ケンタッキーダービーウィークにチャーチルダウンズ競馬場の厩舎地区を歩いていると、偶然にもケンタッキー州馬教育プロジェクト(Kentucky Equine Education Project:KEEP)で訪問している州議会議員のグループに出くわした。
彼らは私に、ケンタッキー州の競馬と生産に追加的な資金をもたらしたゲーム機ヒストリカル・ホースレーシング(HHR)の成功について総括するよう頼んできた。そこで私は、競馬産業がケンタッキー州を世界に認めてもらうのに役立っていること、農業と関わりの深い産業として緑地をもたらし観光客を引き寄せていることに言及した。しかし最も重要な恩恵である"雇用"について触れることも忘れなかった。
雇用は競馬産業と生産界の大きなセールスポイントであり、アメリカン・ホース・カウンシル(American Horse Council: AHC)の『2023年米国馬産業の経済効果調査報告書(Economic Impact Study of the United States Horse Industry)』でもそれは強調されている。その日の朝に指摘したように、従来のカジノはHHRと同様に州に一定の資金をもたらしているのかもしれない。しかし私たちの産業はカジノとは違って、大規模な雇用効果をもたらしている。
AHCが競走馬に関する項目で触れているように、そしてすべての馬主や生産者が実感しているように、競走馬は生産・健康管理・調教に多額の費用を要する。現役生活でかかる費用には、保険料・治療費・装蹄費・騎手への手当などがある。また、競馬場と牧場のあいだを移動する際の輸送費や、厩舎にいないときの外厩への預託料もかかる。競走馬には特別に配合された飼料や消耗品も必要である。競馬主催部門においても、専門的なサービス業者に多額の料金を間接的に支払っている。
出走馬関係者は皆、とりわけ請求書が届いたときに、「もっと簡単な方法があればいいのに」と思ったことがあるだろう。しかし、これは賞金による報いを期待して自発的に行われる投資なのだ。競馬界全体にとって朗報は、彼らが支払ったあらゆる料金が雇用に結びついているということだ。
AHCの数字は驚くべき事実を物語っている。競馬主催部門(大半がサラブレッド競走だがほかの馬種の競走も含まれる)は31万2,000人以上の雇用を支えており、米国の経済に160億ドル(約2兆4,800億円)もの直接価値を加えている。これらの直接的な効果はさらに200億ドル(約3兆1,000億円)の付加価値を経済にもたらしており、間接的・誘発的な作用によりおおよそ17万9,000人の雇用を生み出している。
カリフォルニア・ホースパワー連合(California Horse Power Coalition:CHPC)やサドルアップNY!(SaddleUpNY!)などの団体が、AHCの調査報告書や団体独自の調査結果から出された数字を宣伝するのを目の当たりするのは素晴らしいことだ。CHPCは、馬のエコシステム(競馬・競馬以外の活動)がカリフォルニア州の経済に総額116億ドル(約1兆7,980億円)をもたらしていること、州のGDPに65億ドル(約1兆75億円)の直接的な貢献をしていることを報告した。サドルアップNY!は、ニューヨーク州のサラブレッドとスタンダードブレッドの競走主催部門だけで30億ドル(約4,650億円)の経済効果と1万9,785人の雇用効果をもたらしたと報告している。
AHCのジュリー・ブロードウェイ会長は、「経済効果調査報告書はAHCが馬産業を擁護する手段において、効果的なツールになっています。馬産業がある問題に対して照準を定める必要があるとき、馬産業の貢献度とその構成の広さと厚さを描きだすうえで、このデータは計り知れないほど貴重です」と語った。
By Frank Angst
(1ドル=約155円)
[bloodhorse.com 2024年5月14日「Dollars & Sense: Strength in Racing's Job Numbers」]