バーイードはフランケル以来の傑出したターフの競走馬というだけでなく、故ハムダン殿下の40年にわたる賢明な生産活動の最高傑作でもある。
殿下が慎重に発展させてきた血統を維持していくことになった後継者たちが、バーイードをサポートするために優秀な競走牝馬や繁殖牝馬を選び出したのは当然のことである。バーイードは今年、ナネリースタッドで新しいキャリアをスタートさせる。
バーイードのもとに送られるG1勝利を挙げたシャドウェル(ハムダン殿下の生産事業体)の牝馬の中には、英チャンピオンズフィリーズ&メアズS(G1)を制した繁殖1年目のエシャーダ(父ムハーラー)や、ファルマスS(G1)とサンチャリオットS(G1)を制して現在フランケル産駒を身ごもっているナジーフ(父インヴィンシブルスピリット)がいる。
バーイードとエシャーダの組合せは、深い影響力のある牝系の祖先がある程度の距離を置いて重複するという興味深い内容である。バーイードの父シーザスターズとエシャーダ自身の牝系にはアレグレッタ(Allegretta)がおり、バーイードの母アグハリード(Aghareed)とエシャーダの母父ネイエフはハムダン殿下の素晴らしい優良繁殖牝馬ハイトオブファッション(訳注:エリザベス女王が生産して競走させた牝馬)のいる牝系に属している。
またバーイードとエシャーダのあいだに生まれる産駒は父父がシーザスターズ、母父がムハーラーであり、グリーンデザートの4×4のクロスをもつことになる。また、その血統にはミスタープロスペクターの系統も複数含まれる。
バーイードとナジーフの組合せはグリーンデザートのやや近い3×4のクロスをもたらすことになる。ナジーフの父インヴィンシブルスピリットの父はかつてナネリースタッドの血統を形成したグリーンデザートなのだ。なお、ナジーフは昨年2月に初仔として同スタッドのモハーザーの牝駒を出産した。
シャドウェルがバーイードのもとに送るほかのハイレベルの競走牝馬の中には、G2・5勝馬エンビハー(父リダウツチョイス)とG3・3勝馬タンティーム(父テオフィロ)がいる。現在エンビハーはモハーザー産駒、タンティームはオアシスドリーム産駒を身ごもっている。
バーイードとタンティームの組合せは、生産を学ぶ者を夢中にさせるような血統の産駒を送り出す。シーザスターズの母であり、テオフィロの父ガリレオの母でもあるアーバンシーの4×3のクロスをもつことになるからだ。
供用1年目のバーイードの交配相手となるもう1頭のテオフィロの牝馬は、フォールアスペン(Fall Aspen)の牝系に属するリステッド勝馬アドゥール(Adool)である。すでにシーザスターズと相性が良いことが確認されており、大々的に宣伝されたアンタラ(Antarah)を送り出した。アンタラは2021年11月にノヴィスステークス(ニューキャッスル)を大差で制して大きな印象を残したものの、2022年は不具合が生じて3歳シーズンは出走しておらずこれまで1戦しかしていない。
バーイードはアシーラ(Asheerah 父シャマーダル)およびその娘アニーン(Aneen 父ロウマン)とも交配する。リステッド競走2着馬アシーラはシーザスターズの父ケープクロスと交配し愛2000ギニー(G1)優勝馬オータードを送り出した。現在アシーラはフランケル産駒を、アニーンはモハーザー産駒を身ごもっている。
モハーザー(父ショーケーシング)に話を移すと、ナネリースタッドで供用3年目を迎えるこのトップマイラーもひき続き多くの優良牝馬を確保している。
最も目を引く交配相手はシャドウェルのシーザスターズによるもう1つの成功例、傑出した競走牝馬タグルーダだ。12歳のタグルーダの仔のうち出走している2頭、アルマイワー(Almighwar)とイスラー(Israr)はいずれも勝利を収めレーティングを上げている。またキングマンの2歳牝駒とロペデヴェガの1歳牡駒も送り出しているが、2021年の出産が遅かったために昨年は交配していない。
