アジア競馬連盟(Asian Racing Federation)の会長であり香港ジョッキークラブ(HKJC)のCEOでもあるウィンフリート・エンゲルブレヒト⁼ブレスゲス氏は、アジア大陸の一部地域の競馬の将来を憂慮している。
アジアの特定の地域において、競馬離れが進む中でこのスポーツの将来への懸念が高まっている。シンガポール・マカオ・マレーシアのような地域では、競馬は何世代にもわたって社会構造の一部だった。
競馬は中東で力強く成長し続けており、ほかにも日本・香港・韓国などで盛り上がっているようだ。実際、極東の競走馬の質はかつてないほど向上しており、日本のイクイノックスと香港の傑出馬ゴールデンシックスティが現在の世界ランキングの1位と2位を占めている。
しかし、ほかの地域ではこれほどバラ色の状況ではない。シンガポールは最近、2024年10月に競馬を終了させることを発表した。またマカオは見るからに経営難であり、マレーシアも一般の人々からの人気を維持するのに苦労していると言われている。
ブレスゲス氏は、シンガポールでの競馬終焉による余波、とりわけ動物愛護の観点から「個人的には、深い失望を抱いており大きな後退であると思っています」と懸念を語った。
「シンガポール政府の決定は尊重しなければなりません。彼らは明らかに競馬を存続させることに価値を見いだせずにいて、競馬場以外の目的に利用する方が良いと考えているのです。それゆえ私としましては、シンガポール政府の決定は彼ら次第ですのでコメントするつもりはありません。しかしまだやっていけると考えられていた競馬開催国が失われることに違いはありません。5億5,000万シンガポールドル(約605億円)あるいは5億2,000万シンガポールドル(約572億円)ほどの黒字は出していたと思いますが、シンガポール政府次第ということなります」。
シンガポールにおいて競馬は1842年に始まった歴史あるスポーツだが、2024年10月5日の第100回グランドシンガポールゴールドカップをメインとする競馬開催が最後となる。
シンガポールの財務省と国家開発省は競馬終了の理由として、都心から北西に14マイルという立地のクランジ競馬場(シンガポールターフクラブ所有)の"将来世代のための土地利用"と"入場者数の減少"を挙げている。
しかしブレスゲス氏は、シンガポール政府の関係部局は、とりわけクランジで調教されている700頭をはじめ、引き起こされるすべての影響について認識していなかったのではないかと考えている。
「一定期間にこれだけ多くの馬を移動させることの難しさは、政府の人々が考えていたよりもやや複雑なのかもしれません。この決定は多くの人々の生活を動揺させています。私は動物の福祉について懸念を抱いています」。
ブレスケス氏は全頭を別の競馬管轄区に移動させることに関しては、生産国への送還は容易ではないと心配している。香港が受け入れ先の候補地として挙がっているが、その可能性も低そうだ。
「確かな実力をもつ馬もいるかもしれませんが、香港では馬主制度により、それらの馬を受け入れるのは少し難しいと思われます。マレーシアに馬を送ることで解決できると考えられていますが、マレーシアの競馬産業の健全性に対して私たちは懸念を抱いています」。
マカオジョッキークラブ(Macau Jockey Club:MJC)が運営する競馬の将来についてはどうだろうか。競走馬は200頭まで減少し、調教師は12人しかおらず、スタッフ削減を余儀なくされている。不名誉にも1カードに5競走しか施行していない(訳注:マカオ政府は1月15日、MJCと結んでいた競馬開催の契約を4月1日をもって解除すると発表)。
ブレスゲス氏は、香港ジョッキークラブ(HKJC)からの救済策や経営面での支援の可能性については否定した。「私たちが焦点を合わせている地域ははっきりしています。それは香港と中国本土のグレーターベイエリアであり、マカオではありません」。
By JA McGrath
(1シンガポールドル=約110円)
[Thoroughbred Racing Commentary 2023年12月15日「Asian racing supremo raises animal welfare concerns as Singapore prepares to shut up shop in 2024」]