海外競馬情報 2022年12月20日 - No.12 - 2
連邦取引委員会、HISAのアンチドーピングルール案を不承認(アメリカ)【開催・運営】

 連邦取引委員会(FTC)はパブリックコメント(意見募集)の期間を経て、HISA(競馬の公正確保と安全に関する統括機関)が提出したアンチドーピング&薬物規制ルール案を不承認とする命令を12月12日(月)に出した。HISA設立を規定した競馬公正安全法(Horseracing Integrity Safety Act)には、HISAのルールはFTCに提出し承認を受けなければならないという要件がある。

 FTCの命令は「ルール案の不承認は、第5巡回区控訴裁判所の競馬公正安全法を違憲とする最近の判決から生じる法的不確実性に起因する」と説明している。ルール案を承認しても、次の段階の訴訟によって、第5巡回区の構成州および訴訟原告となっている州においてはルール案の実行が不可能となってしまい、それは競馬のルールを全米で統一するという競馬公正安全法の基本原則と矛盾することになる。それゆえ、FTCはルール案自体の審理には立入らなかった。HISAは法的不確実性が解消されれば、ルール案を再提出することは可能である。

 FTCの採決の結果は賛成3人・反対0人・棄権1人であり、棄権したのはクリスティーン・S・ウィルソン委員である。

 HISAのCEOリサ・ラザルス氏はこう語った。「HISAが実施してきたものはすべて2023年1月1日からは現状として維持されます。競馬場の安全性プログラムには影響がなく、これまでどおりに運営されるでしょう。ただ、アンチドーピング&薬物規制プログラムの実施が遅れるのは明らかです。HISAの立場としては、プログラムを開始することに心構えができており、ワクワクして待ち遠しいぐらいです。なぜなら、競馬産業の状況を変えるものとなるからです。しかし現状や法的不確実性を考えると、FTCがルール案を不承認として法的問題を明確にし解決するための時間を与えるのが賢明と考えたことも理解できます」。

 法的不確実性は11月18日に始まった。第5巡回区控訴裁判所は、テキサス州北部地区連邦地方裁判所のジェームズ・ウェスリー・ヘンドリックス裁判官の判決を覆して、HISAを違憲とする判決を下した。またこの連邦法はシンシナティにある第6巡回区控訴裁判所においても精査されている。ケンタッキー州東部地区連邦地方裁判所のジョセフ・フッド裁判官によるHISA合憲判決に対する控訴の審理を行っているのだ。12月7日には口頭弁論が行われた。

 フッド裁判官は、HISAの競馬公正安全法はHISAに対する十分な "権限と監視機能"をFTCに認めていると判断した。それによってルール策定プロセスにおいてHISAはFTCに従属する民間団体として機能し、その逆にはならないことが確保されている。ヘンドリックス裁判官は基本的にフッド裁判官と同じタイプの判決を下している。第5巡回区控訴裁判所は、連邦議会は本末を転倒しておりHISAを"主体的立場"をもつ団体にしてしまったと述べた。

 第6巡回区控訴裁判所がフッド裁判官に賛同する一方で、第5巡回区控訴裁判所が立場を変えなかった場合、相互に対立する裁定は、連邦最高裁が実質的に均衡を破る裁定をしなければならないような状況を生みだすことになるだろう。

 第5巡回区控訴裁判所の判決で猶予措置を勝ち取るか、第6巡回区控訴裁判所から有利な判決を勝ち取るかすれば、HISAはアンチドーピング&薬物規制ルールを施行するための時間を稼ぐこともできると、ラザルス氏は述べている。

 「HISAは猶予措置を追求しています。たとえば連邦最高裁がこの訴訟を審理するまでの相当長い猶予期間を確保できれば、HISAはFTCにふたたび出向いてそうした状況に応じて法的承認を求め、プログラムを開始する安定性があることを表明することができるかもしれません。そのためには、第6巡回区控訴裁判所のスケジュールとうまく合わせる必要があるでしょう。彼らは1~2ヵ月のうちに判決を下すと思われます」。

 HISAが法的な迷路をうねって進むという状況にある中で、ラザルス氏は州の競馬委員会と競馬統括機関は1月1日にすべての検体採取と薬物検査に引きつづき責任を負うようになるということを認識することが重要だとも述べた。

 競馬の公正確保・福祉ユニット(Horseracing Integrity & Welfare Unit:HIWU)の専務理事であるベン・モジャー氏は、FTCの決定のあとに別の声明を発表している。

 「HISAのアンチドーピング&薬物規制プログラムの指定独立執行機関として、HIWUは2023年1月1日からのプログラム実施に向けて過去7ヵ月にわたり準備を行ってきました。そして連邦取引委員会(FTC)の承認を得られればその日にこの全米統一プロブラムを実施するように待機してきております。"法的不確実性を理由にHISAのアンチドーピング&薬物規制ルール案を他の権利関係に影響を及ぼさない形で不承認とする"との本日のFTCの決定を踏まえ、HIWUはサラブレッド産業のすべての関係者に対する教育とアウトリーチの努力を継続します。HISAがFTCの承認を得るためにアンチドーピング&薬物規制ルール案を再提出する際には、HIWUはルール施行までに与えられた時間を、競馬産業がこのプログラムを効率的に展開するためにより周到に準備する機会として使うつもりです。このプログラムは競馬における公正な競走と、人間と馬のアスリートの安全と福祉を促進します」。

 北中米競馬委員会協会(ARCI)は、"HISAの競馬公正安全法の合憲性への重大な疑問"があることから、FTCの決定を喜んでいると述べた。

 「HISAの競馬公正安全法の合憲性に積極的に異議を申し立てているメンバー州もありますが、ARCIが訴訟でどちらかの側につくことはありません。私たちは競馬公正安全法を機能させるには書き換えが必要だと考えています。そしてマコネル上院議員・バー下院議員・トンコ下院議員が打ち出した目標を達成するために、どのような修正を加えなければならないかについての合意形成のプロセスに協力する用意はいつでもできています」。

 全米ホースメン共済協会(National Horsemen's Benevolent and Protective Association:NHBPA)のCEOエリック・ハメルバック氏もFTCの決定を支持する声明を発表した。NHBPA はHISAの憲法上の権限に対して異議を唱え続けてきた。

 ハメルバック氏はこう語った。「今回のFTCの決定はホースマンにとって、憲法に違反する競馬産業の乗っ取りに対する戦いにおける前向きな一歩です。私たちの強力な法的主張は第5巡回区控訴裁判所での満場一致の判決につながりました。そして今、FTCは正しいことをしています。つまりHISAを違憲とした連邦裁判所を無視するようなことは拒絶しました。FTCの命令は明確です。この訴訟で最終的に勝利するまで、薬物の規制には州法が適用され続けるということです」。

By Eric Mitchell

[bloodhorse.com 2022年12月12日「FTC Rejects HISA Anti-Doping and Medication Rules」]