昨年、最も人気があったモハーザーの初年度産駒は11万ギニー(約1,848万円)、9万5,000ユーロ(約1,330万円)、9万ギニー(約1,512万円)、8万ギニー(約1,344万円)などの価格で落札された。モハーザーは、バーイードの半姉で未出走のアルラーバ(Al Raahba 父フランケル)とも交配する予定。アルラーバは現在シーザスターズ産駒を身ごもっている。また一流スプリンターであるバターシュの全妹で未出走のアルターイシャ(Altaayshah 父ダークエンジェル)やG2勝馬トレブルー(Tres Blue)の半妹でリステッド競走2着馬ハミーム(Hameem 父テオフィロ)もモハーザーのもとに送られる。なおアルターイシャはピナトゥボ産駒、ハミームはロペデヴェガ産駒を身ごもっている。
昨年のヘイドックスプリントカップ(G1)の優勝馬であるミンザールもシャドウェルのサポートを受けてデリンズタウンスタッドで種牡馬生活を開始する。ミンザールの父は採算の取れる選択肢として人気を集めつつある種牡馬メーマスである。
シャドウェルがミンザールのもとに送る牝馬の中で選りすぐりなのはG3勝馬タジャーナス(父アルカノ)である。英1000ギニー(G1)優勝馬ナタゴラ(父ディヴァインライト)を母とする。タジャーナスは現在トゥーダーンホット産駒を身ごもっている。
バーイードの母アグハリードはコロネーションカップ(G1)優勝馬フクムを送り出したことで、シーザスターズとの相性の良さを際立たせた。当然のことながらふたたびシーザスターズの産駒を身ごもっており、今年もまたこの世界チャンピオンとの交配が予定されている。この組合せから生まれる最初の牝駒はいつかシャドウェルの繁殖牝馬群に入りこの牝系を継続させていくことになり、それは貴重な宝となる。
14歳のアグハリード(父キングマンボ)は未出走の娘ザグハリード(Zaghaareed 父アンテロ)とともにギルタウンスタッドを訪ね、繁殖1年目のザグハリードの交配相手もシーザスターズとなる。
シャドウェルはシーザスターズのためにもワクワクするような牝馬を確保している。それはタンティームの半妹で勝馬のカイザラーン(Khayzaraan 父キングマン)、プリティポリーS(G1)で5馬身差の勝利を収めたマクサッド(父シユーニ)、そしてG3勝馬でG1・2着馬のゼヤーダ(Zeyaadah 父タマユズ)である。現在カイザラーンとマクサッドはロペデヴェガ産駒、ゼヤーダはドバウィ産駒を身ごもっている。
英国・アイルランドのリーディングサイアーとなったドバウィと交配するためにダーラムホールスタッドに向かうシャドウェルの牝馬の中には、オータードの半妹でリステッド勝馬で繁殖入りしたばかりのメナ(Mehnah)やサンタラリー賞(G1)を5馬身差で制したトウキール(Tawkeel 父テオフィロ)などがいる。トウキールは現在シーザスターズ産駒を身ごもっている。
一方、フランケルはポモーヌ賞(G2)優勝馬でバーイードと同じく「父シーザスターズ-母父キングマンボ」の組合せで生産されたラービアーと交配する。ラービアーはドバウィ産駒を身ごもっている。また繁殖1年目のリステッド勝馬ザンバック(Zanbaq 父オアシスドリーム)もフランケルのもとに送られる。ザンバックはピュイサンスドリュンヌ(Puissance De Lune)、リジーナ(Rizeena)、ザビールプリンス(Zabeel Prince)がいる素晴らしい牝系に属している。
ハムダン殿下の死後にシャドウェルの事業はスリム化されているのかもしれない。しかし、初年度から生産者のあいだで人気を博すことが確実なバーイードとミンザール、モハーザーやタスリート(Tasleet)のようなランキングで浮上しつつある種牡馬、そして多くの優良繁殖牝馬の傑出した才能を自由に使えることで、明るい未来が待っていると言えるだろう。
By Martin Stevens
(1ポンド=約160円、1ユーロ=約140円)