競馬の将来に投資すること、そしてサラブレッドの競馬と生産を促進することに関して、米国ジョッキークラブ(The Jockey Club:TJC)は競馬において現在最も重要な問題の多くで指導的立場を取っている。
2月20日発表の年次報告書「ジョッキークラブ2024年産業影響報告(The Jockey Club 2024 Industry Impact Report)」を熟読すれば、そのメッセージは明らかだ。
2010年以来、TJCはサラブレッド産業に1億ドル(約150億円)以上を投資してきた。今年は少なくとも700万ドル(約10億5,000万円)を投資し、馬の安全やアフターケアから産業振興や国内外での協力関係にいたるまで、さまざまな取組みを支援する予定である。
TJCとサラブレッド馬主・生産者協会(TOBA)は競馬産業の出版物である本誌(ブラッドホース誌)の共同所有者なので、もちろん本誌はこの話題について中立な立場を取ることができない。しかしこの報告書(全8頁)を熟読した多くの人々は、TJCのコミットメントの広さを知ることになるだろう。
TJCの理事長兼COOであるジム・ギャグリアーノ氏はこう語った。「TJCが支援している取組みは、TJCが他団体とともに、あるいは単独で全面的に後押しする形で、ここ1年半で大幅に増加しています。これらは理事会のコミットメントを反映したものです。競馬を発展させ参加者の安全と福祉を確かなものにするための契機となる多様な計画や活動に、利益を投入しています」。
投資してきた1億ドル(約150億円)はサラブレッドの健康・安全・福祉の向上に充てられており、「顧客調査」、「マーケティング」、「TV放映」、「人材育成」、「競馬と生産に関するルールを他国と調和させる取組み」にも拠出された。
それらのマーケティング努力には目を引くものがある。これまで以上に競馬のマーケティングは強く求められている。全員ではないが、多くの競馬場オーナーが競馬を促進するよりもそのカジノタイプの施設を宣伝することにいっそうの関心を抱いているようだ。この傾向が一因となり、全米サラブレッド競馬協会(NTRA)に配分されるマーケティング費用は削減され、NTRAの全米で競馬を売り込むための取組みは終わりを迎えつつある。その空白、少なくとも空白の一部を埋めるために、TJCがどれほど介入してきたかを報告書は明らかにしている。
- 本誌のウェブサイト(BloodHorse.com)で記事や動画を公開しているアメリカズベストレーシング(ABR)は、米国で唯一競馬を継続的に支えているマーケティングキャンペーンである。ABRはソーシャルメディアで大きな存在感を示しており(40万フォロワー。その80%が44歳以下)、有名馬主が出演する動画を組み込むなどの取組みを通じて、豊かな特色をもつ競馬というスポーツの舞台裏にファンがアクセスできるようにしている。
- TJCは全国TVネットワークでの競馬中継を増加させる立役者となっている。競馬中継は2011年の年間40時間から1000時間以上へと25倍増加する。ABRがNYRA(ニューヨーク競馬協会)とブリーダーズカップ開催のスポンサーとなることで、NBCとFOXスポーツネットワークで競馬中継が1000時間に達することになる。
- TJCは、ほかのスポーツではスタンダードになっている高画質信号へビデオシステムをアップグレードするために、競馬場に補助金を提供している。
- 競馬にファンをひきつけるだけでなく、TJCとTOBAは2012年にオーナービュー(OwnerView)を立ち上げ、会議を開催したり、既存の馬主や馬主になろうとしている人たちに向けた情報サイトを提供したりしている。オーナービューは2023年に会議を11回開催し、「会計や税金の問題」、「馬の譲渡」、「経営計画」、「セリでの馬の購買」などさまざまなトピックを扱った。
TJCは以前から毎年8月に実施されるジョッキークラブ円卓会議(ニューヨーク・サラトガスプリングスで開催)で、TJCの取組みに関する情報を共有してきた。しかしここ数ヵ月、ソーシャルメディアなどで競馬団体に説明を求める声があがっていた。TJCはこの2024年の報告書から、毎年早い時期に年次報告書を発表する予定である。これは確かに一読の価値がある。
By Frank Angst
(1ドル=約150円)
[bloodhorse.com 2024年2月20日「Dollars & Sense: The Jockey Club's Commitment to Racing」]