は良い方向に発展している。
2021年においてステークス競走でのラシックス(別名:フロセミドあるいはサリックス)の使用に関する新ルールが注目の的となるには、時間はかからなかった。それは今年最初の競馬開催日に適用された。
昨年の競馬シーズンには、大多数の競馬管轄区で2歳戦でのラシックス使用が禁止となった。北米における競走当日の利尿剤使用を最終的に禁止する計画は次のステージに入ろうとしているが、2021年はその先駆けとなる。競走当日のラシックス使用の禁止は2歳戦に加えて、2021年にニューヨーク州・カリフォルニア州・フロリダ州・ケンタッキー州などの州のステークス競走に拡大される。
サンタアニタ競馬場は1月1日、今年最初の重賞競走、古馬の短距離戦であるジョーヘルナンデスS(芝G2 約1300m)を施行した。
2頭を出走登録していたピーター・ミラー調教師はこのレースの前に、本誌(ブラッドホース誌)のバイロン・キング記者にこう語った。「実に自ら災いを招くような話です。間抜けな人々は時計の針を進められると思っていますが、間違った方向に進めようとしています。競馬が好きな人々はラシックスを良いと思っています。競馬が好きではない人々には本来関係のない話です」。
ラシックスの使用継続を支持するコメントをずけずけと言うミラー調教師は、ジョーヘルナンデスSをヘンブリー(Hembree)で制し、もう1頭の管理馬テキサスウェッジ(Texas Wedge)は5着となった。同調教師はショートメッセージで「テキサスウェッジは6割がた出血していました。50日~60日の放牧が必要です」と述べた。
ミラー調教師は翌日のサンガブリエルS(芝G2)もアナザートゥイストアフェイト(Anothertwistafate)で制した。ラシックスにこのような思いを抱いているのは同調教師だけではない。ご存じのとおり、サラブレッド競馬界においてラシックス使用が合法であるかぎり、それは激しい論争を引き起こす問題であり続けている。実に40年以上も。
しかし、競走当日にすべての薬物使用を禁止する動きはかなりの影響力を集めてきた。過去10年間に、競馬産業のリーダーたちは変化を起こすためにその動きを十分に支持してきた。私たちはぎこちないものの、段階的禁止に向けた次のステージに入ったところである。
いくらよく見ても、現行ルールにはむらがある。たとえば、昨年ラシックスを使用してレースに出走できなかった2歳馬は、2021年には出走できる。ただしステークス競走以外での話である。3歳以上の馬はラシックスを使用してアローワンス競走やクレーミング競走に出走できるが、ステークス競走には出走できない。
整合性があるかと言えば、ノーだ。
混乱させられるかと言えば、イエスだ。
しかし、これは長い橋を渡るための一歩である。物事にはすべて終わりが来る。最終的に競走前48時間内のすべての薬物の使用は競馬公正安全法(HISA)の実施により規制されるだろう。
浮足立つのは今ではない。目標に辿りつくには少し時間が掛かるが、現在取っている道のりは私たちを正しい方向に向かわせるだろう。そのゴールとは、いっそう高潔なスポーツ、より公平なスポーツ、そして狭量になりがちなサラブレッド競馬界・生産界が内外いずれからも敬意を払われるスポーツになることである。
By Evan Hammonds