とてつもなく優秀な競走馬だったこと、種牡馬となってからの数年間に数々のチャンスを与えられてきたこと。それらを考慮して、フランケルの種牡馬としてのキャリアは厳しい監視に常にさらされてきた。しかし粗探しをする人々はこれまで相当難儀してきたことだろう。
現在のところ4世代のフランケル産駒が3歳シーズンを終えている。フランケルは5ヵ国でG1馬12頭・重賞勝馬43頭・リステッド勝馬17頭を含むステークス勝馬106頭送り出している。
それらの数字は明らかに素晴らしい種牡馬成績としてとらえられる。世界においてフランケル産駒のステークス競走の勝率は14%、ブラックタイプ競走の勝率は25%であり、いずれも驚異的だ。
それはフランケルの種牡馬としてのキャリアを順風満帆なものに見せる。しかし同馬の種付頭数は、ほとんどすべての種牡馬が供用生活の初期に経験する慣習的な下向きの軌道に乗っていた。
バンステッドマナースタッドで種牡馬入りしたフランケルは、初年度にG1馬38頭を含む150頭に種付けを行った。けれども、初年度産駒がセリに上場されたときに、フランケル産駒は父の能力を受け継いでいないという噂が立ち、供用3年目の種付頭数は114頭(うち重賞勝馬はわずか37頭)にまで減少した。
その種付頭数は、大半の種牡馬にとってはまだ堅実なものだと言えただろうが、理屈のうえで脆弱さを増す供用3年目の産駒が競馬デビューするときに、あらゆる若い種牡馬が経験するのと同様に、フランケルもいくらか勢いを失うであろうことを暗示していた。
だから予想どおりとまでは言えないのだけれども、フランケルの初年度産駒が2016年にデビューして父譲りの疾走する能力を証明した頃には、セリでの粗探しをするようなコメントは忘れ去られた。
2016年にデビューした2歳産駒の勝率は50%で、15頭の英国・アイルランド調教馬が勝利を挙げた。一方、世界においては6頭がブラックタイプ競走を制した。それは日本のG1馬ソウルスターリングとG3馬ミスエルテ、ラウザーS(G2)優勝馬クイーンカインドリー(Queen Kindly)、そしてG3を制したフェアエヴァ(Fair Eva)、フランクウス(Frankuus)、トゥリフォー(Toulifaut)である。
この有望な結果により生産者の信頼は回復し、フランケルの2017年の種付頭数は222頭となった。そのうち重賞勝馬は86頭であり、優良牝馬にめぐまれた初年度よりも19頭多かった。
2017年には、フランケルの初年度産駒クラックスマンが英チャンピオンS(G1)でポエッツワードとハイランドリールを撃退し7馬身差の勝利を決め、フランケル産駒として初めて英国のG1競走を制した。他の初年度産駒では、エミネント(Eminent)、レディフランケル(Lady Frankel)、モナークスグレン(Monarchs Glen)も3歳で重賞を制した。また、2歳となった供用2年目の産駒の中には、エラーカム(Elarqam)、ネルソン(Nelson)、ロストロポーヴィチ(Rostropovich)などの優良馬がいた。
フランケルは2017年に質と量のいずれにおいても種付相手に恵まれたため、理論上その産駒は有望視され、すぐに結果を出した。アップグレードされたこの世代は昨年2歳となってデビューを果たし、世界において29頭が勝利を挙げ、9頭がステークス競走を制した。以下の4頭が注目される。
・ 日本産のG1馬グレナディアガーズ
・ アランベール賞(G3)優勝馬カラハラ(Kalahara)
・ G3・3着馬ダハビ(Dhahabi)
・ G2・2着馬ファイブサウザンドトゥワン(Fivethousandtoone)2歳の勝馬29頭のうち英国・アイルランドで勝利を挙げたのは19頭で、フランケルは地元での1シーズンにおける2歳産駒の勝利数において、自己最多を記録した。実力を証明したステークス勝馬もいた一方で、以下のような今後重賞で活躍しそうな未勝利戦優勝馬もいた。
・ アダヤー(Adayar G3勝馬で愛1000ギニー2着馬アンナサライの牡駒)...ノッティンガムで9馬身差の優勝。
・ セニタ(Senitaミッデイの全妹)...レッドカーで4½馬身差の優勝。
・ メーナー(Mehnah 愛2000ギニー優勝馬アウタードの半妹)...ダンダークで優勝。
・ タイパン(Taipan ジェシカ・ハリントン厩舎。50万ユーロで落札された牡駒)...ネースのデビュー戦で優勝。
またフランスではアンドレ・ファーブル調教師がジャドモントファームの自家生産馬であるメディアストリーム(Media Stream)とペトリコール(Petricor)を管理している。
次に挙げられるのは、2歳シーズンに勝利に届かなかったものの将来性があり、3歳シーズンにもっと活躍が期待される血統に属すフランケル産駒である。
・ アンガーム(Anghaam 英1000ギニー優勝馬ナタゴラの牝駒)、
・ バーンオウル(Barn Owl G1馬シスルバードの牡駒)
