海外競馬情報 2024年05月20日 - No.5 - 4
クラシック競走の制覇に2歳時の競走成績は無関係か?(イギリス)【開催・運営】

 「キング・オブ・スポーツ」とも呼ばれる競馬は、苦もなく記録できるようなものではない。パターン競走は春から初夏にかけて我々を導いてくれるように整備されているのだと思ったとたん、その構造は砂上の楼閣のように崩れ落ちてしまう。

 去年の今ごろ、オーギュストロダンが英ダービー(G1 エプソム)で勝利を収め、英2000ギニー(G1 ニューマーケット)での衝撃的な"もがきぶり"を埋め合わせたときもそうだった。2000ギニーは最高のダービートライアルとして宣伝されてきたので、究極の楽天主義者にかぎってはオーギュストロダンをダービーの大本命として検討できたのだろう。ダービー制覇はこの馬の評価を正当化するものだったが、困惑を招くものでもあった。

 昨年のダービー戦線は奇妙なものだった。トライアルレースで勢力図は移り変わったが、町でもっぱら話題となっていたのは、オーギュストロダンの精彩を欠いたパフォーマンスは1回きりのことだったのだろうかということだ。そして彼はこの問いに対し高らかに「Yes」と答え、石に刻まれ込まれたごとく堅く確立されたパターンに逆らったのだ。

 私の記憶では、前哨戦として2000ギニーを使ったダービー馬はすべて、ニューマーケットで立派なパフォーマンスを見せていた。キャメロット・シーザスターズ・ナシュワン・ニジンスキー・サーアイヴァー・ロイヤルパレスは勝利を収め、ニューアプローチ・サーパーシー・グランディ・ロベルト・ミルリーフは2着に入り、マサー・オーストラリア・ザミンストレルは3着となっている。またジェネラスは4着だった。2000ギニーで頓挫したあとにダービーを制した最後の馬を見つけるには、あらゆる記録をたぐり寄せ1961年のシジウム(Psidium)まで遡らなければならなかった。

 だが、1年が経って私たちはまったく同じ問いに直面している。シティオブトロイは2000ギニーでの不甲斐ない走りから立ち直って、エプソムで勝利を収めることができるのだろうか?また、62年間見られなかった稀有な閃光は2年連続で放たれるのだろうか?

 ここで私がその問いの答えを見つけるべく格闘するなどとは考えないでいただきたい。評論家というものは、このような未知の事柄に取り組まずして、人の面目をいつも失わせているのだ。私たちにできるのは、目の前にある事柄を受け止め、理解するよう努めることだ。それが問題の出発点となる。

 エイダン・オブライン調教師が手掛ける馬は、ギニー競走の前に実力を発揮しそこなっていた。しかし、それは今に始まったことではない。ギニー競走はこの厩舎の馬が迎える新たなシーズンの幕開けを示している。ただそれ以上に、所属馬のダービートライアルでの成績はまったくバラバラだった。

 5月12日(日)までに的を射抜いたのは、ディーS(L 5月9日)を制したキャプレットだけである。同じ厩舎のアジェンダ・チーフリトルロック・シティオブトロイ・ギャスパーデレモス・グロスヴェナースクエア・イリノイ・オーシャンオブドリームス・ポートランド・ザユーフラテスはトライアルレースを勝ち損ねた。

 その後、「オブライエン調教師がシティオブトロイを全力で支持することはないだろう」と思われた矢先、ロサンゼルスとユーフォリックがレパーズタウンでワンツーフィニッシュを決めた。結局、バリードイル(クールモアの調教拠点)が"すっからかん"ということはないのだろう。

 それでも、バリードイルの3歳馬の中でどの馬が最強なのかを予想する勇気のある人はいるのだろうか?オブライエン調教師がダービーに出走させる馬には一頭として安心して"消せる"馬はいない。近年でも、サーペンタイン・ウィングスオブイーグルス・アンソニーヴァンダイク・ルーラーオブザワールドは人気を集めていた同厩舎馬を退けてダービーの栄冠をつかんだ。

 私たちはこの問題を受け止めるが、心の底から理解したわけではない。それにギニー競走が記憶に残りつつも、エプソムのクラシック競走は近づいている。昔から言われているのは、2000ギニーは2歳シーズンの最終戦のようなものだということだ。ダークホースが勝つことがめったにない。しかし今年は違った。2000ギニー優勝馬ノータブルスピーチは2歳時未出走で芝レースの経験がなかった。1000ギニー優勝馬エルマルカもよく似ていて11月にオールウェザーでデビューしたばかりだった。

 クラシック競走を勝つ馬のプロフィールが様変わりしつつあるのは間違いなく、それは英国だけにかぎらない。1990年代にゴドルフィンが戦績の少ない3歳馬にケンタッキーダービー(G1)を勝たせようとしたが、米国人たちはその試みを嘲笑し、2歳時にたくさん走った馬だけがそれを成し遂げられるのだと主張した。今はそうではない。過去7年のケンタッキーダービー優勝馬のうち5頭は2歳時にこれと言った成績を残しておらず、2頭にいたっては2歳時に出走経験すらなかった。

 変更されつつあるグランドナショナル(エイントリー)のことで頭がいっぱいの人々は同じような話をし、レースは以前のものと全く違うと主張するが、こっちのほうが理解しやすい。コース・競走距離・出走頭数・障害の硬さが変更されることによりグランドナショナルは豹変し、まったく異なる試練となっている。由緒ある平地のクラシック競走についてはそのようなことはない。

 エプソムのクラシック競走に関しては、2歳時の堅実な競走成績が必要条件とならなくなって久しい。実際、年月が経つにつれて、2歳の競馬番組全体がますます無関係なものになっているように思える。もしそれが真実だとすれば、競馬を記録する者にとって読者を惹きつけることはますます困難になるだろう。

 雲の中から時おり現れてクラシック競走を勝つような馬には魅惑的なクオリティが備わっている。しかし競馬ファンや馬券購入者にとってそれが当たり前になると、伸縮性のあるゴムは無限まで伸びる。そして理解不能となるのだ。

 5月16日(木)のダンテS(G2)ではシティオブトロイのダービー大本命という地位を奪う馬が出てくるかもしれない。しかし現時点でもっとも魅力的なトライアル勝馬はアラビアンクラウンだ。クラシックトライアル(G3 サンダウン)において、2歳時に堅実な成績をあげてきたマクダフを撃退したのだ。ただこの思考パターンには懐具合への警告が伴うはずだ。

 2歳時の競走成績が無関係となっているなら、昨年のロイヤルロッジ(G2)で追い込んで4着に健闘した馬をアラビアンクラウンが翻弄したという事実は、太鼓判どころか、むしろ人を惑わすような情報となるかもしれない。結局のところ、再調整を要する旧態依然とした考え方に等しいのかもしれない。必要なのは、正しい方向に導いてくれる助けの手だけなのだ。

By Julien Muscat

[Racing Post 2024年5月13日

「Old-school thinking might be best left in the past when it comes to finding a Classic winner」]