"競馬産業の重鎮グループ"はBHA(英国競馬統括機構)に一連の提案を持ち込んだ。これらの提案が、英国競馬界が直面する重大な問題に対処し、競馬界の今度の戦略見直しの一環として検討されることが期待されている。
BHB(英国競馬公社 BHAの前身)の元会長ピーター・サヴィル氏は、競馬場・馬主・生産者・ホースマン・賭事業者の代表者などから構成されるこのグループの一員であり、7月25日(月)にBHAに送付された書簡に署名したうちの1人である。
サヴィル氏は本紙(レーシングポスト紙)に対してこう語った。「過去数ヵ月にわたり、競馬産業の多くの重鎮たちと会ってきました。そしてBHAに書簡を送付し、今度の戦略見直しに盛り込むべきと考える原則の骨子を添えました」。
さらに個人的な意見として、競馬界が直面している主な問題は次の3つだと考えているという。(1)ほかの主要競馬国の水準に賞金が追いついていないこと、(2)優良馬が海外に流出していること、(3)出走頭数が少ないこと。
この提案は現段階において、主に平地競走に重点を置き、最高級レースの出走頭数を改善しようとしている。そのために、最も出走頭数の不足の危機にさらされているレーティング80~100の馬を対象としたレースを廃止にすることも考慮されている。
また英国競馬界でも比較的格の高いレースの賞金を引き上げ、それらのレースを土曜日・日曜日・週半ばのフェスティバル開催で集中的に施行してITVで中継することで、出走頭数の増加と発売金額の拡大を促進しようとしている。
しかし、競馬開催日数の削減も提案に盛り込まれているとの報道は否定した。
1998年~2004年にBHBの会長を務めたサヴィル氏はこう語っている。「人々は開催日数や競馬場を減らす必要があると言います。そうではなく、適切な出走頭数を集めることがまず必要で、特に最高級のレースではいっそう多くの出走頭数を確保する必要があります。なぜなら、それらに対して人々はより多くの馬券を購入してくれるからです。そうすれば発売金の増加につながるでしょう」。
「適切な出走頭数を集めること、そして発売金増加の恩恵を受けることにより、賞金の問題を部分的に解決できるでしょう。現在、少ない出走頭数が発売金に影響を及ぼしていることははっきりしています」。
サヴィル氏は、出走頭数はほかと一様となるように引き上げられるべきだと考えていると述べた。高レーティングのハンデ戦が減る一方で、出走頭数の不足にあまり悩まされていない格下のハンデ戦が増えるだろう。そうすれば格下のハンデ戦に馬を出走させている人々に対して、優勝して賞金を獲得するチャンスがいっそう多くもたらされるという。
「各クラスのレース数を調整するだけで良く、開催日数の削減は不要であることが示されています。各クラスの1レース当たりの出走頭数を理想的な数に到達させるためにレース数を平らにするだけで、それは可能になります」。
「なぜこのような事態に陥ったのかという疑問が生じます。それは各クラスにどれだけのレース数が必要かなどについて、一元化された管理や合意が十分になされていなかったからなのです。そのあたりを皆さんに納得してもらうことが必要です」。
「それをどう実現するかは、BHAが利害関係者や出資者と話し合うことにかかっています」。
サヴィル氏は、"英国競馬界はほかの主要競馬国のための保育所になる危険性がある"と言ったジョン・ゴスデン調教師は正しかったと述べた。そしてブリタニアS優勝馬シーシス(Thesis)の香港への売却のような優良馬の流出を防ぐために、最高級のレースの賞金を引き上げなければならないと付け加えた。
レーティング90以上の馬の輸出件数はここ数年でほぼ倍増しており、中東・豪州・フランスがその行き先となっている。
サヴィル氏はサッカーのプレミアリーグとの類似性を引合いに出し、「すべてのトッププレーヤーが海外に流出してしまったら、最終的にはプレミアリーグ全体の基盤が苦しめられることになります。なぜならテレビ放映権などの価値が低下するからです。競馬界はそういう状況に直面しているのです」と語った。
そして「レーティング80以上の馬、つまり海外のバイヤーが20万ポンド(約3,200万円)以上で購買する馬を所有する馬主への報酬を改善するために行動を起こすべきです。さもなくばこれらすべての馬を失い続けていくだけで、ますます状況は悪くなるでしょう。最高級の馬がいなくなればすべてが崩壊するのです」と述べた。
またある程度優秀な馬をとどめておくことができたなら、英国競馬界はそれに合ったレベルのレースを首尾よく開催して販売促進する必要があると、サヴィル氏は主張した。
「最高級のレースをこれまでよりもきちんと評価する必要があると考えています。誰もが"英国は世界一のレースを施行している"と言っていますが、これらの問題に対処しないかぎり、その状態だって長続きはしないでしょう」。
「生産する馬の質という点においては依然として世界一の水準を保っていることは明らかです。一方で、サッカーがプレミアリーグを創設して世界最高のブランドにしたのと同様に、競馬界はこの状況を利用する必要があるのです」。
「決してエリート主義だとは思いません」
"この提案はエリート主義的で、英国競馬界でサッカーの欧州スーパーリーグのようなものを創り出そうとしているのではないか?"という指摘をサヴィル氏は否定した。
「決してエリート主義であるとは思いませんし、欧州スーパーリーグに似たものだとも思いません。なぜなら、これはすべてBHAの庇護のもと英国の競馬施行規程の範囲内で行われるからです」。
「超富裕層がより豊かになるというような問題ではありません。何よりもまず、競走馬の馬主の中には超裕福でなくてもトップレベルの人はたくさんいるからです。さらに馬主は一般的に、競走馬を所有することでより裕福になることはありません」。
「それゆえエリート主義的なものと見なしているわけではなく、英国競馬界が主力商品を見極める上で必要なこととして考えているのです」。
サヴィル氏は、地上波テレビ放映の拡大・ワールドプールの構想の深化・賦課金制度の改革を通じて、競馬界にチャンスがもたらされると考えているという。
そして「悲観と落胆の感情であふれていますが、これらを変えて構造を正すことができれば楽観的になれると思います」と付け足した。
主要な競馬場所有会社もこの提案を議論するグループに参加しているようだが、ジョッキークラブ競馬場社とアリーナレーシング社は本紙の取材に対してコメントを差し控えたいと述べている。
BHAはこの議論についてずっと報告を受けており、英国競馬界のリーダーたちは今年後半に戦略見直しを発表することに合意していると、サヴィル氏は述べた。
BHAのスポークスパーソンはこう語った。
「行動を起こすべきなのは明らかです。競馬界は成長を遂げるために革新が必要です。このような理由から、競馬界の利益を心から考えている方からの提案を歓迎しています。提案は競馬産業の戦略見直しの一環として検討されるでしょう。競馬産業の利害関係者との協力と協議のもと、今後数ヵ月のうちに喫緊の課題としてこの戦略見直しは実施されるでしょう」。
By Bill Barber
(1ポンド=約160円)
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[Racing Post 2022年7月27日「Industry heavyweights approach BHA with radical proposals to shake up sport」]