・ ダディフランク(Daddy Frank G1馬ウィズアウトパロールの¾弟)
・ ファンタスティックフォックス(Fantastic Fox G1馬ドリームオブドリームズの半弟)
・ ホープフリーダーリング(Hopefully Darling クラックスマンの全妹)
・ モシャワー(Moshaawer リステッド勝馬ハダーサの牡駒)
・ スノーランターン(Snow Lantern G1馬スカイランターンの牝駒)
・ ザガト(Zagato G1馬イジートップの牡駒)
もちろん、2歳でデビューしなかったが血統が非常に魅力的な以下のような産駒もいる。これらの馬は、すでに多数いるステークス優勝産駒に加わるような才能を発揮するだろう。
・ フェランスター(Ferran Star キングマンの半弟)
・ ハローザビール(Hello Zabeel クイーンカインドリーの全弟)
・ イレプローチャブル(Irreproachable G1馬ヴェレイシャスの全弟)
・ モスターダフ(Mostahdaf G1馬ナジーフの半妹)
・ ネサートン(Netherton G1馬のスターキャッチャーとカノックチェイスの半妹)
・ リージェント(Regent G1馬コロネットの半妹)
・ リヴァーダンス(River Dance G1馬カーソリーグランスの牝駒)
・ ピエトラサンタ(G1馬マーゴッドディドの牡駒)
・ G1馬アトラクションの牡駒
このように強力な3歳馬群はフランケルにとって魅力的であるように思われる。なぜならフランケルは、フィリーズマイル(G1)優勝馬クアドリラテラルのような優れた2歳馬を送り出す能力があるが、クラシック有力馬を専門的に送り出す種牡馬と常に見られてきたからだ。
しかも2021年がフランケルにとって重要な年になると思われる理由は、3歳馬だけではない。良血馬を多く含む2歳馬世代が出番を待っているからだ。
今年の2歳馬は、クラックスマンの活躍のなごりでフランケルの種付料が12万5,000ポンド(約1,750万円)から40%増の17万5,000ポンド(約2,450万円)に引き上げられた2018年種付シーズンの結果として生まれてきた。フランケルのその年の種付頭数は208頭(重賞勝馬75頭、ステークス勝馬133頭を含む)で、またしても初年度上回った。
私たちはすでに、昨年の1歳セールに上場された2019年産のフランケル産駒を多く目にした。その中には、ゴドルフィンがブック1において200万ギニー(約2億9,400万円)で落札したゴールデンホーンの半妹や、110万ギニー(約1億6,170万円)で落札したエラーカムの全弟がいた。そのセールで主取となったマーシャの半弟スペシャルエンヴォイ(Special Envoy)をジャドモントファームはプライベート取引において85万ギニー(約1億2,495万円)で獲得した。
昨年の1歳セールでフランケル産駒は合計38頭(牡駒20頭・牝駒18頭)購買され、平均価格は35万7,665ポンド(約5,007万円)となった。
以下のG1優勝牝馬が今年2歳のフランケル産駒を送り出した。
・ アラビアンクイーン
・ バルチックバロネス
・ カーソリーグランス(牝駒Voodoo Queen)
・ エモリエント(牝駒Raclette)
・ エスティメイト(牡駒Transpire)
・ ファイネストシティ
・ レディオブシャムロック(牡駒Martel)
・ レフトハンド(牡駒Gaucher)
・ マジム
・ モリーマローン
・ モスファン
・ ヌーヴォレコルト
・ パースウェイシヴ(牝駒Persist)
・ リボンズ
・ シンプルヴァーズ
・ スピーディーボーディング
・ スプリングインジエア(牡駒Find)
・ スタセリタ
・ スタースコープ(牝駒 Inspiral)
・ テイツクリーク(牡駒 Malibu Drive)
・ タイムピース(牡駒 Chimed)
・ ウオッカ
フランケルの初期の世代の産駒は、父をすぐにエリート種牡馬の1頭に押し上げた。2017年英国・アイルランド種牡馬ランキングにおいて、フランケルは地位を築いた影響力のある種牡馬ガリレオ、ダークエンジェル、ドバウィに次ぐ第4位となったのだ。2018年と2019年は、クラックスマン、ロジシャン、ウィズアウトパロールがG1優勝を果たしたことで、いずれも第3位となった。
2020年に英国でG1を制した産駒がいなかったことで、フランケルは同じランキングで第12位にまで後退したのかもしれない。それでも、上位5位にはまだ届く地位にはいる。今や、より高い種付料で生産された頭数の多い世代の産駒が走り始めようとしている。フランケルがどれだけ遠くまで行けるかについては予想がつかない。
By James Thomas
(1ポンド=約140円)
[Racing Post 2021年1月10日「Frankel to silence the doubters again as most expensively bred crop comes online」]