生産関係者は現在までに、種牡馬が早すぎる死を迎えるとすぐにマーフィーの法則が作動し、その相当数の産駒が競馬場で素晴らしい成績を収めだすということをうんざりとした気持ちで味わってきた。
2007年独ダービー(G1)優勝馬アドラーフルークは昨年の復活祭にシュレンダーハン牧場で種付後に心臓発作で死亡した。その後その産駒が父は種牡馬として優秀どころか偉大だったということを証明しており、ことさら人々を苛立たせている。
種付料1万6,000ユーロ(約216万円)で最高級の繁殖牝馬を迎えていたアドラーフルーク(父インザウイングス)が17歳の若さでいなくなったことが、当時はあまり大きな打撃として認識されなかったというわけでもない。なにしろすでにイキートス、イトウ、ラカザーというG1馬を送り出していた。それに、2020年の独ダービーで産駒のインスウープとトルカータータッソがワンツーフィニッシュを決め、インスウープがその年の凱旋門賞(G1)でソットサスの首差の2着に入ったばかりだった。
しかし、アドラーフルークの死はその馬主や周囲の生産者にとって当初考えていた以上の悲劇であったということを私たちは思い知らされることになったのだ。
2021年の後半になって、トルカータータッソはハンザ大賞(G2)とバーデン大賞(G1)を制し、最も注目すべき凱旋門賞で優勝した。一方インスウープはエドゥーヴィル賞(G3)とシャンティイ大賞(G2)での優勝を競走成績に加えて現役を引退し、クールモアの障害競走の種牡馬となった(アイルランドと英国の繁殖牝馬所有者にとっては朗報だが、インスウープが近くで供用されることを望んでいたドイツの平地競走の生産者にとってはあまり良いニュースではなかった)。
そのうえアレンカーがサンダウンクラシックトライアル(G3)とキングエドワード7世S(G2)を制し、英インターナショナルS(G1)で2着となった。さらにミティコ(Mythico)は独2000ギニー(G2)を制し、ウォークアウェイ(Walkaway)はG3競走で優勝し、アルターアドラーは独ダービーで2着、メンドシーノ(Mendocino)はバイエルン大賞(G1)で2着を達成した。
4月10日(日)の結果は、アドラーフルークが今年も輝かしいシーズンを迎えることを示唆していた。まず、ロンシャンで施行された2つの新馬戦(牡馬限定・牝馬限定 芝2100m)の両方でアドラーフルーク産駒が決定的な勝利を収めた。
勝利を収めたアレリオ(Alerio)とスウーシュ(Swoosh)はシュレンダーハン牧場の自家生産馬であり、実はいずれもインスウープを手掛けたフランシス-アンリ・グラファール調教師に管理されている。2頭は亡き父アドラーフルークと同様にフォン・ウルマン家の生産事業の素晴らしさを見事に宣伝している。
アレリオの母アマゾナ(Amazona 父ドバウィ)はG3勝馬であり、兄弟に4頭の勝馬がいる。その中には半姉アッシジ(Assisi 父ガリレオ)がいる。アッシジはクリテリウムアンテルナショナル(G1)優勝馬アルソン(今年からファホフ牧場で供用)や独2000ギニー優勝馬エインシェントスピリットの母である。
アマゾナとその兄弟の母はシュレンダーハン牧場の2004年独オークス(G1)優勝馬アマレット(父モンズーン)である。アマレットの半妹であるリステッド勝馬アナトラ(父タイガーヒル)は、メルボルンカップ(G1)優勝馬アルマダンの母である。
信じられないことだが、フォン・ウルマン家は1940年代からこの血統を育んできたようだ。
一方、スウーシュは全兄に独ダービー2着馬でドーヴィル大賞(G2)を制したサヴォワールヴィーヴル(Savoir Vivre)がいる。また半兄にリステッド勝馬のススディオ(Sussudio 父ネイエフ)がいる。
スウーシュとその兄弟の母はリステッド勝馬スーデンヌ(Soudaine 父モンズーン)である。スーデンヌの半姉ソワニエ(Soignee 父ダッシングブレード)はフォン・ウルマン家が珍しく手放した優良馬である。1歳のときに15万ユーロ(約2,025万円)で売却されたのである。ソワニエはバーデンバーデンでリステッド競走を制し、繁殖入りするとスタセリタ(父モンズーン)という極めて優秀な娘を送り出した。
4月10日(日)はこのファミリー(牝系)にとって非常に実りある一日となった。スタセリタの初仔で勝馬のサザンスターズ(父スマートストライク)の娘スターズオンアース(父ドゥラメンテ)が桜花賞(G1 阪神)を僅差で制したのだ。
ちなみにソワニエの母スイヴェ(Suivez)は、昨年ドンカスター競馬場でブラックタイプ競走を制した2頭の2歳馬の3代母にあたる。ドンカスターS(L)優勝馬フレーミングリブ(Flaming Rib 父リブチェスター)の母はスウーシュの未出走の半姉サドンリー(父エクスセレブレーション)である。また、フライングスコッツマンS(L)優勝馬ノーブルトゥルース(父キングマン)の母はスタセリタの未出走の半妹スペラリタ(Speralita 父フランケル)である。
アドラーフルークは日曜日が安息日であるという考えを無視し、ドイツでも存在感を示した。クラシック勝馬ミティコがフリューヤールスマイル(G3 デュッセルドルフ)で格上のルバイヤートを退け優勝し、シーズン初戦を制したのだ。
トーマス・ブレッツガー氏の自家生産馬であり、ジャン-ピエール・カルヴァロ調教師が手掛けるミティコ(牡4歳)は5月のミュゲ賞(G2 サンクルー)を目指している。この馬の全姉ミティカ(Mythica)はリステッド競走で2着に入っている。彼らの母は勝馬のマドヒアナ(Madhyana 父モンズーン)である。
当然のことながら、以前シュレンダーハン牧場の要となっていたモンズーンは、これまでドイツで供用された中で最も国際的に重要な種牡馬には違いないが、4月10日(日)に重賞を制した3頭のアドラーフルーク産駒の血統に大きく関わっている。
アドラーフルークのサイアーライン(牡系)が、障害競走に限定されつつあるモンズーンのサイアーラインよりも繁栄することを願うばかりである。
それが現実になるのにインスウープのセカンドキャリアは良い前兆とは言い難いが、イキートスやイトウがドイツの牧場でしっかりとサポートされることを願うばかりだ。
少なくとも将来ランクを上げる馬はたくさんいるはずだ。それはアルターアドラー、メンドシーノ、ミティコのような馬、そしてひょっとするとアレリオかもしれない。もちろん、最もエキサイティングなのはとてつもない馬トルカータータッソだろう。
ここだけの話だが、この凱旋門賞優勝馬が引退後に地元で供用されることを切望しているドイツの生産者たちは、2022年にトルカータータッソがふたたびドイツの国境を越えて活躍すれば、どちらかというと複雑な心境になるのではないだろうか。
もちろんドイツ産馬が世界を舞台に偉業を達成することに大きな誇りを感じていることだろう。しかしその一方で、欧州や日本で巨額を費やす牧場の視線をしっかりと浴びることになることを彼らは認識するだろう。
By Martin Stevens
(1ユーロ=約135円)
(関連記事)海外競馬ニュース 2021年No.13「ドイツの一流種牡馬アドラーフルークが急死(ドイツ)」